尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

死刑のない国の話-ノルウェイとモンゴル

2012年06月10日 22時36分49秒 |  〃 (冤罪・死刑)
 ワールドカップのアジア最終予選もあるけど、ヨーロッパ選手権(EURO2012)も始まっている。19日まで毎日4グループに分かれたリーグ戦をやっているが、テレビはWOWOWなので、見れないで残念。ヨーロッパでは、スペイン金融不安も深刻化して、公的支援をあおぐことになった。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに続くもので、これがまさに「PIGS」になってしまった。ギリシャ再選挙も迫ってきて、たかが「球蹴り」にうつつを抜かしていていいのかと思わないでもないけど。でも、開催国がポーランドとウクライナというんだから、東欧革命、ソ連崩壊から20年たって、そういうことが可能になったのである。

 さて、ちょっと旧聞になるけど、ノルウェイの水泳選手、昨年の世界選手権男子100m平泳ぎで金メダルを取ったダーレオーエンが4月30日にアメリカで高地訓練中に急死するということがあった。ロンドン五輪でも北島康介の最大のライバルになるのは間違いなく、ノルウェイに五輪初の水泳金メダルをもたらすことが期待されていた。ところで、去年上海の世界水泳で金メダルを取る直前に、ノルウェイでは排外的な極右青年による爆弾、銃撃テロ事件が起こっていた。爆弾で8人、銃撃で69人が死亡し、合わせて77人。ノルウェイで第2次世界大戦(ナチスドイツの侵略を受けた)以後の、最大の悲劇である。金メダルを取った時、ダーレオーエンはメダルを母国の人々に捧げ、「僕たちは団結している必要がある」と語った。スポーツがこのように悲しみの中にある母国の人々を励ます力になるということは、われわれ日本人も「なでしこジャパン」の活躍によってよく判っていた時期だったから、彼の言葉は心に残ったのである。

 さて、その犯人の1979年生まれの青年は、精神鑑定を経て責任能力ありとして今年3月に起訴、4月から裁判が始まっているが、全く反省の様子を示していないということが時々新聞の片隅に載っている。ちなみに、この犯人は移民に寛容なノルウェイの政策に反感を持ち、「多文化主義に批判的な日本と韓国」を賛美していたらしい。では、この犯人は(冤罪可能性はないので)責任能力が認められたとして、一体どの程度の刑罰になるのだろうか。もちろんノルウェイに死刑はない。それどころか、(仮釈放のない)「終身刑」や(仮釈放可能性のある)「無期懲役」もないのである。最高刑は「禁錮21年」というのだから、これには僕もちょっとビックリした。

 調べてみると、「無期懲役刑に関する誤解の蔓延を防止するためのホームページ」というホームページを作っている人があり、その中に「各国の刑罰体系」という一覧表が掲載されている。確かにノルウェイは最長21年である。その表を見てみると、死刑を廃止したヨーロッパ諸国でも、仮釈放のない無期刑、仮釈放のある無期刑をおく国がほとんどである。全部なくて有期刑だけの国には、ポルトガル(25年)、セルビア(40年)、キルギス(30年)、スペインとメキシコは「無制限」とあるが、「収容上限40年」とある。ブラジルは似ているが「収容上限30年」。刑罰上限が無制限だということは、被害者が多いと「100年」なんて言い渡しもできるのか、よくわからない。収容上限があるんだったら、事実上最高刑は40年ということではないのか。

 ノルウェイは人口500万人にも満たない北欧の寒い国で、日本とは社会の様子は大分違うだろう。社会は安定して、犯罪発生率も低いだろう。この国の「寛刑政策」は最近日本でも森達也氏などが触れていて、僕も読んだけど、今は詳しく覚えていない。ノルウェイではさすがに「死刑復活」とまではいかなくても、「終身刑」を作れと言う議論は出ているようである。今後どうなるかは判らないが、「法の不遡及の原則」から今回の事件では適用できないはずである。僕も「最高刑21年」というのは、「軽すぎる」のではないかと思う。死刑の問題とは別で、刑罰には「応報」的側面を全くむしはできないから、その社会である程度「長い期間の拘束」と思う最高刑がいるだろう。もちろん「21年」は実際に刑罰を受ける身には長いだろうが、高齢化、晩婚化が進んでいる日本では、例えば22歳で犯した犯罪で満期を務めて43歳で出所。昔は「青春のすべてを監獄に奪われた」という感じで、もうすぐ初老に近づくイメージだけど、今は40過ぎまでブラブラしていたなんて、まあ確かに少し遅い感じもあるけど、そんな珍しくない。男の結婚なんかだったら全然不思議ではない。社会がそういう風になってしまっている。

 ちなみに、僕は死刑廃止論者だけど、「無期刑廃止論者」ではない。そういう主張をしても通る可能性がゼロだと思うけど、そうではなくて「犯罪の程度がとてもひどく、社会から隔離しておく必要がある人間」がいないとは思えないのである。「やり直しができる社会」を目指すべきだと思うけど、「どんな犯罪者も社会に復帰できるはずである」とまで言い切ることは出来ないと思う。

 ところで、世界で死刑廃止(または死刑はあるものの軍法会議のみ、及び死刑の執行がずっと停止している国)の国は、ヨーロッパやラテンアメリカの国が多い。東アジァから西アジア一帯の地域はほとんど死刑がある国になっている。その理由は何か、さまざまな考え方があると思うけど、ここでは触れないことにする。その中で、3月13日にモンゴルが死刑廃止条約に加入した。アムネスティが「死刑統計2011」を世界一斉に発表した際、日本での記者会見には駐日モンゴル大使が同席した。他にも以前からカンボジアやスリランカが死刑廃止国であるのは、「仏教と死刑廃止」というテーマを考えるべきだということを示している。モンゴルと言ったら、チンギス・ハンと羊と大相撲の力士くらいしか思い出さないと思うけど、アジアでも死刑を廃止するという「先進国」でもあるのだ。
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