千の天使がバスケットボールする

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ヴィオラ奏者清水直子さんの「情熱大陸」

2006-02-11 16:43:19 | Classic
シャネルというバッグをもっていなくても、誰もがこのブランドを知っているように、1883年創設されたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、長年君臨した音楽監督カラヤンの功績とともに「世界最高のオーケストラ」として、その名がとどろく。しかし、意外に知られていないのが在籍している日本人奏者。さすがにコンサートマスターを務める安永徹さんの顔はおなじみになったが、現在首席ヴィオラ奏者が清水直子さんである。ヴィオラはオーケストラにとって欠かせない音ではあるが、独奏曲やレパートリーも少なくソリストとして華々しく活躍できる楽器ではない。ユーリ・バシュメットや今井信子さんは別格である。だからそういう運命をこの楽器とともにするのは、ヴァイオリンとは違った渋い魅力にとりつかれた者か、競争の比較的ゆるいことから音楽家としての活路を見いだす者のどちらかである。だからこの最高のオケで首席をとるのは、トリノオリンピックで、安藤美姫選手が金メダルをとるような快挙と断言できる。先日、そのテレビ「情熱大陸」で清水直子さんをとりあげていた。

現音楽監督である私も好きなサイモン・ラトルが、彼女の集中力を誉めてかけがえのない宝と評価したくだりは、romaniさまのブログを読んでいただくとして、私が彼女の音楽家としての暮らしぶりに考えが及んだのは、芸術とはかけ離れていて恐縮なのだが、その結婚相手である。清水さんは3年前にトルコ人ピアニストのオズガー・アイディンさんと結婚していたのだ。しかし異国で外国人と結婚する娘をゆるすことができなかったご両親が、晴れの華燭の典に出席することはなかった。

九州出身でつくば市在住のサラリーマンの父、専業主婦の母、そこから桐朋音楽大学へ進学して1997年ミュンヘン国際音楽コンクールヴィオラ部門で、ユーリ・バシュメット以来21年ぶりに1位を受賞。その後1年間の試用期間を経て、2001年ベルリン・フィルで首席ヴィオラ奏者として活躍する。この成功物語にいたるまで、勿論彼女の努力と才能なくしてありえなかっただろう。また今井信子さんや、恩師との出会いも必要だった。けれどもそれらを支えて、支援したのは音楽好きのご両親の存在だ。
この結婚に反対する気持ちもわからなくもない。

音楽家として活躍している女性の結婚相手は、おおむねわかりやすい。医師、弁護士、外交官、エリートビジネスマンが多い。日頃レッスンに時間をとられるために、出会いの場が一般の女性より少ないからだろうか、その配偶者の職種はバラエティに乏しい。公表されているさしつかえのない範囲で例をあげると、高嶋ちさ子さん、仲道郁代さんの夫はビジネスマン、川井郁子さんの婚約者は医大の先生、高齢出産で男の子をふたり産んだチョン・キョンファさんの相手もビジネス・マン。

ちょっと変わっているカップルとしては、小説家になりたかった中村紘子さんとピアニストになりたかった作家の庄司薫くん。これは同じく作家であり東大の教授でもあった柴田翔氏と三宅榛名さんに近い。またアンヌ・ゾフィー・ムターは、カラヤンの弁護士だったオジイチャンと結婚したが先立たれ、現在は作曲家のアンドレ・プレヴィンと再婚中。異業種との交流試合は、相手の仕事への理解があれば、女優と結婚したようなものと気持ちをきりかえてうまく結婚生活が続く。しかし指揮者の小澤征爾さんがピアニストとの最初の結婚に失敗した自伝を読むと、同業同士の結婚が難しいのがよくわかる。マルタ・アルゲリッチとシャルル・デュトワの例が典型だ。そのうえで、家庭の指揮と調律をうまく対処してベストカップルになるポイントは、ひとえに相手の音楽性をまず好きになることと尊敬できることにあると思える。例えて言えば、「のだめカンタビーレ」ののだめと千秋の音楽性の質が違えども、お互いにその音楽性に惹かれるように。

