千の天使がバスケットボールする

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「インターセックス」帚木蓬生著

2009-04-11 16:26:23 | Book
「インターセックスとは、男性と女性の中間に位置するさまざま性を意味する。人間の性は原始の時代から、男と女の二つに分類されてきたが、宗教の世界でもこの二分法は変わらず、旧約聖書ではアダムとイヴから人間の歴史が始まっている。しかし、男と女に二分する方法は、全く観念的なもので、自然界の現実を反映していない。」

・・・そうだ。もう少し具体的に説明すると主に次の5つのタイプが存在する。
①性染色体がXXかXYのどちらにも属さない。生物の授業で学習した記憶のあるXXYなど
②アンドロゲン不感受性症候群・・・性染色体はXYなのに外見は男性
③先天性副腎過形成・・・性染色体はXXなのに外見は女性
④性染色体はXXで外見は通常の女性、但し外性器などは未完成・・・もしかしたら小野小町がこのタイプ?
⑤真性半陰陽・・・卵巣・精巣組織をもち、外見も男女の特徴をあわせもつ

これは、本書の主人公で、スタイル抜群で美貌、優秀な泌尿婦人科の専門医である秋野翔子の診察を受けている、ある”患者”の定義を要約したのだが、実際はもっと他にも様々なタイプがあるそうだ。しかも、広義の発生率は100人に1.5人。私も含めて世の中の殆どの方は、おそらくこの発現率にまさに驚愕するだろう。(それを考えるとGacktさんのあの妖しげな美しさなんか、⑤のタイプを疑われちゃうかもしれない)そんなにいるのか!けれども、相違が肉体の最たる秘所、しかも本人は勿論、家族もまるでそれ自体が何かの罪であるかのように沈黙するか、当人を避けてきたために暗闇に放置されてきたのだった。

さて、ここで私があえて「患者」という単語を使ったのだが、インターセックスにたまたま生まれついたマイノリティの人々に治療を施す必然性の論議が本書の要でもあるからだ。彼、もしくは彼女たちは、本当に治療しなければいけない”患者”なのか。これまで、ジョン・マネーの早期性同一性発展論によって、インターセックスに生まれた人々は、幼い頃より自分の性意識を認識させるために、外性器の形成などの何度もつらい手術を施されていた。人間は無意識のうちにマイノリティとマジョリティに分別する罠に陥りやすい。似た者夫婦という言葉があるが、電車の中で顔立ち雰囲気がよく似ている夫婦を見かけることがある。人は意識せずに、自分と似たカタチを求める本能があるとしたら、自らと異なるタイプのマイノリティ派、異端児、異形を排除しようとするのではないだろうか。極論すれば、本書では医師は生理的にマイノリティを嫌悪すると言っているが、そもそも人間の集団は異分子をはじく社会性を本能でもっていると言えないだろうか。
翔子のドイツ人の友人マリタが「治療という行為は、病気というマイノリティを健常というマジョリティに近づけることであり、もっと医学は多様性を受け入れなければならない」としているが、それは我々の人間性にも関わることだとも考える。

秋野翔子は、岸川が病院長を務め、最先端の生殖医療を行うサンビーチ病院にヘッドハンティングされた。
本書は別の生殖医療を扱った「エンブリオ」のもうひとつ側面から書かれたサイドストーリー的な物語である。神の手のような岸川の才能に隠された疑惑や、「ファーム」と呼ばれる関係者以外立ち入り禁止の謎の施設、翔子の友人がサンビーチ病院に併設されたホテルで突然死をしていたことなど、謎解きをからめてサスペンスタッチで物語はすすむが、本来の読むべき内容は、翔子や友人の医師、患者やその家族を通じて教えられる「インターセックス」そのものだろう。中でも、マリタがオブザーバーをつとめる自助グループの参加者たちの告白である。まさに多様な性がこの世には確かに存在し、医学的な説明もされずに苦しみ悩んできた人々のひとりひとりの歴史に無視することはできない。最近は認知されている性同一性障害は頭と肉体の性不一致であるが、インターセックスは頭も白黒つけられず、肉体もどちらかに明確化できない。これまで「医者でさえほとんどが知らないインターセックスという言葉を、まず認知してもらいたい」という著者の期待以上に、偶然にとまどい苦しむ”患者”への理解への橋渡しになるであろう。

また、女性の心臓が男性よりも小さいのに薬の量は男性の心臓を基準に考えられていたり、医薬品の臨床試験では女性は妊娠のリスクがあったり、多くの薬を服用しているとの理由から中年女性は排除されて、日本では大半は男性を基準に認可された薬剤となっている。(漢方は男女で処方の内容が違う)その一方、効用も薬害も不確かなサプリメントの消費者は女性が多い。けれども高血圧患者、糖尿病、冠動脈疾患が多いのが、女性ということを聞けば、自ずと”性”の違い、”性”を考えざるをえない。医学的知識もわかりやすい本書は、ともすればキワモノを扱った興味本位に陥ることなく、なかなか考えさせられるのは、この作家ならではの作品だからだろう。

ちょっと胸のすくようなエピソード。
なんと9世紀半ば、33歳でコンクラーヴェの第一回の投票で就任したローマ法王、ヨハネス8世は、実は女性だったという説である。
染色体は46XX、身長も高かったが側近のこどもを身ごもり、出産時の出血で急死、歴代法王のリストからは消されている。この事件から、穴のあいた椅子に新法王が座ると若い神父が後ろから手をのばして、ちゃんと?触診をするようになった。この珍奇な赤大理石の椅子は、実際にバチカン博物館にあるそうだ。

■アーカイブ
「受命 Calling」
「聖杯の暗号」


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