【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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山本作兵衛『炭鉱に生きる-地の底の人生記録』講談社、2011年新版

2011-10-24 00:15:52 | ノンフィクション/ルポルタージュ

          
 山本作兵衛(1892-1984)による筑豊炭田の鉱山(ヤマ)での労働、生活を映画いた585点の絵画、6点の日記などが「世界記憶遺産」として2011年5月に日本国内から初めて登録されました。

 「世界記憶遺産」はUNESCOが主催する三大遺産事業のひとつで、これまでに「アンネの日記」「ベートーヴェン第9の直筆楽譜」「グーテンベルクの聖書」「ゲーテの直筆文学作品」「東医宝鑑」「キルケゴールの手稿」などが登録されています。山本作兵衛の絵画と日記が、これらに仲間入りしました。

 本書は1967年に一度出版されたものが、今回の登録を記念して装丁を変えて新版されたものです。多くの画が挟まれ、作兵衛の文章「ヤマの生活」「ヤマの米騒動」「ヤマの労働」が綴られています。

 作兵衛は福岡県嘉穂郡の生まれ。7歳ころから抗内にさがり、50余年一筋にヤマの仕事に従事しました。その実際を孫に伝えようと60歳を過ぎて絵画に記憶を刷り込み、明治、大正、昭和のヤマの姿を克明に活写しました。

 画になった対象はおよそ明治30年代の後半から米騒動あたりまで(1918年)です。子どものころから画を描くことは好きだったようですが、正統な教育は受けていません。しかし、一連の画には、ヤマの過酷な生活にふさわしい描き方がなされ、誰も真似ができません。

 画で描ききれない部分は、文字で補足されています。画の内容のリアルさには驚かされます。入坑の様子、切羽での夫婦一体の労働、座り堀り、見せしめのリンチ、入浴(混浴)など。

 納屋制度(会社からの請負で労働者の雇い入れから労務管理の一切をとりしきり、会社から歩合を、労働者からは賃金をピンハネする中間搾取の機構)のもとで労働の実態は悲惨そのもの、生活は極貧でした。納屋頭は顔役的なヤクザまがいの男が担い、人繰りと呼ばれる監督や会計役の勘場を配下におき、暴力で怠業を監督し、私生活の細部にまで目を光らせていました。
 逃亡はかなわず、発覚すると徹底的なリンチに遭います。労働の対価は切符。ピンハネは日常茶飯事でした。

 こうした実態は作兵衛の画と文章がなければ永遠に歴史の闇に消えてしまったかもしれなかったのです。素晴らしいの貢献のひとことにつきます。

 ご本人はこれらの画で全国的に有名になっても、いたって質素で清らかな身すぎぶりだったといいます(菊畑茂久馬「不世出の千両役者に似て暗闇を突き抜けた清冽さ」)。


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