チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

着物が繋ぐもの 34

2018年10月16日 09時50分38秒 | 日記
日本中の染織取材に駆け回っていたある日
何回か行った産地でのこと
午前中の取材が終わりお昼休みに付近を散歩して工房に帰ったとき
そこで働いていた織り子さんたちの休憩所を通っていたら

「あの人着物着るやろうかね着物きいへんとほんまのところはわからへんと違う?」
(あの人はこのわたしのことだわ)

確かに元フアッション記者だったので洋服のほうが着やすいし
自分に似合う洋服はよくわかっていて常に最新の流行の服を着て取材をしていた
それと母に着物は一生着ないと宣言していたので
取材と着物を着ることは別だと思っていた

静かに歩きながら考えた
そうだ自分が着物を着ることでまた違った景色が見えるのかもしれない
と思った途端ガラリと戸を開け
「皆さんのお話もっともです。私次回から着物で参りますありがとう」

みんなは唖然とした顔を向けていたけど
大きな声で宣言したのでこちらは何故か気持ちがす~と落ち着いた

帰り特急電車の乗ろうとしたら件の織り子さん3人が
ニコニコと駆け寄って私に
「気車のなかで食べて」と風呂敷に包んだ荷物を渡された

窓から身を乗り出して手を振る私をいつまでも見送ってくれた三人
時間が来て風呂敷を開いてみると
竹の皮に入った大きな海苔巻きのおにぎり3こ漬物、卵焼き煮物と大ごちそう
そして角瓶に入ったお茶

温かい心からのもてなしに涙があふれる
(着物を着ると言っただけでこんなに態度が変わるんだ、前は黙礼するだけだったのにーー)

角瓶を手にお茶をぐい呑みしていたら
近くにいた男たちが「うおー」という声を上げるので驚いて自分の手元を見る

ほうじ茶の入った角瓶はまさしくウイスキー
若い女の子がウイスキーのラッパ飲みには驚いたのだろう
「あっこれほうじ茶です!」
また大声を上げる。おじさんたち爆笑でそれから車内が賑わって手持ちの落花生などを振る舞ってくれたり、駅についたら窓から顔だして売り子からお饅頭を賈ってくれたりーー

さて
着物を着ると言ったので本当に着物を着なければいけないのだが手元に一枚もない
先ずは上の姉に相談する
「わかった見繕って送っるわね」
一週間後大荷物が我が家に届いた
中を開けると手縫いの下着3セット 大島竜郷柄に飛び柄、小花の小紋、赤黒島のお召、そして長襦袢二枚
足袋草履、紺地に椿が浮き出された織の帯、紅型のsめ帯、無地ぼかしのような白っぽい帯 帯締め帯揚げまで、ありがたやありがたや

姉の手紙に
「母さんからヒサチャン用に預かっていた着物です。下着と腰紐のたぐいは全部母親が、いつか着るときにと縫っていたそうです。着たとき写真をっって送りなさい喜ぶから。3年前に預かったのよ、こういう日が来ることわかっていたのね」

恐ろしや母親の読み
(つづく)


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