参議院選挙中の6月30日に、音楽・芸能4団体がが自民党から出馬した候補を激励する決起集会を自民党本部で開いた。これに対し、抗議する関係者も出てきたが、この問題をどう考えるべきだろうか。支援したのは、東京選挙区から出ていた新人の生稲晃子(元「おニャン子クラブ」)と比例代表区からでていた現職の今井絵理子(元「SPEED」)である。二人とも当選したが、生稲候補は6人中の5位、今井候補は自民の比例区当選者18人中の15位だった。当選はもともと有力視されてはいたが、決して盤石ではなかったので、この支援は有り難かったのではないか。この問題をどう考えるべきだろうか。
(今井絵理子、生稲晃子)
その前に、今回の比例区での組織内候補の結果を見ておきたい。自民党では、医師会が推す候補の自見英子で21万3千票。3年前の羽生田俊の15万3千弱に比べて大幅に増えている。その理由はよく判らないが、コロナ禍で医師会が自民党に期待することが多くなっているのだろうか。そういう組織もある反面、郵便局長会は20万票、農政連は3万票、遺族会も3万票教減らしている。遺族会はもともと会員の高齢化が進んでいたわけだが、今回は現職の水落敏栄が落選した。郵政票は数々の不正問題が響いたのだと思う。
野党系労組票を見ると、立憲民主党では自治労の推す新人鬼木誠が3年前の岸真紀子より1万3千票余り増やして当選した。しかし、日教組、JP労組、情報労連、基幹労連いずれも、数千票から3万票ほど3年前から減っている。国民民主党でも、電力労連、自動車総連、UAゼンセンが、当選したものの、すべて3年前から減らした。UAゼンセンは5万票近く減らしたが、多くの小売業を傘下に持つだけに、コロナ禍で組織人員そのものが減っているのかもしれない。電機連合も3万票以上減らして4位で落選した。
このように、一部の例外を除き、与野党ともに「組織内候補」は苦労していることが判る。組織が決めればメンバーが黙って投票してくれる時代ではない。しかし、それは以前からずっと同様で、組織人員の1割も得票出来ていない場合がほとんどだろう。それにしても、今回さらに苦労した組織内候補が多かったのは、やはり3年続く「コロナ禍」の影響なんだと思う。この間、大規模な集会などが難しく、全国大会などがオンライン開催になった年もあっただろう。職場でのきめ細かな集票活動もままならない。それは公明党や共産党の得票が3年前より減った一因でもあるだろう。
(ネット上で発表された抗議文)
そのような「組織票の先細り」の中で、自民党としては「新しい組織」が欲しい。一方で、コロナ禍でもっとも大きな困難を負ったのが、観光業、飲食業とともに、音楽・芸能などの娯楽業界だった。生のコンサート、演劇公演などが次々と中止になったのは記憶に新しい。また映画館も休館になって、ミニシアターの支援運動が行われた。この間、マスクを外して「密」になって製作せざるを得ない芸能界ではコロナ感染も相次いだ。このようなコロナ禍での苦境を打開するために、音楽・芸能業界からも「与党への接近」が必要になっただろう。
今回生稲・今井候補支援を表明したのは、以下の4団体である。「日本音楽事業者協会」(音事協)はトラブル防止や著作権確立を目的として、1963年に設立された一般社団法人。業界大手のホリプロ、渡辺プロ、エイベックス、サンミュージック、吉本興業など有名プロダクションが加盟している。「日本音楽制作者連盟」(音制連)は、80年代に貸しレコード屋の出現に対応して、著作権に「貸与権」が新設された際、その分配のために1986年に作られた一般社団法人。大手以外の個人事務所等も加盟している。さらに「コンサートプロモーターズ協会」は1990年設立の一般社団法人。「日本音楽出版社協会」は1980年に認可された一般社団法人。
