【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

中村哲『アフガニスタンで考える』岩波ブックレット、2006年

2019-12-12 21:02:35 | 政治/社会


 アフガニスタンのことが、相変わらず知られていません。正確な情報が報道されていません。

 著者が日本にたまに戻ってくると「アフガンは落ち着きましたか?」などときかれ愕然とするそうです。そんなに報道がないのかと。

 実態は米軍、英軍の介入でますます泥沼化しているそうです。診療所も閉鎖せざるをえなくなったところが出ているそうです。飢餓も拡大しているそうです。

 食糧の確保、灌漑の普及、成果は徐々にでてきているというのがせめてものなぐさめです。米軍の空爆でタリバンが倒され「正義のアメリカ」により、アフガンに「自由とデモクラシー」がもたらされたかのような誤解が蔓延しています。そういう最中、国連の経済制裁があり、国民の困難は極まっているそうです。

 著者の現地での医療と性格支援活動の鉄則は、「異なる文化・風習に接して単に『違い』でしかないものを『善悪や優劣』にわけてとらえないこと」、「制約された文化・風習の中で『その患者にとって最善のものは何なのか』を探り準備すること」だそうです。

 教訓は「お金さえあれば幸せになれる」「武力があれば自分の身を守れる」というのはどちらも「迷信」の類だと著者は言っています。

 実践家ゆえに、言葉に力があり、無駄がありません。


郭洋春『TPP すぐそこに迫る亡国の罠』三交社、2013年

2013-06-11 22:29:52 | 政治/社会

          

   装丁と本文の強調箇所の太文字のインパクトがありすぎるので、政治的プロパガンダ本かとの第一印象だったが、内容を読むと、TPPの危険性と、これを止めることの緊急性に対する著者の主張、想いの反映に他ならなかったのだということが分かる。


   著者はTPPをひとことで言うと「現代版経済帝国主義」と断定している。現政権はこのTPPへ加盟を画策しているが、もしこれが現実化すると、日本は大変なことになる、具体的には、農業保護のための補助金は許されない、BSE牛肉の輸入を阻止できない、公共サービスが剥奪される、エコカーは違反と訴えられる、安全基準は黙殺される、公共事業が外国企業の草刈り場になる、学校の存在目的が金儲けになる、中小企業が衰退し国も衰退する、地方条例も覆される、国内法も変更を迫られる、要する日本国民はにアメリカ企業に弄ばれ、餌食となってしまうというわけである。

   さらに、国民生活にとって生命線である、脱原発も不可能になり、食品表示がなされなくなり、国民皆保険制度の土台がくずされ、郵貯・簡保もアメリカ企業の利益目的に再編されてしまう。

   アメリカの言うとおりにならなければ、伝家の宝刀「ISD条項」が発動される。これは、投資家(企業)が進出先で不当な扱いを受け、期待した利益があがらないと判断すれば、国家を訴えることができるというもので、訴える先は国際投資紛争解決センターで、世界銀行傘下の組織(その総裁は一貫してアメリカ国籍)、仲裁審判員の最終任命権はアメリカの影響下にある同センターの事務総長である。アメリカ一人勝ちの構造がつくられている。

  著者は、こうした危険性をもつTPPの中身が、すでに2012年に米韓で締結されたFTAとして前提になっていて、既に韓国ではその弊害がいたるところに出ていることを明らかにしている。

  問題は、こうした危険な内容が国民にほとんど知らされていないこと、実は与党の自民党閣僚をはじめ政府関係者さえ内容を知りえない仕組みになっていることである。日本の主権、領土、文化が根こそぎ侵略される、そんなことがまかりとおっていいのだろうか。日本の豊かな未来は農業と観光産業を軸にした成長戦略であることを提唱して、著者は本書を閉じている。巻末に、俳優の山本太郎氏との対談。まことに時宜を得た出版といえよう。


岩井浩・福島利夫・菊地進・藤江昌嗣編著『格差社会の統計分析』北海道大学出版会、2009年

2013-03-15 00:09:35 | 政治/社会

         