以前、ソプラノ歌手の鮫島由美子さんが、いつも伴奏をつとめるドイツ人ピアニストである夫の音楽性を大変ほめていたことがある。のろける彼女の表情から、幸福感と夫への愛情だけでなく、音楽家としての尊敬の念が伝わり、印象に残っている。相手の才能を認め、尊敬できるつながりの強さが、よい音楽だけでなくよい結婚生活をもたらすだろう。
清水さんのお相手は、ミュンヘンのコンクールでも受賞したことがあるとか。残念ながらテレビではピアノを弾く姿が映されなかったが、ご両親が反対する理由として”ピアニスト”として夫であるトルコ人を認めていないのかもしれない。華やかな音楽暦に比較して、つつましく質素にみえた新婚家庭のようすが、ヴィオラという楽器を選んだ清水さんらしくもあった。結婚を考えていなかった彼女が、ベルリンで結婚をした相手もこの国では移民である。海外で生活し、働く女性の孤独に思いをはせた番組でもあった。

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12 コメント

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録画はしたものの・・・・ (林象)
2006-02-12 00:22:28
樹衣子さまこんばんは。

この回の『情熱大陸』は録画はしているのですが、未だに観ておりません・・・早く観なくては。



本題とズレて申し訳ないのですが、アンヌ・ゾフィー・ムターとアンドレ・プレヴィンはご結婚されてたんですね!?ということに驚いて思わず書き込みさせていただきました・・・知りませんでした。。。



同業同士の結婚って難しそうですね。特に芸術関係だと。でも、だからこそ仲良く暮らしてらっしゃる方を知るとなんだか嬉しい気がします(以前鮫島有美子さんが何かのインタビューで「彼が黒髪を切ったら離婚する、って言うんです」と仰ってたのを読みましたが、とても幸せそうなコメントだなと思ったのを覚えています)



長文失礼いたしました(^^;

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芸術家同士の結婚 (樹衣子)
2006-02-12 12:31:26
>アンヌ・ゾフィー・ムターとアンドレ・プレヴィンはご結婚されてたんですね!?ということに驚いて



ですよねっ!私も結婚した時のネットのニュースで偶然知って大変驚きました。



①なんでまた年の離れたじいさんと?

②アメリカ人と?



これも多忙ゆえに異業種交流が少ない、ムター級になってしまうとプライドが高くて再婚相手の対象が少ない、ということでしょうか。

ただ②に関しては、同じく女性ヴァイオリニストのビクトリア・ムローバが、突然金髪ボブカットにして黒い皮のコスチュームでポップス系のCD「鏡の国」を出した時の衝撃に近いです。



アンドレ・プレヴィンさんは、指揮者としてまたピアニスト、作曲家と多彩な活躍ぶりからじいさんになってももてるのでしょうね。フェロモンの分泌は衰えていないのです。

ご夫婦で共演もされていました。↓

http://www.universal-music.co.jp//classics/release/artist/ha/andre_previn.html



同業同士の結婚は、相手の厳しさを理解できるからうまくいくケースもありますが、芸術系は自己主張が強いのでぶつかると思います。画家の杉山寧さんの奥方のように、画家としての才能がありながら夫のために筆を折り内助の功(←もはや死語)を発揮される方もいらっしゃいますが、同じ芸術家でしたらそれぞれが活躍される方が鑑賞する我々にとっても望ましいと思うのです。



