千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

音楽評論家・吉田秀和さんが逝く

2012-05-28 22:19:30 | Classic
音楽評論家の吉田秀和さんが今月22日に亡くなった。98歳の最近まで、お元気でご活躍だと感心していたのに、誠に残念だ。

手元にないので不確かなのだが、桐朋学園大学附属「子供のための音楽教室」から出版されている「子供のためのソルフェージュ」という本がある。何版も版を重ねて、今も尚、現役で活躍しているこの小さな本を初めて手に取った時、私はまえがきを読んで深く感銘した。音楽は家庭生活をあかるくするといったような文章に心が澄んであたたかくなる想いがした。実にシンプルで当たり前のように思えるが、齋藤秀雄氏、井口基成氏、吉田秀和さんといった錚々たるメンバーが教室がはじめたのは、敗戦まもない日本でのことだった。

町を歩くと、電車に乗ると、様々な楽しげな音楽が洪水のように流れている日本。しかし、敗戦の焼け野原で、物資も不足し、食べるものさえ手に入れるのが困難だった貧しい日本で、音楽、この小さな宇宙に情熱をもって生涯をかけた人たちがつくった教室がよびかける「音楽は家庭をあかるくする」という言葉は、どれほどの希望のあかりとなって日本人のこころをてらしたことだろうか。そんなことを想像した。

音楽理論を備えた美しく端整な文章は、幅広く親しまれると同時にピアニストの中村紘子さんによると「クラシック音楽が”権威”として存在した最後の偉大な批評家」でもあった。来日したホロヴィッツを「ひび割れた骨董品」と絶妙で厳しく評したことでも知られる。

ところで、もしかしたら人違いかもしれないが、「日本の作曲家2011」のコンサート会場で吉田さんをお見かけしたような気がする。だいぶご年配の方が、ブルーローズの最前列中央で演奏を聴いていらっしゃった。写真で見たことがある吉田さんに似ているなとは思ったが、おひとりだったようなので、吉田さんだったらどなたか編集者やご家族の方がつきそわれるだろうし、何しろ鎌倉在住のご年配の文化人にとってはサントリーホールは遠いから別の方だろうとそのまま忘れかけていた。改めて、近影をお見かけするとやはりよく似ていらっしゃる。

読売新聞の報道によると、昨年の作家の丸谷才一氏の文化勲章を祝うスピーチでは、ドイツの文豪ゲーテの言葉を引用されたそうだ。
「我々はみな集合体で、自分自身と呼べるものはわずか。私は先人や同時代人に学び、他人がまいた種を取り入れさえすればよかった」
芸術に敬意をはらった表現だが、吉田さんこそ音楽の畑に種をまく人だった。

そんななか、エリザベート王妃国際コンクールのバイオリン部門で20歳の成田達輝さんが2位に入賞するという吉報が舞い込んだ。彼の演奏は、コンクールに挑むというよりも気品があり、若いのにもかかわらずエレガントすら感じられる。彼ら新世代の音楽家は、抜群なテクニックだけでなく個性ももち、次々と世界的なコンクールで好成績を挙げている。吉田さんたちがまいた種が多く実り、大輪の花を咲かせる時代になった。そんな時代を迎える幸運をかみしめて、改めて吉田さんを追悼したい。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「巨星堕つ」ですね (畑山千恵子)
2012-05-29 20:24:15
吉田秀和さんの訃報を聞き、「巨星堕つ」ですね。白水社も吉田秀和全集を再編集して、吉田さんの全著作を校正まで伝えてほしいものですね。
返信する
そうですね (樹衣子)
2012-05-30 22:16:17
ご訪問ありがとうございます。
実は、それほど吉田さんの著作物を読んでいないのですが、これからちゃんと一度は読まなければと思っています。
ひとつの時代のおわりですね。
返信する

コメントを投稿