 格差社会の諸問題が、3編13章からなる諸論考で分析されています。その問題意識は、社会科学としての統計学の視点から、格差構造の実態を解明することにある、とされています。格差というと普通は、資産、所得、雇用のそれがすぐに頭に浮かびますが、本書はそれらはもちろんとりあげつつ、、他に年金、医療、健康などのそれについても論じ、意欲的な内容になっています。
 独自の実態調査、ミクロ・データやリサンプリング・データの利用と再分類・再集計によって新しい統計利用が検討されているのも特徴的です。


 第一編では「人口・労働」が、第二編では「生活・福祉」が、第三編では「地域・環境」がテーマとして取り上げられ、上記のようにそれを統計を使って分析、検討されています。詳細は以下のとおりです。

<第1編:人口・労働と統計>
「第1章:日本の人口動向と格差社会」(廣島清志)
「第2章:現代の失業・不安定就業・『ワーキング・プア』」(岩井浩)
「第3章:雇用労働者における年齢および所得水準による労働時間格差」(水野谷武志)
「第4章:労働者属性別にみた賃金格差の検討」(小野寺剛)

<第2編:生活・福祉と統計>
「第5章:税務統計にみる個人所得分布の二極化」(山口秋義)
「第6章:年金格差と高齢者の貧困」(唐鎌直義)
「第7章:医療制度改革による国民医療保障への影響」(鳴海清人)
「第8章:日本における世帯の土地利用」(田中力)
「第9章:格差・貧困社会と社会保障」(福島利夫)

<第3編:地域・環境と統計>
「第10章:地方自治体の政策形成と統計」(菊地進)
「第11章:格差社会の地域ガバナンスと地状学」(藤江昌嗣)
「第12章:健康の不平等」(藤岡光夫)
「第13章:地球温暖化問題における二酸化炭素排出格差」(良永康平)


カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本/権力構造の謎(上)』早川書房、1994年

2013-03-04 01:04:38 | 政治/社会

            

  日本という国が、その国民性において、社会の成り立ち・構造において、文化・風習において、世界でも珍しい特徴をもった国であることはよく知られている。戦後、平和憲法をもち、民主主義の国となり、近年では国際化、情報化が強調されているが、それらは建前であって、社会の仕組み、人々の精神の有り方は、近代的自我、合理的精神、民主主義などの本来の形からほど遠く、国際性などもともとなく、閉鎖的社会そのものである。ムラ社会、タテ社会、コネ社会が沁み渡り、長いもののには巻かれろ、ことなかれ主義が旧態依然として残っている。


  この程度のことは広く言われていることであり、本書も基本的にそういう観点で日本をながめているが、特徴的なのはそうした事実を権力構造に焦点をしぼって、体系的に、網羅的に、分析していることである。くわえて、政治、経済、司法、教育など社会全般にわたって、多くの事例をとりあげ、説得的に論じている。

  キー概念として、著者は<システム>という語を使っている。この<システム>というのは、国家でもなく、社会でもなく、「一国の政治的営みをすべて包含するもの」(p.123)、「社会・政治的な営為に携わる人びとの間のその相互作用がおおよそ予想できる一連の関係」(pp.123-4)、「日本人の生き方を、また、だれがだれに服従するかを決定する機構をいうのにふさわしいもの」(p.124)である。これを維持、管理する階級が、「アドミニストレーター」(「構成員の資格基準および管理者間の業務を統御するルールを仲間うちで非公式に管理」する者[p.242])である。

  著者はこの<システム>と「アドミニストレーター」という概念を使って、切り込んでいく。その結果、うかびあがってくるのは、本来の政治的権力とは無縁の責任の所在があいまいで、形式的な上下関係が色濃くのこる、とらえどころのないこの国の権力の力学と構造である。実例は豊富。政界の駆け引き、ジャーナリズムの果たす役割、東大法学部の位置、サラリーマンの生態、教育界の実態と日教組の位置、企業組合・農協・総会屋・地上げ屋の存在意義、選挙制度と集票構造、建設業界の構造、司法界の実情、暴力団の存在意義、警察機構の特性、電通の果たす役割、などなど。

