ちょっと前に見たんだけど、「ロブスター」という映画、あまりに変な映画なので特におススメしないのだけど、やっぱり書きおいておこうかと思う。2015年のカンヌ映画祭審査員賞受賞作で、コリン・ファレル(「アレクサンダー」「マイアミ・バイス」)やレイチェル・ワイズ(「ナイロビの蜂」)、レア・セドゥ(「アデル、ブルーは熱い色」)など国際的キャストを組んだ作品。カンヌ受賞に恥じない傑作で、出来は確かにいいのだが、あまりにも変なので付いていくのが難しい。

設定がとにかくぶっ飛んでいて、「独身が罪とされる社会」なのである。でも、それだけならよくある「ディストピアもの」の変種として理解はできる。この映画ではさらに、独身者はホテルに送られ、45日以内にパートナーを見つけないと「動物に変えられる」というルールがある。犬を選ぶ人が多いので世界は犬ばかり。ホテル到着時になりたい動物を申告することになっているが、主人公デヴィッドが選ぶのが「ロブスター」である。デヴィッドは妻が別のパートナーのもとに走り、独身となってしまった。すでに犬に変えられた兄とともに、ホテルに着く。ホテルの周りの森には脱走した独身者が潜んでいて、ホテル滞在者は麻酔銃で独身者を狩りに行き、一人確保すれば一日滞在日数を延ばせる。
もちろん、こういったルールは変である。でも、物語の内部で変わった設定になっていることは多い。「バトル・ロワイヤル」だって変だし、「マッドマックス」シリーズだって変である。でも、そういう映画では冒頭で「説明」があることが多い。何か理由があってそうなったとされる。そして、いったんそのルールを受け入れれば、後は了解可能な物語が進行する。だけど、「ロブスター」では説明が一切ない。ルールは観客の方でセリフを聞いて理解しないといけない。というか、理解しようがないルールである。「独身は罪」は判るが、「動物に変えられる」は理解しようがない。だから、映画の展開もどうなるか判らない。「エンタメ映画文法」で出来ていない「アート映画」なのである。
じゃあ、これは一体何なのだということになる。ある種の寓話なんだろうけど、その意味はよく判らない。映像は美しく、明らかにアート映画としての質は高い。だけど、一体この物語は何なのだろうという気はする。主人公は彼なりのもくろみでパートナーを作るが、結局破綻して逃げ出す。しかし、独身者の森に逃げ込んでも、今度は「恋愛禁止」という新しい抑圧にさらされる。そこで知り合った女性は視力を奪われてしまい、最後は「春琴抄」。シリア内戦を逃れても、ヨーロッパでも受け入れられない。現実に世界のどこにも居場所がないというのは、現代人の感覚に訴えるものがある。説明を極度に省略して、ほとんどが内容も画面も暗い。見ていて楽しくなるということがないんだけど、同時にこれはすごい映画を見ているかもという気がしてくる。
この映画を作ったのは、ギリシャの映画監督ヨルゴス・ランティモス。1973年生まれで、これが4作目。2作目の「籠の中の乙女」(2009)はカンヌ映画祭「ある視点」部門グランプリ。父親が娘を閉じ込めて育てる物語で、日本でも公開されたけど見ていない。「ロススター」は4作目で、初の英語映画。全篇アイルランドで撮影されたという。風景を見るとなるほどと思う。この過激に変な映画は、多くの人が好きになるようなタイプではないだろう。でも、世界では一定の人がそういう映画を見にいく。だから、国内マーケットで受けることだけ考えている必要はなく、特に「持ち運び自由」の映画においては、ごく一部に評価されるような自己の美学で作って、世界の映画祭に出品するというやり方もある。日本でも、こういうぶっ飛んだ発想の映画を構想する人が出てきて欲しい。ヨルゴス・ランティモス、また覚えておくべき難しい名前の監督が現れたようである。

設定がとにかくぶっ飛んでいて、「独身が罪とされる社会」なのである。でも、それだけならよくある「ディストピアもの」の変種として理解はできる。この映画ではさらに、独身者はホテルに送られ、45日以内にパートナーを見つけないと「動物に変えられる」というルールがある。犬を選ぶ人が多いので世界は犬ばかり。ホテル到着時になりたい動物を申告することになっているが、主人公デヴィッドが選ぶのが「ロブスター」である。デヴィッドは妻が別のパートナーのもとに走り、独身となってしまった。すでに犬に変えられた兄とともに、ホテルに着く。ホテルの周りの森には脱走した独身者が潜んでいて、ホテル滞在者は麻酔銃で独身者を狩りに行き、一人確保すれば一日滞在日数を延ばせる。
もちろん、こういったルールは変である。でも、物語の内部で変わった設定になっていることは多い。「バトル・ロワイヤル」だって変だし、「マッドマックス」シリーズだって変である。でも、そういう映画では冒頭で「説明」があることが多い。何か理由があってそうなったとされる。そして、いったんそのルールを受け入れれば、後は了解可能な物語が進行する。だけど、「ロブスター」では説明が一切ない。ルールは観客の方でセリフを聞いて理解しないといけない。というか、理解しようがないルールである。「独身は罪」は判るが、「動物に変えられる」は理解しようがない。だから、映画の展開もどうなるか判らない。「エンタメ映画文法」で出来ていない「アート映画」なのである。
じゃあ、これは一体何なのだということになる。ある種の寓話なんだろうけど、その意味はよく判らない。映像は美しく、明らかにアート映画としての質は高い。だけど、一体この物語は何なのだろうという気はする。主人公は彼なりのもくろみでパートナーを作るが、結局破綻して逃げ出す。しかし、独身者の森に逃げ込んでも、今度は「恋愛禁止」という新しい抑圧にさらされる。そこで知り合った女性は視力を奪われてしまい、最後は「春琴抄」。シリア内戦を逃れても、ヨーロッパでも受け入れられない。現実に世界のどこにも居場所がないというのは、現代人の感覚に訴えるものがある。説明を極度に省略して、ほとんどが内容も画面も暗い。見ていて楽しくなるということがないんだけど、同時にこれはすごい映画を見ているかもという気がしてくる。
この映画を作ったのは、ギリシャの映画監督ヨルゴス・ランティモス。1973年生まれで、これが4作目。2作目の「籠の中の乙女」(2009)はカンヌ映画祭「ある視点」部門グランプリ。父親が娘を閉じ込めて育てる物語で、日本でも公開されたけど見ていない。「ロススター」は4作目で、初の英語映画。全篇アイルランドで撮影されたという。風景を見るとなるほどと思う。この過激に変な映画は、多くの人が好きになるようなタイプではないだろう。でも、世界では一定の人がそういう映画を見にいく。だから、国内マーケットで受けることだけ考えている必要はなく、特に「持ち運び自由」の映画においては、ごく一部に評価されるような自己の美学で作って、世界の映画祭に出品するというやり方もある。日本でも、こういうぶっ飛んだ発想の映画を構想する人が出てきて欲しい。ヨルゴス・ランティモス、また覚えておくべき難しい名前の監督が現れたようである。