日本の精神世界関係者の間で、「知る人ぞ知る名著」として知られる葦原瑞穂氏の「黎明」を、今やっと読んでいる。10年前の本で、筆者もちょっと前から持ってはいたけど、まだ読んでなかった。
葦原瑞穂氏は、教祖として祀り上げられるのを嫌ったためもあって、八ヶ岳で静かに暮らしている。地元では「八ヶ岳の聖人」とも「八ヶ岳の仙人」とも呼ばれているようだ。「精神世界の歩く百科事典」と呼ぶ人もいるほど、この分野に造詣が深い。八ヶ岳といえば、あの浅川嘉富氏も住んでいるという、日本におけるUFOウォッチャーのメッカだ。葦原瑞穂氏も、地元のUFO関連のイベントには、「著名なUFO研究家」として登場するらしい。もちろん、筆者にとっても憧れの地ではあるのだが、寒いのが苦手なので住むのは無理と思われる。
上下巻に分かれた大著の「黎明」は、長くて読むのに時間がかかる。葦原瑞穂氏は、量子論を初めとする物理のことも非常によく勉強していて(これも独学なんだそうな・・・)、特に最初の方は物理関連の話がよく出てくる。「科学的な話に慣れていない人は、最初の方を読み飛ばしてもらって構わない」と、著者本人も前書きに書いているほど。
それはともかく、「黎明」の内容はきわめて包括的かつ網羅的で、読んだ人が異口同音に言うように、とても10年前の本と思えないほど、今でも斬新だ。最近になって流行しているような話も、ほとんど出てくると言っていい。それでいて、精神世界の古典も総復習できるようになっている。「これから精神世界を学びたい」という人が最初に読む一冊としてはオススメできないけど、いつかは読んでおいた方が良い本なのは確か。
冒頭で挙がっている「精神世界の様々な分野」としては、
>人間の知覚と意識の科学的な探求から初めて、インドのヨガやヒマラヤの聖者たちの世界、日本神道や仏教、ヒンズー教やキリスト教といった宗教の側面、そしてニューエイジと呼ばれる新しいアプローチや地球外生命(Extra Terrestrial)に関する情報も含めた、全体の関係を一望できる視点
・・・と、著者自身が「序章」に書いている通り、多くの分野にまたがっている。
プロフィールがほとんど公開されていないナゾの人物だけに、思想的なベースや背景を探るのは難しい。でも、フリーな立場の人なのは確かなようだ。どこかの教祖との関連性とか、そういうのは特に感じられなかった(当たり前か・・・)。
ただし、大本教の出口王仁三郎の話はよく出てくるし、「日月神示」や「大本神諭」を始めとする、大本系の神示のことにもくわしい。さらには、「奇魂」(くしみたま)といった「生長の家」系の用語がときどき登場するし、「世界人類が平和でありますように」という白光真宏会のスローガンを「マントラ」として挙げているところを見ると、大本教とその流れをくむ神道系宗派には、ある種のシンパシーを感じている様子がうかがえる。「葦原瑞穂」というジャパネスクなペンネームからしても、復古神道への思い入れの強さが感じられる。
でも、それ以上にベースになっているのは、西洋の神智学系統のようだ。ブラヴァツキー夫人やリードビーター師の著書からは、しょっちゅう引用している。ただし、神智学には言及することも多い代わりに、批判することも多い。アリス・ベイリーについては、ちょっと悪魔系(?)が入っちゃった人として見ている感じもするけど、「黎明」にはよく登場する。ルドルフ・シュタイナーの話はあまり出てこない印象。クリシュナムルティについては、「誰も覚醒しなかった神智学協会からの出身であるにもかかわらず、自分自身は覚者になったという例」として名前を挙げている。
それから、インド人のグルたちや、ヒマラヤ聖者への傾倒ぶりも目立つ。「インドの大師」たちの言葉は、全体を通して繰り返し登場する。その中には、筆者にとっては「イカサマ手品師」としか思えない、サティア・サイババも含まれている(笑)。でも、そういう細かい解釈の違いを言い出したらキリがないのが、この世界の常。いちいち異議を唱えていたのでは、そのたびに話がストップしてしまう。
仏教やキリスト教の話も出てくるけど、イエス・キリストを「イエス大師」、釈迦を「釈迦大師」と神智学的な名で呼んでいるのが目につく。釈迦より、イエスの方が登場頻度は断然多い。ただし、この本に出てくる「イエス大師の言葉」は、聖書からの引用よりも、「奇跡のコース」や「心身の神癒」といった、「イエスからのチャネリング」とされている現代のチャネリング文献のものが多いみたい。
要約すれば、欧米の神智学と日本の復古神道をベースに、精神世界・チャネリングへの造詣が全般的にとにかく深い。さすがは、「八ヶ岳の聖人」だ。
(つづく)