  日本社会に横行する特異な権力構造を徹底的に分析した、衝撃の日本社会論である。著者はオランダ・ロッテルダム出身のジャーナリスト。日本人にも書けない内容のものをよくこれだけしっかりとまとめえたものだ、と感心させられた。

  上巻の目次は以下のとおり。「第1章:”ジャパン・プロブレム”」「第2章:とらえどころのない国家」「第3章:抱き込みの包囲網」「第4章:<シズテム>に仕える人々」「第5章:アドミニストレーター」「第6章:従順な中産階級」「第7章:国民の監護者」「第8章:法を支配下におく」


松本善明『謀略-再び歴史の舞台に登場する松川事件』新日本出版社、2012年

2013-02-03 00:05:24 | 政治/社会

            

  松川事件(1949年8月)では、機関士1名と副機関士2名が死亡した。その人たち、また家族にとっては、とんでもない事件にまきこれたことになる。人生がめちゃくちゃになった。犯罪被害者等基本法というものがある。しかし、この法律は遡及しての適用ができない。そこで著者は、仁比聡平参議院議員と相談し、ときの法務大臣(千葉恵子)に松川事件殉職者に関する新法の検討を要請した(2010年5月)。


  本書は、その著者が殉職者の遺族の立場から考察した松川事件とその後である。くわえて三鷹事件で典型的冤罪のまま獄死した竹内被告の事情と御子息による死後再審の請求についても厳しく言及している。さらに破防法成立を謀る謀略事件だった菅生事件(1952年6月)、辰野事件(1952年4月)、芦別事件(1952年7月)、青梅事件(1952年2月)、メーデー事件(1952年5月)、吹田事件(1952年6月)、鹿地事件(1951年1月)を分析している。

  松川事件の究明に関しては、おおむね松本清張(『日本の黒い霧』)と大野達三(『松川事件の犯人を追って』)の研究成果を踏襲しているが、著者は犯人とおぼしき人物から書簡を受け取った本人でもあるので、「真犯人からの手紙の分析」が細かい。

  どの謀略も、目的は日本を「不敗の反共防壁にする」というマッカーサー声明の精神の具体化だった。その具体化の先端にあったのがウィロビー計画である。犯人は自ずからアメリカの謀略組織、具体的にはCIC(米陸軍諜報部隊)ということになる。列車妨害の専門家がかつて日本で暗躍していたのである。著者は将来アメリカの公文書館などから真犯人の特定にせまる情報が明らかになるだろうということを期待をもって展望している(p.190)。


大野達三『松川事件の犯人を追って』新日本出版社、1991年

2013-02-01 00:01:26 | 政治/社会

           

  松川事件とは、1949年(昭和24年)8月17日午前3時9分頃 、福島県信夫郡金谷川村(現・福島市松川町金沢)を通過中だった青森発上野行き上り412旅客列車(C51形蒸気機関車牽引)が、突如脱線転覆した事故のことである(その一か月ほど前には、三鷹事件が起きている)。

  現場は、東北本線松川駅 - 金谷川駅間のカーブ入り口地点で、先頭の蒸気機関車が脱線転覆、後続の荷物車なども脱線。機関車の乗務員3人(機関士と2名の機関助士)が死亡した。現場検証の結果、転覆地点付近の線路継目部のボルト・ナットが緩められ、継ぎ目板が外されているのが確認された。
  更にレールを枕木上に固定する犬釘も多数抜かれ、長さ25m、重さ925kgのレール1本が外されていた。周辺捜索の結果、付近の水田の中からバール1本とスパナ1本が発見された。事件件発生から24日後の9月10日、元国鉄線路工の少年が傷害罪で別件逮捕され、取り調べを受けた。
  少年は逮捕後9日目に松川事件の犯行を自供、その自供に基づいて共犯者が国労員、東芝労組員、都合20名が逮捕、起訴された。一審では20名全員が有罪(うち5人死刑)、二審では17名が有罪(うち4人死刑)、4名が無罪。しかし、この判決に抗議する国民的規模の運動が澎湃として起こり、広津和郎、川端康成、宇野浩二、吉川英治、松本清張などの作家がこれを支援した。
  結局、1963年9月の最高裁判決で全員無罪確定、歴史の汚点となる冤罪事件であった。

