尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「自治体の4割が自衛隊に個人情報提供」

2019年02月15日 23時19分14秒 | 政治
 2月10日に行われた自民党大会で、安倍晋三総裁(首相)が「都道府県の6割が自衛隊員募集に非協力」という趣旨の発言をした。だから憲法改正が必要なんだと。このニュースを最初に聞いたときは、こういうことを平気で言っちゃう首相の感覚に改めて驚いた。47都道府県のほぼすべてが自民党系の知事だ。まあ、よく考えたら東京も大阪も「非自民」なんだけど、小池都知事なんか元防衛相である。自民党政権と「対立」している知事は沖縄の玉城知事ぐらいしか思い浮かばない。常識で考えれば、この数字はおかしいと感じるんじゃないだろうか。

 案の定、実は都道府県ではなくて市町村の問題なのだという。これだけで本来ならアウトだと思うが、まあこれは単純ミスということにしておこう。その後のマスコミ報道や国会質疑でだんだん判ってきたけど、市町村としても大間違いだった。首相の言う「4割」というのは、自衛隊に対し紙か電子媒体で対象者の名簿を提出している自治体だそうだ。それが36%(632自治体)。他の自治体のうち、約5割(53%、931自治体)は自衛隊に住民基本台帳の閲覧を認めている。自衛隊員が台帳を基に書き写しているという。それを「非協力」と安倍首相は今もなお主張している。
 
 そもそも自衛隊は何のために住民の情報を求めるのか。それは新規の隊員募集のためで、18歳と22歳の住所、氏名、生年月日、性別を市町村から入手している。それに基づき、対象者にダイレクトメールを送ったり、戸別訪問をしたりするという。ところで名簿提出も閲覧もしてない「残り1割」の自治体とは何だろう。全国の自治体は東京23区を含めて、1741ある。そのうち離島や山間部の自治体には、高校がないところが多い。高校生になる時にいったん地元を出なければならないのである。そういう小規模な自治体には18歳人口がいない(非常に少ない)わけだから、初めから自衛隊側も情報を求めていないらしい。それが残りの1割だろう。

 自衛官の採用ポスター掲示など募集業務に協力してない自治体は、全国で5つだという。(15日の岩屋防衛相答弁、2.15付東京新聞夕刊。)これは全国の自治体の0.3%程度で、この数字が正しい数字なのである。自衛隊が自治体に情報を求めることに関しては、自衛隊法住民基本台帳法に根拠がある。住民基本台帳法には以下のような条文がある。「国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳(中略)を当該国又は地方公共団体の機関の職員で当該国又は地方公共団体の機関が指定するものに閲覧させることを請求することができる。」(第11条)

 以上を見ると、自治体が自衛隊に閲覧させることは法的に認められているが、名簿等を提出する義務はない。国の「個人情報保護法」は民間事業者を対象にしていて、国や自治体に関しては対象外だ。だがそれぞれの自治体には、情報保護の条例等があるはずだ。恐らくはそれに基づき、名簿等の提出は行っていない。自衛隊が違憲かどうかには何の関係もない。自民党の改憲草案が認められて、自衛隊が「国防軍」になったとしても、出せないものは出せない。自衛隊に限らず、国や自治体の機関であっても、名前や住所を自治体が他に流していいわけがない。首相の主張を正しく言うなら「自治体の4割近くが、個人情報を自衛隊に渡している」のである。

 しかし、閲覧して書き写すのは、人口が多い政令指定都市の場合などは大変だろう。だから京都市などは「宛名シール」で対応しているという。自衛隊がシールを持ってきて、市が印字して渡す。名簿と違って、郵送に使ってしまえば残らない。コピーは取らない約束だそうだ。これは個人情報に配慮しつつ、自衛隊に協力するという市の意向なんだろうけど、何か本質的に間違っている気がする。それは「自衛隊が直接各家庭にダイレクトメールを送る」ということへの問題意識がないということである。どの国家機関、自治体だって、自衛隊以外にはそんなことをしてないだろう。

 自衛隊だって、生徒からすれば多くの就職先の一つだ。他の国家・地方の公務員、民間企業、大学などと一緒じゃないか。自民党政権が好きそうな「自由競争」で人材を集めるべきではないのか。それで集まらないというなら、その原因こそ考えないといけない。首相は「地方自治体から要請されれば自衛隊の諸君はただちに駆け付け、命を懸けて災害に立ち向かうにもかかわらずであります」と述べている。しかし、自衛隊は災害救助隊ではない。自衛隊の任務に災害救助は入ってない。それは首相も知ってるはずだ。自衛隊法を見れば一目瞭然である。災害派遣の根拠法規はどこにあるのか。関心のある人はネットで自衛隊法を検索して確かめて欲しい。

 僕は元高校教員として、高校卒業生に自衛隊に進んで欲しいとは思っていない。それは憲法違反だからとかそういう問題ではない。それは自衛隊という存在そのものをどう考えるかの問題である。それと「生徒の進路先」の判断は別だ。自衛隊にはいじめやパワハラの報道が多い。実際の訓練がカッコいいだけのはずがない。そういう意味で「ブラック企業」に近い。それに労働組合がない。教員や自治体職員には争議権はないけど、団結権はある。組合など無いに決まってる中小企業に就職する生徒もいるが、個人で地域の労組に入るのは自由だ。でも自衛官は法律で団結権が禁止されている。ヨーロッパには労組ではないが、それに近いものを認めている国もある。そういう改革こそまず必要ではないだろうか。
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