今「一般社団法人」と書いたが、それは現制度が確立されて認定を受けた2010年頃のことである。それ以前はまた別の法人だったわけだが、細かくなるので省略。「一般社団法人」は政治活動をするためのものではない。だから、今回の支援運動はおかしいということになるだろう。ただ、関係者は「候補者を支援しただけで、自民党を支援したわけではない」と語っている。(朝日新聞、7.14日)さらに、「そこが魂を売らないギリギリの譲歩ラインだった」と語っている。しかし、音楽・芸能関係者だったら、維新から中条きよしも出ていた。そちらは支援せず、自民党本部で決起集会をしているんだから、「魂を売った」感がする。
「組織内候補」というが、タテマエ上は組織そのものではないようにしている。今まで何回か政治資金規正法違反事件を起こした「日歯連」というのは、「日本歯科医師連盟」という組織である。「日本歯科医師会」とは別で、歯科医師会のための政治活動を行うために作られた。また日教組の組織内候補と書いているが、実際には「日本民主教育政治連盟」(日政連)という別組織である。もともとは日教組内の社会党支持派が作った政治運動組織で、今は立憲民主党の候補を支援している。労働組合や医師会などは政治活動を行う団体ではないので別の組織を作るわけである。日教組の場合も組合と日政連のチラシは別だった。
だから、本来は音楽関係の「一般社団法人」が政治活動を行ってはならない。一党に偏した政治活動を行うなら、「一般社団法人」の資格が疑われる。ということになるわけで、「日本音楽政治連盟」みたいな組織を作って行うべきだっただろう。しかし、音楽など文化関係者が直接政治活動を行うのは問題も大きいだろう。個人個人はいろいろあって良いが、事実上組織的に政権与党を支持するのは、文化関係としてはあり得ない。だからこそ、抗議運動も起こったわけである。しかし、逆に考えれば、コロナ禍でそこまで追いつめられているとも言える。
今回野党が伸びたとしても、参院選なんだから政権交代にはならない。だったら、与党との関係を深くすることが業界のためだという発想もあっただろう。衆院選、参院選では自民党が好調だったのは、政策課題が支持されたとか、岸田政権が支持されたというよりも、コロナ禍において「与党に恩を売りたい」ということが大きかったのではないか。自民党の方も今後、さらなる給付金などを打ち出すわけだろう。「御恩」と「奉公」という関係である。
(今井絵理子、生稲晃子)
その前に、今回の比例区での組織内候補の結果を見ておきたい。自民党では、医師会が推す候補の自見英子で21万3千票。3年前の羽生田俊の15万3千弱に比べて大幅に増えている。その理由はよく判らないが、コロナ禍で医師会が自民党に期待することが多くなっているのだろうか。そういう組織もある反面、郵便局長会は20万票、農政連は3万票、遺族会も3万票教減らしている。遺族会はもともと会員の高齢化が進んでいたわけだが、今回は現職の水落敏栄が落選した。郵政票は数々の不正問題が響いたのだと思う。
野党系労組票を見ると、立憲民主党では自治労の推す新人鬼木誠が3年前の岸真紀子より1万3千票余り増やして当選した。しかし、日教組、JP労組、情報労連、基幹労連いずれも、数千票から3万票ほど3年前から減っている。国民民主党でも、電力労連、自動車総連、UAゼンセンが、当選したものの、すべて3年前から減らした。UAゼンセンは5万票近く減らしたが、多くの小売業を傘下に持つだけに、コロナ禍で組織人員そのものが減っているのかもしれない。電機連合も3万票以上減らして4位で落選した。
このように、一部の例外を除き、与野党ともに「組織内候補」は苦労していることが判る。組織が決めればメンバーが黙って投票してくれる時代ではない。しかし、それは以前からずっと同様で、組織人員の1割も得票出来ていない場合がほとんどだろう。それにしても、今回さらに苦労した組織内候補が多かったのは、やはり3年続く「コロナ禍」の影響なんだと思う。この間、大規模な集会などが難しく、全国大会などがオンライン開催になった年もあっただろう。職場でのきめ細かな集票活動もままならない。それは公明党や共産党の得票が3年前より減った一因でもあるだろう。