  本書は、被告の無罪確定の勝利に続く、この事件の真犯人究明の書である。犯人とおぼしきグループから松本善明弁護士に宛てた書簡、この件に先だって松本弁護士(当時は司法修習生)・ちひろ夫妻の身辺で起きた事件(留守の盗難、お手伝いさんの失踪と怪死)との関係、当時起こった関連の鉄道脱線・転覆事件との共通点、日本少女歌劇団の松楽座での公演との関わり、背景としてあった1950年前後の国際情勢とアメリカ極東戦略と日本国内の民主化運動の高揚など、著者はいろいろな角度から考察をくわえ、主犯はCIC(米陸軍諜報部隊)を統率していたセクションG2のボス、ウィロビー准将と推定している(p.75)。

  続いて、著者は、ほぼ同じころに起きた下山国鉄総裁轢断事件をとりあげ、事件の究明を行っている。下山事件(しもやまじけん)とは、日本が連合国の占領下にあった1949年(昭和24年)7月5日朝、国鉄総裁下山定則が出勤途中に失踪、翌日未明に死体となって発見された事件(その年の末に「下山事件特別捜査本部」は解散)。
  本書は松川事件の真犯人究明と同様に、この件でも、多角的に真相解明にとりくみ、下山総裁が何者かによって計画的、組織的に殺されたこと、当時からあった自殺説そのものがしくまれたものであったこと、究極的にはアメリカが日本を反動化させる目的で非常手段として決行した軍事作戦(オペレーション)であったと結論付けている(p.143)。

 末尾に「秩父事件・スパイM・祖母のことなど」のテーマで書かれた文書を含む。

 

 


ブランコ・ミラノヴィッチ/村上彩訳『不平等について-経済学と統計が語る26の話』みすす書房、2012年

2013-01-11 17:44:24 | 政治/社会

              

  「はしがき」で著者はこの本を書いた目的などを記しているが、内容と一致していて好感がもてた。翻訳もわかりやすくてよい。普通の訳書には「訳者あとがき」があり、当該本の位置づけ、訳出した動機、著者の履歴などが書かれているが、本書にそれはない。そのため、この著者は世界銀行の研究部門のリードエコノミストでメリーランド大学教授であること以外に、どういう人なのかがよくわからない(著者が日本人でないときは、その紹介があったほうがよい)。


 それはともかく、現代から過去にさかのぼって所得と富の不平等を考えるのが、本書のテーマ。所得と富の格差の問題、富裕と貧困の意味することの重要性を、日常生活の側面から、さらには歴史的な側面からの解明することが狙い。このテーマをユニークで堅苦しくない切り口で、この問題が日常のさまざまな場面(日々の出来事や家庭の食卓、学校、オフィスでかわす議論)に満ち満ちているかを示すことに注意がはらわれている。

  不平等は3種類に区分されている。単一のコミュティ(国家)の内部における個人間の不平等、国や民族の間の不平等、世界の全ての市民の間に存在するグローバルな不平等。それぞれに独立した「章」が与えられている。そして各章に短いエピソードが付され、それらは例えば古代ローマの不平等の実例、新聞記事になった話題に関連した事項(バラク・オバマ家、グローバルな中間層、移民問題)などである。このエピソードが読み応えがある。『高慢と偏見』のダーシー、『アンナ・カレーニナ』のアンナは所得分布のどの位置にいたのか。ローマ帝国はどの程度の不平等度をかかえていたのか。社会主義社会の不平等はどのくらいだったのか、など全部で26ある。なかでは、中国が内包する看過できない経済的不平等のゆえに、国家的統一の脅威にさらされる危険性があるという暗示は印象にのこった。

   以上は「はじめに」で著者が述べていることの抜粋と敷衍であるが、著者はさらに次のことを付け加えている。読者に楽しんで読んでほしいこと、富と不平等の問題に世界がもっと関心をよせてほしいこと、現在の危機の時代に貧富の問題を社会的論争の中心に据えることで、旧態依然の社会運動に一石を投じることである。

