尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』

2022年10月06日 22時51分09秒 |  〃  (新作外国映画)
 映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』(Meeting The Beatles in India)という映画をやっている。もう題名通りのドキュメンタリー映画である。1968年にザ・ビートルズの面々がインドを訪れ、マハリシ・ヨーギーのアシュラムでメディテーションを行った。これは非常に有名な出来事で、「激動の60年代」に悩む若者たちに「精神世界」ブームをもたらした。その時、同じ場所にカナダのポール・サルツマンという23歳の青年が滞在していた。彼は皆と仲良くなって写真を撮ったけれど、帰国した後はすっかり忘れていた。その後、彼の娘が写真を再発見して、今では広く知られている。そして、近年になってサルツマンはイギリスやインドを訪れて、彼らと出会った半世紀前を振り返る記録映画を製作したのである。

 僕はザ・ビートルズのコアなファンとは言えないけれど、もちろん同時代人だから良く知っている。彼らの解散は中学3年の時で、一応解散前から知っているのである。だから、好きな曲、知ってる曲を挙げろと言われれば、何十曲もスラスラ言える。しかし、この映画はむしろファン以外の人に見て欲しくて書こうかと思った。ドキュメンタリー映画として非常に優れているというわけではない。むしろこの半世紀の「精神史」を理解するために見て欲しいのである。
(サルツマンが撮った有名な集合写真)
 60年代から70年代に掛けて、世界が本当に大きく変わった。政治的な変革を求めた60年代の「挫折」の後に、精神世界、身体性、「第三世界」などの「ブーム」がやってくる。全世界ではないだろうが、「西側先進諸国」では大体そのような流れがあった。そのことは最近では真木悠介気流の鳴る音』を論じた時にも触れた。当時の「精神世界」ブームは、インチキもあれば体制補完のための利用もあったと思う。でも21世紀になって「新自由主義」や「新冷戦」の厳しい時代を生きる世代にも引き継ぎたいと思うのである。この映画はそういう意味があるから若い世代に見て欲しいのである。
(ポール・サルツマン)
 よく知られていることだが、最初にインドに惹かれたのはジョージ・ハリスンだった。そして他の3人も呼んだのである。アシュラム(僧院)があったのは、リシケシュという場所である。どこだか知らなかったけど、インド北部、ガンジス上流の人口10万ほどの観光地。ガンジス河畔だけど、ここまではかなりの急流。サルツマンは時代の流れでインドに憧れ、恋人もいたのにインドへ行ってしまう。恋人からは別れの手紙が来て、失恋の痛みからリシケシュを訪れた。
(リシケシュ)
 そこにはビートルズがいると言われてしばらくは入れないが、やがて真剣さが認められた。他にビーチ・ボーイズのマイク・ラヴ、歌手ドノヴァン、女優ミア・ファローなどもいた。次第に親しくなっていったのは、サルツマンに邪念がなかったからだろう。世界的有名人と親しくなって利用してやろうなどという気が全くなかったのである。自分の失恋が優先だったんだろう。ジョン・レノンは「愛が素晴らしいのは、必ずセカンド・チャンスがあることだ」という言葉を彼に贈った。まさに60年代の神話である。たった8日間のことだったけれど、サルツマンだけが写真を残せたのである。
(マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー)
 映画内でマハリシと呼ばれているマハリシ・マヘーシュ・ヨーギー(1918~2008)はどういう人だろうか。カーストがバラモン出身ではなく、自分の出身地で活躍出来ず、インド各地で修行し知名度を高めていった。50年代末期にアメリカへ進出し、世界的に知られるようになり、ヒッピーの3大グルとされたのだという。他の二人はグルジェフとクリシュナムルティである。しかし、商業的な成功も求めているし、瞑想の科学化を進めるなど危ない部分も多い。

 実際にビートルズの中でもジョージ・ハリスン以外はマハリシから離れた。マハリシがミア・ファローを誘惑したとされる件をきっかけに、ジョン・レノンはマハリシに幻滅して「セクシー・セディ」という曲を作ったという。その辺は僕は詳しくなく、ウィキペディアの記述で知っただけだけど、その件は映画には出て来ない。まあ、サルツマンが撮った写真の時点では、まさに天国的というか「涅槃」というべきか、至福の瞬間が記録されている。帰国したサルツマンはカナダで映画、テレビの監督、プロデューサーとなった。製作総指揮をデヴィッド・リンチ、ナレーションをモーガン・フリーマンが務めている。
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1 コメント

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ヨーギーはすごい有名人になりました (さすらい日乗)
2022-10-07 22:14:01
マハリッシュ・ヨーギーは、アメリカで大変に有名になりました。
ビーチ・ボーイズは、彼らのコンサートで、彼に延々と説教をさせて、観客はうんざりしたそうです。
当然でしょうね。
そのくらい大きな影響があったのですね。

たしか、当時ラジオ関東の番組で、湯川れい子さんが話していて、私は本当にびっくりしたものです。
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