千の天使がバスケットボールする

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「アップル帝国の正体」後藤直義・森川潤著

2014-01-14 17:30:45 | Book
1999年10月5日、アップルの新製品発表会でのことだった。
いつものイッセイ・ミヤケの黒のハイネックにGパンではなく、その日のスティーブン・ジョブズはタキシード風のスーツを着て登場したそうだ。理由は、大型スクリーンに映し出された、3日前に亡くなったばかりのウォークマンを片手に微笑むソニーの創業者、盛田昭夫氏のありし日の姿だった。

「アップルはコンピューター業界のソニーになりたい」

ジョブズが盛田氏を尊敬していたのは有名な話である。私もソニーという企業が大好きであり信頼している。だから、昨年もウォークマンを購入した。ipodはマニュアルがないけれど、ウォークマンにはきちんとわかりやすいマニュアルが合理的に仕切られたケースに収められている。便利だ。けれども、不図、電車の中を見渡すといまだに黒いイヤホンをつけている者は少数派。ipadの純白のイヤホンに比べて、この黒のイヤホンはちょっとおじさんくさくないか。それに、メタルブルーの色もはっきり言ってださいっ。しかし、それもつかのま、あっというまに次々とiPhone 5sに機種変更をする輩を見ていると、そもそもipadももう必要ないのかも・・・と思ってしまう。iPhone1台あれば、マルチに役に立つ。

新製品が発売される度に熱狂的に行列をするファンのお祭り気分を理解できず、iPhoneにもなんら興味がわかないのだが、そのiPhoneに搭載された超優れもののカメラ機能がソニー製と聞いて驚いた。それだけではない、液晶画面は日本が世界に誇るシャープの亀山工場製作だったとは。我家のテレビと同じ液晶画面の技術が、iPhoneにもちゃっかり利用されていたのだ。技術大国日本、と日本の頭脳と大金を投じた技術と伝統的なお家芸に至るまで、名門企業から地方の小さな研磨作業をする零細企業まで、今ではアップル帝国の製品の単なるパーツづくりの下請け工場になり、尚且つ支配されていたのだった。

私が本書を読むきっかけになったのは、日本人がiPodに使用されている技術で特許を侵害されたとしてアップルに訴訟を起こし、東京地裁が約3億3600万円の支払いを命じるという判決がくだされたからだ。私が予想したように、日本の様々な技術の結晶がアップル製品に反映されていた。しかも、彼らはその事実をいっさい公表していない。そして、提供している日本企業側も巨額な違約金を含む「NDA(秘密保持契約)」で封印されているから公表できないのだ。

著者はふたりとも1981年生まれの「週刊ダイヤモンド」の記者である。秘密主義のジョブズの方針を守るアップル社の取材には、困難がつきまとい、取材に応じた人も殆ど匿名だ。それでも、「アップル帝国」という妥協を許さず、美しさに徹底的にこだわり、利益追求には猛獣のような巨大企業を通して本書から見えてくるのが、ガリバーに呑み込まれつつある哀れな日本の家電企業、通信事業、音楽業界の姿である。

ジョブズが愛したソニー。
2001年度の売上は7兆5783億円で純利益が153億円。対するアップル社は売上高6330億円に29億円の赤字。それが、今では(2.012年度)、ソニーの売上高6兆8000億円、純利益がわずか430億円にも関わらず、アップル社は12兆3393億円で純利益はなんと3兆2902億円にものぼる。世界中で爆発的に売れ続けるアップル製品。それにしても高い収益率には驚く。いったい、日本の高い技術力がどうしてアメリカの企業のこれほどまでの繁栄に貢献するようになったのか。本書は、その謎と秘密をあきらかにしていく。経済の本は旬が大事である。私は国粋主義者ではないが、日本の未来を憂うところがある。日本経済の行く末を考えるとき、この本を読むべきは、まさに今でしょ!

最後に象徴的なエピソードとして紹介したいのは、ジョブズの背後のスクリーンの中に微笑む盛田氏の遺影には
Think different
という文字がうかんでいたそうだ。


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