  通読すると、著者の意図は基本的に成功しているが、重要なのは著者の意図を読み取った読者がバトンを受けてぞのあとにどのような行動を起こすかであろう。

  豊富なデータが使われ、主要な手法はジニ係数の測定である。基礎データは世界銀行と世界の所得分布のデータベースで、ここには世界の大多数の国々の家計調査データが含まれているという。必要な読者には、データの提供を厭わないと書かれ、メールアドレスも記載されている。


円道まさみ『アメリカってどんな国 ? 』新日本出版社、2002年

2012-09-02 00:17:35 | 政治/社会

                                

                            

 

  アメリカについての虚飾のないレポート。

 アメリカは基本的に自己中心的で,自国の世界観を全て善とみなし,自国の自由と正義を世界のそれとみなす国。国家はメディアを使って,そのように国民を管理している。

 手軽で合理的なことを望み,金銭への執着は尋常でなく、莫大な軍事費と荒廃した教育,貧困な医療制度の並存,国民健康保険制度の不在,いまなお深刻な人種差別と人権侵害。

 なんと,この国は国連の「子どもの権利条約」を批准していない。その理由は,この国が維持する子どもの死刑制度と同条約に書き込まれている未成年犯罪の処刑禁止条項と抵触するからだというのだから驚きだ。

 ブッシュJr.以降,そして9・11テロ以降,アメリカはますますエキセントリックになったのは周知のこと。2001年には「アメリカ愛国法」が成立したそうだ。

 とはいってもさすがはアメリカ。一縷の希望がないわけではない。大統領に報復戦争の権限を与える決議採択でバーバラ・リー下院議員が唯一反対票を投じ,多くの黒人に支持された。また,ワシントン,サンフランシスコなどでは報復戦争反対の大規模な平和集会が開催された。アメリカの草の根の運動に著者は期待を寄せている。


古賀茂明『日本中枢の崩壊』講談社、2011年

2012-07-27 00:09:48 | 政治/社会

             

  著者は強い「危機意識」をもってこの本書をあらわした。

  日本の凋落、没落、世界の変化に対応できず、いまやその急展開の後塵を拝するかのような位置にある。究極の原因は行政システムの立ち遅れとみている著者は公務員改革が喫緊の課題と考えていた。

  民主党は当初、政治主導でそれを実行しようとしていた。ところが、民主党のこの謳い文句はいつの間にか棚あげされてしまった。「中枢」に危機感が欠如している。現役官僚だった著者は民主党政権が陥った改革の後退に公然と批判の矛先をむけ、個人の立場から国会やマスメディアで持論を展開。直後、著者は国家公務員改革推進本部事務局審議官の任を解かれ、経産省の「大臣官房付」というポストにおかれ、事実上仕事を干されることとなった。福田康夫政権下で内閣に出向(2008年7月)して以後、国家公務員制度改革にとりくんできたにもかかわらず、民主党政権に交替した約3ヶ月後の2009年末にこのようなこととなった。

  本書最終原稿チェック中、2011年3月11日、東日本大震災に遭遇。行政の体たらくはここにも現れた。原子力安全・保安院は経産省傘下にあり、原子力行政を進める側の資源エネルギー庁も同じ屋根の下にある。「日本中枢」を支えていたはずだった官僚は、まことに信頼のできない一群であることが図らずも露呈するかたちとなった。日本国全体がメルトダウンしそうな状況なのだ、と著者は言う。

  本書はわが国の政治と行政の怠慢ぶりを怒りを、自身の処遇をも客観的にみつめながら告発している。各章の表題を示すと以下のとおり。「序章:福島原発事故の裏で」「第1章:暗転した官僚人生」「第2章:公務員制度改革の大逆流」「第3章:霞が関の過ちを知った出張」「第4章:役人たちが暴走する仕組み」「第5章:民主党政権が躓いた場所」「第6章:政治主導を実現する3つの組織」「第7章:役人-その困った生態」「第8章:官僚の政策が壊す日本」「終章:起死回生の策」「補論-