(ネット上で発表された抗議文)
そのような「組織票の先細り」の中で、自民党としては「新しい組織」が欲しい。一方で、コロナ禍でもっとも大きな困難を負ったのが、観光業、飲食業とともに、音楽・芸能などの娯楽業界だった。生のコンサート、演劇公演などが次々と中止になったのは記憶に新しい。また映画館も休館になって、ミニシアターの支援運動が行われた。この間、マスクを外して「密」になって製作せざるを得ない芸能界ではコロナ感染も相次いだ。このようなコロナ禍での苦境を打開するために、音楽・芸能業界からも「与党への接近」が必要になっただろう。
今回生稲・今井候補支援を表明したのは、以下の4団体である。「日本音楽事業者協会」(音事協)はトラブル防止や著作権確立を目的として、1963年に設立された一般社団法人。業界大手のホリプロ、渡辺プロ、エイベックス、サンミュージック、吉本興業など有名プロダクションが加盟している。「日本音楽制作者連盟」(音制連)は、80年代に貸しレコード屋の出現に対応して、著作権に「貸与権」が新設された際、その分配のために1986年に作られた一般社団法人。大手以外の個人事務所等も加盟している。さらに「コンサートプロモーターズ協会」は1990年設立の一般社団法人。「日本音楽出版社協会」は1980年に認可された一般社団法人。
今「一般社団法人」と書いたが、それは現制度が確立されて認定を受けた2010年頃のことである。それ以前はまた別の法人だったわけだが、細かくなるので省略。「一般社団法人」は政治活動をするためのものではない。だから、今回の支援運動はおかしいということになるだろう。ただ、関係者は「候補者を支援しただけで、自民党を支援したわけではない」と語っている。(朝日新聞、7.14日)さらに、「そこが魂を売らないギリギリの譲歩ラインだった」と語っている。しかし、音楽・芸能関係者だったら、維新から中条きよしも出ていた。そちらは支援せず、自民党本部で決起集会をしているんだから、「魂を売った」感がする。
「組織内候補」というが、タテマエ上は組織そのものではないようにしている。今まで何回か政治資金規正法違反事件を起こした「日歯連」というのは、「日本歯科医師連盟」という組織である。「日本歯科医師会」とは別で、歯科医師会のための政治活動を行うために作られた。また日教組の組織内候補と書いているが、実際には「日本民主教育政治連盟」(日政連)という別組織である。もともとは日教組内の社会党支持派が作った政治運動組織で、今は立憲民主党の候補を支援している。労働組合や医師会などは政治活動を行う団体ではないので別の組織を作るわけである。日教組の場合も組合と日政連のチラシは別だった。
だから、本来は音楽関係の「一般社団法人」が政治活動を行ってはならない。一党に偏した政治活動を行うなら、「一般社団法人」の資格が疑われる。ということになるわけで、「日本音楽政治連盟」みたいな組織を作って行うべきだっただろう。しかし、音楽など文化関係者が直接政治活動を行うのは問題も大きいだろう。個人個人はいろいろあって良いが、事実上組織的に政権与党を支持するのは、文化関係としてはあり得ない。だからこそ、抗議運動も起こったわけである。しかし、逆に考えれば、コロナ禍でそこまで追いつめられているとも言える。
今回野党が伸びたとしても、参院選なんだから政権交代にはならない。だったら、与党との関係を深くすることが業界のためだという発想もあっただろう。衆院選、参院選では自民党が好調だったのは、政策課題が支持されたとか、岸田政権が支持されたというよりも、コロナ禍において「与党に恩を売りたい」ということが大きかったのではないか。自民党の方も今後、さらなる給付金などを打ち出すわけだろう。「御恩」と「奉公」という関係である。