まるで「週刊女性セブン」のようなノリで、失礼いたしました。
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文章が上手い! (calaf)
2006-02-13 00:27:24
初めまして、romaniさんからとんできましたcalafと申します。文章が上手いので(お上手なんて表現するのが失礼なくらい)驚きました。非常に冷徹な目で事実だけをエピソードを効果的挟みながら、清水直子さんのことを語っていらっしゃいますね。小澤征爾の最初の夫人を江戸京子さんと実名が入ればなお最高と思いました。ところで、ムローバはアバドと同棲していますよね?初めてですのに失礼いたしました。
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Unknown (jassi)
2006-02-13 05:03:57
こんにちは、今回も面白そうな話題だったので、書き込みをしちゃいます。

日本にいる時には「情熱大陸」をほぼ欠かさずみていて、有名な方々の光と影を垣間見て、色々な刺激と活力をもらっていたのですが、今回の清水直子さんのプログラムは本当に見てみたいものです。ただ恥ずかしながら、ドイツにある程度長くいるにも関わらず、彼女の名前は初耳だったのですが。

僕も音大に通う友達(女性)がいるのですが、音楽家と言う職業を目指すと言うのは相当な覚悟が必要なんだなと、彼女の話を聞いてよく思います。

いずれにせよ、海外で世界を相手に頑張っている日本人を見ることは、すごく励みになります。
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素敵な写真です! ( romani)
2006-02-13 21:50:10
こんばんは。

TBとコメントいただきありがとうございました。

この情熱大陸はすぐれものでした。清水さんの人柄と音楽性が良く表れていたと思います。

ラトルが「ベルリンフィルの宝物だ」と言ってくれて、何とも嬉しかったです。

結婚されているのには驚きましたが、とても暖かそうな雰囲気のご主人で、2人のCDもリリースされているようです。

演奏家どおしのカップルとしては、マティスとクレー夫妻が素敵な雰囲気のご夫婦だと思います。



余談ですが、掲載されている清水さんの写真素敵ですね・・・。

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江戸さんのこと (樹衣子)
2006-02-13 22:56:43
初めまして、romaniさまのところですれ違いましたね。

お嬢様とピアノをレッスンされているご様子を、微笑ましく読ませていただきました。小学生時代、ブリュグミラーでお稽古をさぼって以来、楽器を演奏できる方には、殆どそれだけで☆5つぐらいまたたいてしまうのです。



ご指摘の江戸京子さんに関しては、あえて実名をいれませんでした。



①離婚されてからかなりの月日が経っていることからの江戸さんへの配慮

②成人されているとはいえ、小澤さんと再婚された元モデルの方とのふたりのお子さんの存在

③江戸さんは、現在ピアニストではなく教育者としてご健闘されていること



決して、離婚に対してマイナスのイメージをもっているわけではないのです。ただなにぶん随分昔のことなのに、小澤さんがあまりにも有名ということで、今だになにかと話題にするのも失礼かな・・・と考えました。それにご存知の方は、carafさまのようによく知ってらっしゃるし。

私のブログは、クラシック愛好家ばかりが訪問する場所でもないので、あえて知らない方に知らせる必要もないかと。



長々となりましたが、以上の点ご了承くださいね。^^

ただ私がりっぱだなと思うのは、江戸さんのご尊父である亡くなった三井不動産の会長だった江戸英雄さんです。

娘と離婚したかっての義理の息子の音楽活動を、最後まで様々なかたちで支援されていました。

これは小澤さんの才能と、音楽への情熱、そしてひとりの人間同士として共感できるからなのでしょうが、その姿勢にはあたたかみと清々しさを感じます。



>ムローバはアバドと同棲していますよね



おお~~~~っ!!!これは驚きです。

ムローバとアバド、ベルリンフィル共演のブラームスVn協に関しては、いつかブログに書きたいと思っていたのです。ふむふむ。

まあ音楽家は、みまさまたいそう情熱的らしいですし。。。(笑)



それでは、またのご訪問をお待ちしております。
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jassiさまへ (樹衣子)
2006-02-13 23:11:58
清水直子さんに関しては、国内でもあまり知られていないと思うのです。