新垣勉他『日米地位協定-基地被害者からの告発-(ブックレット554)』岩波書店、2001年

2012-04-28 00:30:42 | 政治/社会

          

  「地位協定」の「本名」は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに合衆国軍隊の地位に関する協定」。米軍が日本に基地をもつことにともなって発生した条約です。


  内容は不平等、不合理な協定になっています。 「全土基地方式」「国内法の不適用、裁判権免除」「経済的恩典・特権」「裁判権・身柄引き渡し」「環境保護規定の不存在」。

  本書によると、米軍による公務上・公務外別の事故発生件数は、1971年に2071件、72年に3888件あったようですが、2000年でも1734件です。米兵犯罪は減少していません。

 被害者はこの不平等条約の下で苦しみながら、「被害者の会」を作って闘っています(96年4月結成)。
  95年には「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」が立ち上げられ、協定の問題点の検討に入っています。改善努力はなされていますが、いまだ限界が多いというのが現状です。


D・J・ダーリン『真実のソ連』法政大学出版、1949年

2012-04-22 00:51:43 | 政治/社会

             

 本ブログでは、一番古くに出版された本です。わたしが生まれる前に出た本です。

 札幌の知人紹介です。電話で「旧ソ連の問題点はこの本に全部書いてあります」と言われました。


 図書館にあったので、借り出し、読みました。当初はよくありがちなイデオロギー的に旧ソ連を断罪する内容のものかと想像していましたが、そうではなく、革命後の旧ソ連の国内事情を少ない資料の制約のもとで、可能な限り客観的に描きだそうと努力した形跡があります。

 読み通した感じでは、この国では社会主義政権が成立して以降、その思想を現実化しようとしたためかなり無理をしたこと、また列強がこの国をつぶそうとしていたためにその無理が加速化されたことがわかります。

 スターリン体制が確立した30年代以降はとくにひどかったようです。粛清や飢餓、そして第二次世界大戦によって失われた人的被害が天文学的数字にのぼり、その数が連合国側のそれの比ではないことを知ると暗澹たる気分になります。

 訳者の紹介によれば、著者ダーリンは1889年ロシアのロガチェフで生を受け、ピータースブルク大学に在学中、地下活動に加わり検挙されました。その後ドイツに逃れ、ハイデルベルク大学で哲学博士の学位を受けました。
 1917年3月の革命後ロシアに戻り、モスコー・ソヴィエトの代議員に選出されましたが、1921年にソビエト当局に検挙され、その後亡命。
 1940年からニューヨークに在住し、ロシア、ソビエトの外交史研究に従事し、多くの書物を上梓しました。

 本書もソ連の当時の外交政策を分析しようというのが執筆動機にあり、対外政策と国内政策とは密接に結びついているという認識のもとに、その外交政策を理解し予見するには国内政策を理解しなければならないとして刊行したようです。
 確かにソ連は戦争直後までで国内事情を固め、以降資本主義の全般的危機論を旗幟として国際社会にうってでたのですから、著者の見方は正鵠を射ていたといえます。


中野剛志『TPP亡国論』TPP新書、2011年

2012-03-02 00:09:13 | 政治/社会

                 

 過激な表題の本ですが、著者はTPP交渉参加の方向に非常に怒っているので、そうなったのでしょう。

 TPP交渉反対の論拠は、日本の戦略的貿易自由化は、これまで行ってきた路線の延長[EPA(経済連携協定)あるいはFTA(自由貿易協定)]で十分に対応できること、TPPへの参加はアメリカによってしかけられたワナにはまることであり、メリットはほとんどないこと、むしろデフレという現下の日本の病理を助長し、雇用の悪化をもたらすこと、などです。

 重要なのはアメリカの戦略を読むことで、その輸出倍増戦略は一方では「グローバル・インバランスの是正による世界経済の再建」にあり、他方では「アメリカの雇用の増大」にある、日本はどうしてこの戦略の手助けをする必要があるのか、というのが著者の疑問です。

 いま日本は深刻な経済的危機に直面しています。一日も早いデフレからの脱却が肝要であり、公共投資(いわゆる箱モノづくりではないもの)を行い、内需拡大を強化すべきである、と著者は主張しています。

