千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「はやぶさの大冒険」山根一眞著

2011-01-05 22:28:26 | Book
 昨年の東京証券取引所で大納会の最後の鐘を鳴らしたのは、はやぶさプロジェクトチーム・マネージャーの川口淳一郎氏だった。すっかり顔なじみとなった川口さんだったが、ある意味では平成22年の主人公、話題の顔は「はやぶさ」君だったのではないだろうか、と個人的には思っている。地球帰還時の大気圏突入によって満身創痍のカラダが燃え尽きなければ、あの鐘を鳴らすのは、はやぶさ、君だったよ。

昨年、日本人に明るい希望をもたらしたニュースのひとつが、小惑星探査機「はやぶさ」である。地球外の微粒子を持ち帰ったカプセルの展示には、長い長い行列ができて、宇宙開発におけるこのような異例のブームになった要因のひとつに、様々な困難にもあきらめずに立ち向かう探査機を擬人化して「はやぶさ君」と呼びかけたことにもある。思わず、人の人生に重ねて「頑張れ、はやぶさ」と応援した人も多かったのではないだろうか。本来、人格をもたない探査機のこのようなキャラクターづけを私は違和感を感じる方なので、はやぶさ君の弟の開発費獲得につなげるための話題と人気つくりにも貢献したこともあり、JAXAの産みの親たちによる思惑を含んだ計略かとよこしまな?推測をしてしまったが、本書を読むとそんな小さなつまらないことではなかったことを感じる。

日本のGDPは米国の3分の1だが、宇宙予算はなんと米国の10分の1しかない。科学技術立国という政府の看板が嘘のがらんどうのような寒い予算で、しかも年々削られていき語るも涙、聞くも涙の状況で、人類史上発の月以外の惑星の物質を持ち帰るという難関ミッションを担ったはやぶさが、送信した電波が届くまで16分もかかるという3億キロも離れた小惑星「イトカワ」をめざして旅立ったのは、2003年5月のことだった。何度もトラブルに遭遇しながら、その都度、試練を乗り越える姿には、開発者たちの熱い心も伝わってきて、私ですら次第に手塩にかけたわが子のような存在の感覚になっていくのだから、実際、プロジェクトに関わってきた人々にとっては、はやぶさはやはりいとおしいこどもと同じなのであろう。「はやぶさ君」という呼びかけが、計算でもなく人気取りのためでもなく、わが子のような気持ちから自然に生じたことだったと感じる。

また、新聞の片隅で報道された打ち上げ時から、7年間もプロジェクトチームに単独で取材を続けてきた著者ならではのはやぶさに寄せる想いは、本書の宇宙工学の解説や技術開発者とのインタビューからもわかるように、単なる仕事以上のものがある。中学生でも理解しやすい内容でというコンセプトが、これまでのきわめて優秀な頭脳が関わる凡人には理解できない特殊なお仕事というイメージの宇宙開発が、ぐっと親しみやすく、何よりもとても楽しい世界だということがわかってくる。はからずも、本書において、山根氏は作家兼宇宙開発の伝道師という役割を充分に果たしている。
それにしても、起死回生の帰還作戦に向けて「人事を尽くして天命を待つ」ではないが、最後には神頼みとばかりに神社に参拝までした川口さんの姿には、まるでドラマをみているようである。今回のプロジェクトの成功は、米国の初の人類による月面着陸に並ぶレベルでの快挙だそうだが、乏しい予算で、本当によくここまで粘り強く最後まであきらめずに頑張った。おかげで、日本の宇宙技術力は世界に誇れる。ありがとう、はやぶさ君。

川口氏は「未来を拓くのは投資という果敢な挑戦。2011年が投資に対し再認識する年であるように」と述べ、取引終了を知らせる打鐘を行ったそうだ。これまで宇宙開発は役に立たないと散々言われ続けてきたが、効率のみ追求する世界に未来への希望がもてるわけではない。はやぶさの健闘によって後継機には無事に満額の30億円の予算がおりたが、閉塞感がただよう日本に必要なのは、むしろ未来への挑戦だと思う。

■アーカイヴ
「満身創痍のはやぶさが帰ってくる」
『宇宙へ。』
「宇宙137億年の歴史」佐藤勝彦著
「世界でいちばん美しい物語」


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6 コメント

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樹衣子さん (xtc4241)
2011-01-06 11:03:22
こんにちは&おめでとうございます。
(いま2011年1月6日11:00頃です)

