千の天使がバスケットボールする

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「累犯障害者」山本譲司著

2007-01-20 12:36:11 | Book
「仕事でストレス…」3歳児を歩道橋から投げ落とす

 17日午後2時30分ごろ、大阪府八尾市光町、近鉄八尾駅前の歩道橋から、大阪市平野区平野市町、N君(3)が、男に体を抱え上げられ、約6メートル下の車道に投げ落とされた。N君は左足を骨折するなどの重傷。男は通行人らに取り押さえられ、駆け付けた八尾署員が殺人未遂の現行犯で逮捕した。
男は八尾市桜ヶ丘のY容疑者(41)で、同市内の知的障害者小規模通所授産施設に通っており、調べに「仕事でストレスがたまりむしゃくしゃしてやった」と供述している。Y容疑者は、同府豊中市で2000年3月、2歳の男児を誘拐して京都市まで連れ回したとして未成年者誘拐容疑で京都府警に逮捕されるなど、幼児を狙った誘拐、誘拐未遂事件などで6回逮捕され、3回実刑判決を受けている。同署は動機などを詳しく調べる。
 (07/1/18 読売新聞)
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この事件の報道に接し、誰もが暗澹とした気持ちになるだろう。なんという非道な犯人だろう。ゆるせない、と。一般市民にとっては容疑者に対する怒りが当然わく事件だろうが、容疑者が知的障害者であり3回も実刑判決を受けているという報道から、違った感想もわいてくるのが「累犯障害者」の読後感である。

ちょうど一年前の1月7日、JP下関駅が放火された事件があった。街のシンボル的存在で特徴のある外観は鉄道マニアのファンも多く、火災の翌日はターミナル駅の焼失で脚を奪われた「怒る市民の声」が各新聞に掲載された。しかしその怒りのターゲットである犯人の実像は、あまり知られてはいないのではないだろうか。大手メディアは、犯人が障害者であることがわかると世間の偏見を避けるためだろうか福祉関係者への考慮だろうか、報道を自粛していくのだという。放火犯は、知能指数66で外見上は健常者と区別ができず身の回りのことはこなせるが、自分で考えたり抽象的な思考のできない軽度の高齢の知的障害者だった。少年時代から父親から凄まじい虐待を受け(こうしたケースでは、父自身も知的障害者であることが多いが)、12歳で少年教護院に入ってから少年院、矯正施設と塀の中を出たり入ったりと、成人してからの54年間のうちなんと50年も刑務所で過している。事件を起こす半日前、放火事件の罪を償い教えられた「セーカツホゴ」を受けるために区役所に出向くが、住所不定ということで相手にされなかった。何度も刑務所から出所したばかりと伝えても、相談にものってくれない。そして追い返され手渡されたのが、下関駅までの一枚の切符だった。
外は緊張するし、幼い頃からの家庭内暴力の記憶から家は怖い、そう感じる犯人にとって安心である刑務所に戻るためには、今までと同じ放火事件を起こすしかないと、11回目の火を放ったのだった。
序章で記された「安住の地は刑務所だった」の中で記される下関放火事件の犯人の言葉こそ、著者の元・衆議院議員の山本譲司氏が00年に秘書給与流用事件で実刑判決を受け、433日の獄中生活を送った時に出会った累犯障害者と同じだった。

山本氏は、出所後に塀の中での体験を「獄窓記」として出版した。この「獄窓記」の中で印象に残るのが、一般受刑者から「塀の中の掃き溜め」と揶揄される懲役作業の現場である。知的障害者、認知症老人、聴覚障害者らの作業の割り振りや日常生活の介助に追われる山本氏の日々は衝撃的事実であり、評価も高くドキュメント賞を受ける。刑務所には様々な障害をもつ受刑者が多数収容されており、しかも累犯者が少なくない。国会で論じてきた福祉対策の皮相さを痛感した山本氏は、社会復帰後の人生を障害者への福祉活動に力を入れて「触法障害者」を減らす貢献活動をしたいという誓い、その公約を一歩果たした成果が「累犯障害者」である。

「レッサーパンダ帽の男―浅草・女子短大生刺殺事件」「閉鎖社会の犯罪―浜松・ろうあ者不倫殺人事件」など、これらは記憶にある事件ではあるが、その事件の真相に今まで知られていなかった社会の闇があぶりだされている。また「障害者を食い物にする人々―宇都宮・誤認逮捕事事件、売春する知的障害女性たち、仲間を狙いうちする障害者たちなど、様々な驚くべき事実と司法の実体は多くのことを考えさせられる。障害者には、福祉の目が行き届いているという私の認識は、全くの誤りだった。
人類における知的障害者の出生率は全体の2~3%であるが、日本では0.36%しか報告されていない。全体の8割を占める軽度の知的障害者にとっては、単なるレッテル貼りに過ぎない「障害者手帳」を取得しないケースが多く、そんなことから「障害者手帳」をもったこともなく、福祉のセーフティネットからこぼれていったのが冒頭の下関駅放火犯である。本来なら福祉の支援が必要な彼らは、最後に落ちるのが刑務所の塀の中であり、ここで待っているのも社会で生きていくための支援プログラムよりも懲罰である。矯正予算の年間270万円も税金の無駄遣いであるというのが、山本氏の指摘である。

現在、受刑者3万2千人のうち、実に3割弱が知的障害者として認定される人々である。勿論、彼ら知的障害者が犯罪を惹起しやすいわけではない。むしろ山本氏が言うように、彼らは素直で規則や習慣に従順であり争いごとを好まないタイプであろう。それでは、何故ここまで累犯を重ねてしまうのだろうか。八尾市の幼児を歩道から投げ捨てた事件の犯人が、幼児を狙った誘拐で誘拐未遂事件などで6回逮捕されて3回も実刑判決を受けている報道に接し、同じ手口の犯行を重ねていることから動機を詳しく追求する警察署の事情聴取に虚しさを感じる。彼らにとって人生とは、なんなのだろう。

刑務所の一部が社会の行き場のない障害者の収容所になってしまっていることを問題視する山本氏に、満期出所を目前に控えた受刑者が言った次の言葉が胸に響く。
「山本さん、俺たち障害者はね、生まれたときから罰を受けているようなもんなんだよ。だから罰を受ける場所はどこだっていいんだ。どうせ帰る場所もないし・・・。また刑務所の中で過ごしたっていいや。」

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2 コメント

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あわわ (映画侍)
2007-03-11 22:18:53
久々にTBなんかしたらダブってしまいました。アメブロの反応が遅くて・・。ごめんなさい。一つ消してください。

この本、面白かった。村瀬学のちくま新書「自閉症―これまでの見解に異議あり! 」はお読みになりましたか?レッサーパンダ事件のことが詳しく書かれています。犯人の妹さんの話は涙なくして読むことはできません。その他にも、興味深い見解が書かれています。おすすめです。
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コメントが遅くなりごめんなさい (樹衣子)
2007-03-14 21:45:57
レッサーパンダ事件のことは、山本さんの著書を読む前から「週刊新潮」に記事が掲載されていて、事実を知りなんとも痛ましい事件だと強い印象が残っていました。
けれども世の中の殆どの方は、軽度の知的障碍者が陥りがちな不幸な現状を全く知りません。本書が広く喧伝されて、少しでも理解と共感をえられることを願ってます。
そういえば映画侍さまは、SWANというパンやさんをご存知でしょうか。カフェもあり幣ブログでも書いたことがあるのですが、くつろげるよいお店です。
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