 本書ではTPP交渉参加を支持する論者の論拠を丁寧に反駁しています。例えば日本の関税が高いという見解には、そうではいことを統計で示しています。農業対策を行えばよいではないかという提言に対しては、WTOのドーハ・ランドが進行しているので、農業助成にしばりが課せられる可能性がある、と警告しています。
 
 「第三の開国」というスローガンは、領土問題で窮地にたった現政権が批判の矛先をさおらし、TPP参加の同意をとりつけてAPECの外交上の成果と喧伝し、それを歴史上の「開国」の象徴である横浜で行おうというストーリーに他ならない、というわけです。

 「このままTPPに参加すれば、日本は、関税はもちろん、社会的・文化的に必要な規制や慣行まで、開国の名の下に撤廃せざるを得なくなるでしょう。デフレの悪化や格差の拡大はもちろん、規制緩和による食の安全、医療あるいは金融における不安の増大など、さまざまな弊害が発生するでしょう。その弊害を正そうとしても、TPPという国際条約によって制限されて、できなくなるのです。/もっと問題なのは、TPPを巡る議論を通じて、日本政府が世界情勢に疎く、経済政策の基本も知らず、事実関係すら無視し、イメージだけで流されるということが、海外に知れ渡ったといことです。・・・尖閣問題の処理の不手際が、ロシア大統領の北方領土問題を招いたように、TPPへの参加という愚行は、さらなる国難を呼び込むでしょう」(p.251)。

 まことに説得力のある展開です。(ここまでは理解できます。しかし、本書は後半になると、福沢諭吉の所説をかりながら「自主防衛」論が展開され始め、にわかに賛同できない方向をとりはじめます。前段の議論にひっぱられて、後半のあやしい展開にまきこまれるのはごめんです。)


ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン-惨事便乗型資本主義の正体を暴く-(上)』岩波書店、2011年

2012-02-02 00:01:47 | 政治/社会

          
 凄い本です。


 「危機のみが真の変化をもたらす」と唱えたノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派は、70年代以降、世界を跳梁跋扈しました。フリードマンその人は1970年頃のアメリカで主流だったケインズ主義的な経済介入政策に反対し、「大企業の自由」を掲げて規制撤廃や民営化などの自由放任政策を推進しました。

 シカゴ・ボーイズと呼ばれたシカゴ大学で育った経済学者たちは、IMF、世界銀行などの主要国際機関、各国の政府機関に入り、意図的に政治経済にショック状態を引き起こし、秘密裏に(当該国の議会などでの議論を省略し)固有の経済政策パッケージ(民営化の推進、財政支出の削減、労働市場の流動化、貿易の自由化、資金循環の統制の撤廃など)を短期間に作成、実施に移し、一方での巨万の富の蓄積(多国籍企業、軍事産業のボロ儲け、権力層による国家資産の略奪)、他方での貧困層の顕著な拡大を結果させました。

 本書では、それを新自由主義的ショックプログラム、あるいは惨事便乗型資本主義と呼んでいます。ショック療法に投げ込まれたのは、チリ、アルゼンチンなどの南米南域です。フリードマンがチリのピノチェット独裁政権の顧問を担ったことはつとにしられています。

 続いて、南アフリカ、イギリス、ポーランド、中国、ソ連解体後のロシアが実験の対象になりました。その手口の詳細が綴られています。ここでは、サッチャー政権下のフォークランド紛争と炭鉱労働者ストライキを契機にした政策、中国での天安門事件を契機にした市場万能主義の利用、エリツィン政権下での国会放火事件とその後の国家資産の投げ売りによる「オリガルヒア」の伸長などを想起すればよいでしょう。

 マンデラ解放後の南アフリカ、ワレサの「連帯」後のポーランドは、その後どうなったのか、明確な情報に乏しかったのですが、どちらの国も、結果的にシカゴ学派流のショック療法にかき回され、混乱と不平等化が進み、政治経済復興の理念は頓挫したようです。

