尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「自治」を「自治的」に廃止できるかー「大阪都構想」もう一度

2015年05月13日 21時34分46秒 | 政治
 民主主義には「民主主義を民主的に廃止できるか」という難問がある。ナチスだって、過半数ではないにせよ、選挙で国会の第一党になったことによりヒトラー内閣を実現したわけである。さて、「大阪都構想」なるものをもう一回書いておきたいんだけど、今回は「自治を自治的に廃止できるのか」という問題を突き付けている気がする。まあ、都構想で賛成が上回ったとしても、大阪府も、新設される5つの特別区も、民選首長と民選議会を持つのだから、「自治を廃止する」というのは間違いだと言われるかと思う。その通りだけど、「大阪市」という「政令指定都市」は解体されてしまえば、今の法体系の下では二度と復活できない。現行の地方行政で、地方都市が一番大きな権限を持つのは「政令指定都市」だから、それを自分たちで放棄してしまおうというのは、やはり一種の「自治の廃止」に近い。

 僕がこの問題を何回か書くのは、「維新」という特殊な政治勢力の盛衰が日本全体に大きな影響を与えること、また、この間「維新」が進めてきた大阪の「教育破壊政策」に大きな危機感を持ったことなどもある。しかし、最大の理由は、自分が東京の「特別区」制度に問題意識を持ち続けてきたからである。もし、東京で「東京市廃止」の住民投票が行われていたならば、「反対」の票を入れただろう。だけど、戦時中の強権体制下に実施された「都制」=「東京市廃止」は、住民投票もなければ、全市民の議論もろくになかったと思う。自分が生まれた時には、もう動かしがたい制度になっていて、区長も選挙ではなかった。(1975年から区長公選は実施されている。)

 その意味では大阪市民がうらやましい感じもする。賛否の投票を自分でできるのだから。基本的には、大阪市民は都構想を否定するべきだと思うのだが、僕にはどこか「大阪も東京と同じになってみればいい」という考えもある。大阪都構想など単なる思い付きで、住民には何の得もなかったとはっきりすれば…。もう一回「大阪市に戻れる制度」を作れと言う声が上がることだろう。今、200万以上の政令指定都市(周辺地域を含めた人口でも可)は、市を廃止して特別区を置けると言う特例法が出来ている。「維新」の要望で、国会で出来たのである。大阪だけではなんだから、他の都市でも同じことができる制度になっている。だから、その法律の中に、逆に「特別区を廃止して政令指定都市になる」規定を新設すればいい。その場合も、大阪だけではなんだから、もっと一般的な規定になるだろう。それこそ、「東京都を廃止できる絶好期」ではないか。という風に、大阪市民の犠牲のもとに、東京都民にも適用可能な新制度を求めたい気持ちも起きてしまうのである。

 各新聞の世論調査では、各紙とも「反対が上回っている」ようである。実際にどのようになるかは、当日までに実際にどのくらいの人が投票に行くかということにかかっている。実際に行くと答える人の中では、賛否がより拮抗するらしいから、結果は予断を許さない。橋下市長のことだから、自民や公明の支持者に、投票に行かないように働きかけているのではないかと思う。今回の結果に関わらず、将来的に橋下氏が国政、特に衆議院選挙に出馬する可能性は高い。上西小百合の選挙区が空いたとはいえ、まあやはり「維新の候補が今までにいない選挙区」=「公明党が当選している小選挙区」から出るぞという「脅し」、つまり反対なら反対でいいけど、反対投票に行けと言う運動は積極的にするなという「裏取引」をすれば、大分反対票が減るだろう。

 もう一つの「ウルトラC」(これは死語かも知れないが)、安倍首相または菅官房長官が投票直前に「都構想」賛成を打ち出すという可能性もある。明言はしないけど、今後の国会審議で安保法案に「維新」が賛成するというシナリオである。ただし、それにも関わらず反対票が勝利すれば、意味がなくなる。世論調査の結果などを慎重に検討しているのではないかと思うが、反対票が勝つ可能性を高いと見込めば、官邸は結局関わらないことになるだろう。最後に何か仕掛けられる可能性は考えておいたほうがいい。

 橋下氏は「反対」が多ければ、政界引退などと言っている。ただし、大阪市長の人気は全うするようだが。そうすれば「維新」なる勢力は雲散霧消するかもしれない。だけど、僕はそんなことは信用していない。必ず、衆議院選挙に出てくる。衆院選の前に、2016年7月の参院選に出る可能性もあると踏んでいる。本人がどう思おうと、「大阪の同志」は橋下氏の出馬を待ち望むだろう。出てこないわけにはいかなくなる。かつての大阪府知事選の時と同じく、前言を翻して立候補である。そして、「自民と共産が野合して、都構想をつぶされた」「大阪を救うには、中央政治から変えないといけない」「だから、自分は中央政界を大掃除して、大阪を救うんです」などと吹きまくる。そういう事態が起きると予想できるだろう。

 「二重行政」と言い募っているが、松井知事も、橋下市長もそろって、都構想賛成に向けて協力しているではないか。松井知事と橋下市長のコンビでも、必ず二重行政が起きるのだろうか。現に、両者は相協力してやってきたのではないか。今後も、知事と市長が協力してやってけばいいだけのことではないのか。一体、何のための議論なのか、僕には不可思議だが、ともかく大阪はこの問題で数年間振り回されてきた。東京新聞(5月1日付)には、自民党市議団幹事長・柳本顕氏のインタビューが掲載されている。そこでは「共産党などとの共闘が維新側に批判されているが。」と問われて、「共産など他党との協力にはわれわれ自身も違和感があるが、維新、橋下さんという大きな敵がいるから仕方ない。宇宙人が攻めてきたら、地球での戦いを中断して地球防衛軍にならないといけないのと同じだ」と語っている。この、宇宙人が攻めてきたら地球防衛軍を作らねばという言葉に、納得感があるのである。それはよく判ると僕は思う。大阪市の行政をどうするかでは意見が違っても、大阪市そのものをなくすのは反対という点では一致できる人が多いのではないか。そして、今までの維新の議論の進め方が乱暴なのではと思う人も。
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