タナダユキ監督『マイ・ブロークン・マリコ』という映画がすごかった。平庫ワカの同名コミックが原作で、それは第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受けたのだという。僕はそれは知らなかったけど、若い女性二人の壮絶な結びつきがストレートに心に響く。もともと原作も短いものらしいが、映画も凝縮された描写で、今どき珍しい85分にまとまっている。フランスの女性監督セリ-ヌ・シアマ監督『秘密の森の、その向こう』という映画も同じ日に見たんだけど、そっちはさらに短い73分である。(ちなみに『トップガン マーヴェリック』は131分、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は147分。)

シイノトモヨ(永野芽郁)はある日、昼食のラーメン屋で何気なくテレビを見ていたら、親友イカガワマリコ(奈緒)がマンションから転落して死亡したというニュースを報じていた。中学からの親友の死をシイノは受けとめられない。家を訪ねると、もう部屋は片付けられていた。葬儀はなく「直葬」なんだという。父から虐待を受けていたマリコの骨を家に置いておけるか。突然思い立ったシイノは実家を訪ねて、マリコの父(尾美としのり)とその後再婚した義母(吉田羊)に会いに行く。そして、突然骨箱を奪い取り、そのまま仕事も放って逃亡の旅に出るのだった。
(屋上で花火をする二人)
この「遺骨泥棒」が最高。窓から遺骨を持って飛び降りると、裏の川を渡って逃げ出す。かつて見たことないようなトンデモな展開に絶句。まあ、そういうストーリーだとは知っていたが、映像の躍動感が半端じゃない。それを支えるのが、ブラック企業で働きながらタバコを吸いまくる永野芽郁の全力演技だ。(ニコチン抜きのタバコを数ヶ月前から吸う練習を始めたという。)さて、どこへ行くかと思ったとき、ふと思い出したのが昔見た「まりが崎」のポスター。ここ行きたいねと言い合った思い出の地。
(舞台となる種差海岸)
実際は青森県八戸市の種差海岸で撮影された。特に説明はないんだけど、途中のバスなどで判る。そして、ここでもどん詰りに相応しき体験を散々することになる。たまたま釣り人のマキオ(窪田正孝)に助けられるが、それでも遺骨はどうなるんだ。その間に過去がインサートされるが、死んだマリコが現れたり、今だから言えることを絶叫したり…。そこで判ることはマリコが壊れていたのと同じく、他に友人がいないシイノも壊れている。二人の関係は一体どんなものだったのか。
(シイノとマキオ)
マリコの父は出て来るが、シイノの家族関係は描かれない。ラスト、マリコが最後に残した手紙をシイノが読むが、内容は伝えない。あえて描かないことで成立している映画である。原作も同様らしいが、映画化に当たって新しい設定を加えることも多い。しかし、この映画はそうはしなかった。だから、学校時代など不明な部分が多い。それで良いのである。余計な設定を加えて時間を増やすのではなく、ひたすら映像に寄り添うしかない映画だ。映画はマンガや舞台と違って、ロケが出来る。現実の映像を背景にして、壮絶な人間ドラマを見るのである。
(タナダユキ監督)
監督・共同脚本のタナダユキは非常に快調。かつて『タカダワタル的』(2004)で注目され、その後劇映画に転じた。『百万円と苦虫女』(2008)で日本映画監督協会新人賞を受けた。この映画の蒼井優も何だか似たような感じだった。『ふがいない僕は空を見た』(2012)等があるが、一時は小説やテレビドラマが多かったという。2021年の『浜の朝日の嘘つきどもと』で復調をうかがわせたが、今回の『マイ・ブロークン・マリコ』は一番いいんじゃないか。永野芽郁が今までのイメージを破る役柄を熱演しているが、マリコ役の奈緒も良かった。今年の大収穫だと思うが、映画に見える日本の壊れ方もすごい。どこから手を付ければ良いのだろう。

シイノトモヨ(永野芽郁)はある日、昼食のラーメン屋で何気なくテレビを見ていたら、親友イカガワマリコ(奈緒)がマンションから転落して死亡したというニュースを報じていた。中学からの親友の死をシイノは受けとめられない。家を訪ねると、もう部屋は片付けられていた。葬儀はなく「直葬」なんだという。父から虐待を受けていたマリコの骨を家に置いておけるか。突然思い立ったシイノは実家を訪ねて、マリコの父(尾美としのり)とその後再婚した義母(吉田羊)に会いに行く。そして、突然骨箱を奪い取り、そのまま仕事も放って逃亡の旅に出るのだった。

この「遺骨泥棒」が最高。窓から遺骨を持って飛び降りると、裏の川を渡って逃げ出す。かつて見たことないようなトンデモな展開に絶句。まあ、そういうストーリーだとは知っていたが、映像の躍動感が半端じゃない。それを支えるのが、ブラック企業で働きながらタバコを吸いまくる永野芽郁の全力演技だ。(ニコチン抜きのタバコを数ヶ月前から吸う練習を始めたという。)さて、どこへ行くかと思ったとき、ふと思い出したのが昔見た「まりが崎」のポスター。ここ行きたいねと言い合った思い出の地。

実際は青森県八戸市の種差海岸で撮影された。特に説明はないんだけど、途中のバスなどで判る。そして、ここでもどん詰りに相応しき体験を散々することになる。たまたま釣り人のマキオ(窪田正孝)に助けられるが、それでも遺骨はどうなるんだ。その間に過去がインサートされるが、死んだマリコが現れたり、今だから言えることを絶叫したり…。そこで判ることはマリコが壊れていたのと同じく、他に友人がいないシイノも壊れている。二人の関係は一体どんなものだったのか。

マリコの父は出て来るが、シイノの家族関係は描かれない。ラスト、マリコが最後に残した手紙をシイノが読むが、内容は伝えない。あえて描かないことで成立している映画である。原作も同様らしいが、映画化に当たって新しい設定を加えることも多い。しかし、この映画はそうはしなかった。だから、学校時代など不明な部分が多い。それで良いのである。余計な設定を加えて時間を増やすのではなく、ひたすら映像に寄り添うしかない映画だ。映画はマンガや舞台と違って、ロケが出来る。現実の映像を背景にして、壮絶な人間ドラマを見るのである。

監督・共同脚本のタナダユキは非常に快調。かつて『タカダワタル的』(2004)で注目され、その後劇映画に転じた。『百万円と苦虫女』(2008)で日本映画監督協会新人賞を受けた。この映画の蒼井優も何だか似たような感じだった。『ふがいない僕は空を見た』(2012)等があるが、一時は小説やテレビドラマが多かったという。2021年の『浜の朝日の嘘つきどもと』で復調をうかがわせたが、今回の『マイ・ブロークン・マリコ』は一番いいんじゃないか。永野芽郁が今までのイメージを破る役柄を熱演しているが、マリコ役の奈緒も良かった。今年の大収穫だと思うが、映画に見える日本の壊れ方もすごい。どこから手を付ければ良いのだろう。