>本来、人格をもたない探査機のこのようなキャラクターづけを私は違和感を感じる方なので

僕もそうでした。
なんか、マスメデイアが勝手にヒーロー化したような感じがしてました。
でも、このブログを読んだら、なにか清々しい思いにかられました。思えば、なにひとつ動かないものはない。
僕の好きな言葉に(古代インド・ウパニシャッド)こんなのがあります。

神は鉱物の中で息をして、
植物の中で目を覚まし、
動物の中で動き、
人間の中で考える

だから、ロボットだって生きているし、
ロケットだって生きているといえるんですよね。

それにしても、この端正な文章には、またまた驚きました。
今年もよろしくお願いします。
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あけました! (樹衣子)
2011-01-06 22:41:37
あけましておめでとうございます。
今は6日の夜10時を過ぎたところですが、北風が吹いてきたようで寒さも本番です。
高尾山に初詣に行かれたようで、お写真を見てこちらこそ清々しい気持ちになりました。
今年も宜しくお願いします。

この本は、読んでいてとても楽しかったです。その理由のひとつに、「はやぶさ」をいつのまにかヒューマノイド・ロボットのような感覚でとらえていたことにもあります。
ロボットを生きていると”感じる”かどうかは、それぞれの感性にゆだねられると思います。私は、以前はヒューマノイド・ロボットを否定していましたが、たとえば介護ロボットなどは実用的であるならば愛嬌のある顔をしたヒューマノイド・ロボットの方が気持ちがあかるくなると思います。
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今年もよろしくお願いいたします (romani)
2011-01-07 07:17:01
新年おめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
樹衣子さんは「はやぶさ」に早くから注目されていましたよね。
昨年、いい話はそれなりにありましたが、夢のある話は本当に少なかったと思います。
私も「夢」をくれた「はやぶさ」の俄かファンです(笑)
2011年が素晴らしい年になりますように。
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こちらこそ宜しくお願いします (樹衣子)
2011-01-07 23:26:00
あけましておめでとうございます。
そして、そして・・・ご長男のご婚約おめでとうございます!

>昨年、いい話はそれなりにありましたが、夢のある話は本当に少なかったと思います

改めてふりかえると、確かにそうですね・・・。最近は、本当に夢のある話は少ないです。
ビックバンで誕生した宇宙のはじまりから、137億年の歴史をへて今の私が存在します。
それを考えると宇宙開発は夢のある話だと思います。

>2011年が素晴らしい年になりますように

実は、昨年は、私には素晴らしい一年でした。
今年もどこかで、romaniさまと同じ音楽を聴く機会がありそうですね。
素敵な一年になりますように。
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future (noga)
2011-01-08 21:59:10
言語は、考えるための道具である。
それぞれの言語には、固有の特色がある。
日本語には、時制がない。それで、未来時制もない。
日本人には未来のことが鮮明には考えられない。常に混乱している。
自分から考えることもできず、他人から伝えられることもない。
未来の内容そのものが、社会に存在しない。
未来の内容が脳裏に展開できないのでは、不安になる。

英語の時制は、現実と非現実の内容を分けて考える作業に役立っている。
現在時制の内容は現実であり、未来時制の内容は非現実である。
非現実の内容がなければ、人は無哲学・能天気になる。
目先・手先にまつわる事柄ばかりを考えて生活することになる。

未来社会の構想が存在すれば、その建設に余り金の出資も可能となる。
仕事は、いくらでも出来てくる。ボランティアとしても働く余地もある。
未来社会の構想が存在しなければ、工事も現実社会の補修ていどのものになる。
構想がなければ、備えあれば憂いなしとはゆかない。危機管理は、難しい。
一旦、問題が起これば、無為無策で閉塞感を味わう。
そのうち、何とかなるだろう。と見守る。
何とかならないのであれば、諦観に入る。
ああ、この世はむなしい。と漏らす。

こうした繰り返しが日本人の一生である。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/terasima/diary/200812

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日本人の一生 (樹衣子*店主)
2011-01-12 23:06:13
nogaさまへ

コメントをありがとうございます。
日本人の一生については、また改めて考えさせていただきます。
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