千の天使がバスケットボールする

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「地図と領土」ミシェル・ウエルベック著

2014-03-02 15:40:43 | Book
ジェドは、1976年生まれの美術家。
孤独を好むというわけではないが、美大出身の同級生たちとは疎遠気味。幼い頃に母を亡くしたが、建築家として世間的に成功して引退をした父は健在で、クリスマスをともに過ごす。そう言えば、クリスマスで父に会わせる女友達はいない。目下、恋人募集中、、、と言えるほど、女を必要とする青年でもない。クリスマスで同じベットで過ごす女性よりも、ボイラーの修理の方が彼にっては大問題だ。

そんなジェドだったが、ミシュランの地図に魅せられて、地図をモチーフに写真を撮り、大学時代の仲間の展覧会で発表したところ評判をよぶ。彼の作品に興味をもったロシア人の美貌の恋人もでき、続いてすすめられるままに開いた個展も大成功したのだが。。。

現代は、大衆による消費社会である。芸術の分野も資本主義とは無縁ではいられない。ジェドが気ままに転向した油絵の作品も、仕掛ける者のプロデュースと、著名な評論家や批評家の解説で飾られれば、大金のお値段がつき、作品を購入できる財力のある者の手に落ちていく。かくして、市場主義社会に生きる現代のジェドは、一気にアーティストという豪華な肩書きとともに、その職業がもたらす金のなる振り子を手にした。ついこの間まで、ボイラーの修理にやきもきしていた無趣味で小心者のジェドが!ところが、作品の解説を隠遁生活を送る世界的な人気作家のミシェル・ウエルベック(著者本人)に依頼したところ、とんでもない猟奇的な事件にまきこまれてしまう。

発表する作品がいつも論議をよぶミシェル・ウエルベックの待望の新作が、本作の「地図と領土」である。
今回も各国で本格的に論じられ、2012年には作家本人も参加した国際学会では、50名の研究者たちが集結したそうだ。芸術、消費社会、情報社会、産業社会、父と息子の関係、孤独といくつもの投げかけが本書にはしかけられており、なるほど、ウエルベックの挑発にのって様々な論議の価値がある一冊だ。さぞかし、その学会は熱気に包まれただろうと推測する。

ビル・ゲイツや亡くなったスティーヴ・ジョブズだけでなく、フランス人だったらよく知っているであろうマスコミ人やシェフなどが実名で登場してくる。内容の辛辣さと深さとは別に、ユーモラスでお茶目な文章がさえている。ジェドがある複数の写真から、フラクタル理論を芸術作品に結実させたジャクソン・ポロックの作品を思い出す場面など、これ以上ないくらいグロテスクでありながら、まさにウエルベックの真骨頂をみた気がする。

ところで、主人公のジェドが開いた最初の個展のタイトルは、「地図は領土よりも興味深い」。
その後、ジェドは年齢を重ねて2046年まで生き、天寿を全うする。果たして、死して彼が残したものは何だったのか。読者は、ウエルベックの凝った技巧のしかけの謎とともに、フェルメールの「天文学者」の表紙を改めて眺めることになる

■ミシェル・ウエルベック原作の映画『素粒子』・・・こちらもお薦め


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