何故ならばヴァイオリンで世界的なコンクールで最高位を受賞すると、マスコミを大きくとりあげて、ソリストとしてオケと協奏曲を演奏したり、リサイタルを開いたりして、知名度があがっていきます。しかしヴィオラは、romaniさまもブログでふれてっらっしゃいますが、独奏曲があまりないので、その後華々しく演奏活動に入るというわけではないのです。ですからその実力に比較して、活動は地味になりがちです。

たまたま清水さんに関しては、大学時代の同期でヴァイオリンを弾かれている方が、清水さんがジュネーヴ国際コンクールで2位(1位なし)を受賞された時、まるで自分のことのように喜んでお話をされていた時の印象が、今でも残っているのです。

音楽家を志すのは、覚悟がいります。でも、考えると覚悟がいる職業は、音楽家だけではないのですね。やはりそこには、突き動かされるような、まさに”情熱”があるのでしょう。その情熱をもって、将来の夢を追いかける人は、追いかけられる人は恵まれているとも私は思うのです。



「情熱大陸」は、時間が短くてあっというまに終わってしまいますが、良い番組ですね。

ドイツは音楽の本場ですから、機会があったらベルリン・フィルへ♪
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良い顔していますよね (樹衣子)
2006-02-13 23:26:14
マティスとクレー夫婦のことは、全然知りませんでした。

考えてみれば、同じベルリン・フィルの安永徹さんも、ピアニストの奥様である市野あゆみさんといつもリサイタルをされていましたね。以前エッセイを読んで、けっこう厳しくクールな方だという印象があるのですが、一度聴きに行きたいと思っています。こうしてみると、うまくいくと音楽家同志の結婚は、ベストカップルになりますね。



>掲載されている清水さんの写真素敵ですね



そうなんですよ。素顔の清水さんは、大きなヴィオラを背負ってとことこ歩く、けっこう庶民的なお姉さんという印象でしたが、この写真はテレビで放映された彼女の音楽性がよく表れていると思いました。冷静な中に、情熱がある演奏。まさにこのお顔だな、と思いました。

すごくよい写真です。
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江戸京子さんのファンなのです (calaf)
2006-02-14 01:37:45
こんばんは、清水直子さんの記事なので、一種のルール違反ですが、実は私は大の江戸京子ファンなのです。小澤征爾と結婚する前でしたかテレビでバッハのヴァイオリンソナタをやっておりました。その時ピアノを弾いていたのが江戸京子さんでした。主張が強いとでもいうのでしょうか、音楽院の教授が生徒のヴァイオリンを支えているといった演奏に驚いた記憶があります。この印象があまりにも強いためヴァイオリニストの名は記憶に残っていません。「小澤と結婚するときも独身のままでいて欲しかったのに」と思ったぐらい、熱烈なファンでした(今もそうですが)。
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そうだったのですか^^ (樹衣子)
2006-02-15 00:55:23
江戸京子さんのファンだったのですね。それはルール違反ではなく素適なお話しですよ。あまり堅苦しくお考えにならないでくださいね。

ところで、calaf様は男性だったのですね。失礼しました。ママと娘のレッスンだと思い込んでいました。



>小澤と結婚するときも独身のままでいて欲しかったのに」と思ったぐらい、熱烈なファンでした(今もそうですが)。



そうきましたかっ。(笑)納得です。若いときの江戸さんも小澤征爾さんも存じ上げていないのですが、お写真で拝見すると江戸京子さんは可愛い系の美人ですね。先日皇室の方と演奏会にいらっしゃるお姿をテレビで観ましたが、今でも品と華のある方という印象をもちました。

さすがに小澤征爾さんは、女性の選択基準も高いと思いました。元々小澤さんが、ブゾーニ国際コンクールに出場するきっかけを与えたのも、江戸さんからの情報ということから、女性運も強いのでしょう。なかなか世の中の男性の嫉妬の対象ですね。
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