「坂の上の雲」の第二分冊。この分冊では日清戦争(黄海海戦、威海衛、旅順)とその後の日露戦争にいたるまでの列強の動きがテーマです。
サブテーマとして子規が病の進行にもかかわらず、渇望して従軍記者になったこと(旅順など)、帰国後の松山での「愚陀仏庵」「獺祭書屋」のこと、根岸の「子規庵」での様子が書かれています。
明治維新からそれほど時間がたっていない日本が清国になぜ勝利したかが、よくわかりました。その理由は著者によれば、清国に国家的なまとまりがなく、軍に覇気がなく、兵に帝国への忠誠心がなかったからでした。「勝利の最大の因は、日本軍のほうにない。このころの中国人が、その国家のために死ぬという観念を、ほとんどもっていなかったためである」(p.118)と書かれています。
著者はこの時代の「気分」を描いていますが、特筆すべきは戦争を合戦のように思う無邪気な興奮と高揚が日本の社会を覆っていたことであり、知識人といえども戦争を否定するものはなかったことです。それが「戦争そのものについての懐疑や否定の思想が知識階級の間にめばえるのはさらにのちのことである」(p.123)という叙述になっています。
日清戦争後の列強の中国への帝国主義的進出と角逐、思惑と駆け引きの様相はこと細かに書かれていて勉強になります。
また軍人であり、子規と出身地を同じくし、お互いに交流のあった軍人秋山兄弟の活動も入念に書き込まれています。好古の騎馬隊の研究、日露戦争に至る前の清国での外交ぶり、米西戦争での真之の観戦武官としての軍事研究についてはの活写は、生き生きとしていて、目の前に彼らが居るようでした。
[忘備録]登場人物は他に、高浜虚子、河東碧梧桐、夏目漱石、正岡八重(母)、正岡律(妹)、陸羯南、小村寿太郎、ベルナップ、マハン大佐、ウィッテ、ピョートル大帝、アレキサンドル三世、ニコライ二世、丁汝昌、袁世凱、李鴻章、等々。