 御膝元のアメリカでは、2005年8月末にアメリカがハリケーン・カトリーナに襲われた際、ニューオーリンズで本来なら被災者救済に当てられるべき資金が公教育制度の解体と民間への移行に転用されました。

 著者は本書で「市場至上主義を推進する最適の時は大きなショックの直後です。経済の破綻でも、天災でも、テロでも、戦争でもいい。人々が混乱して自分を見失った一瞬の隙をついて、極端な国家改造を一気に全部やるのです」と警鐘を鳴らしています。

 冒頭、CIAなどが関わった凄まじい拷問実験室での人体実験が紹介されています。人間の判断力、記憶を喪失させるショック療法は、人間個人にも民族にも国家レベルにも適用可能というわけです。恐怖そのものです。

 著者(女性)は30歳代でこの本を書きあげました。文献渉猟力、取材力、論理的構成力、勇気にただただ感服のひとことです。下巻が愉しみです。


斎藤貴男『消費税のカラクリ』講談社新書、2010年

2012-01-13 00:07:05 | 政治/社会

                   
 消費費税反対論者の論拠は3点にまとめることができ、それは①逆進性、②益税、③消費、景気を冷え込まる可能性です。本書は、それらを否定するわけではないとしながら(第6章でこれらへの解決策として提案されたものが批判的に検討されています)、別の角度から消費税を徹底的に批判する論理を提供しています。

 その論理は、消費税導入によって、あるいは今後増税されることによって、中小・零細の事業者とりわけ自営業がことごとく倒れる、正規雇用から非正規雇用への切り替えが進み、ワーキンギ・プアが増大し、自殺に追い込まれる人々がこれまで以上に増えていく、というものです。

 そのカラクリを明らかにするという責務をおって登場ししたのが本書です。著者はこのカラクリを示すために、まず現状で消費税が国税滞納額ワーストワンであるという数字を出しています(2008年度で滞納額全額の45.8%)。異様な滞納額が意味するのは、消費税部分を価格に転嫁できないために、あるいは転嫁しても別途のディスカウント措置をとったために、業者が滞納せざるを得なくなるということです。

 しかし、滞納が許されるはずはなく、徴税当局が強力な”消費税シフト”を敷き、凄まじい取り立てが敢行され、自殺に追い込まれたものが続出しました。

 著者によれば、消費税はもともと無理のある税制なのです。カラクリの中身は消費税は消費者が払うものではない、事業者が払うものである、これは財やサービスに価格転嫁するかしないかに関わらない、したがって消費税は「預かり金」ではないから「益税」「損税」という概念は法理論的に存在しないということです(消費税は憲法違反であるとする国家損害賠償請求事件での東京地裁判決[1990年3月])。

 著者はさらに「仕入れ税額特別控除」という仕組みをときほぐし、この措置が中小・零細業者の経営実態にそぐわないこと、大手の輸出企業にとっては、還付金という形で、事実上の輸出補助金になっていることを指摘しています。

 近年では消費税導入にあたって措置された中小零細業者への特例措置(①免税の特例、②限界控除の特例、③簡易課税制度の特例)も形骸化され、中小零細業者ますます追い詰められてきています。

 著者の結論は、増税などもってのほかだと言うわけです。「はじめに」で著者は「本書は消費税論の決定版」であるといい、マニフェストで4年間、消費税増税を行わないとした公約をかなぐり捨ててしまった結果、民主、自民の二大政党が増税にはしっていくような政治状況に対して、「ふざけるなと言いたい」と怒っています。この怒りは正当なものであり、単なる感情論でないことは本書全体を読めばわかります。消費税増税は理にあわないだけでなく、日本をますますダメにする罪つくりな提言なのです。


菊地洋一「原発をつくった私が、原発に反対する理由」角川書店、2011年

2011-11-02 00:24:41 | 政治/社会

                         

 著者は米国GE社(ジェネラル・エレクトリック社)の原子力事業部東京支社企画工程スペシャリストとして、東海第二原発、福島第一原発6号機の建設に関わり、死に
物狂いでそこで働いたそうです(73年3月~80年6月)。まさに原発を作る側のひとでした。

 80年にGE社を退社。その後、アブダビで石油関連施設の建設に従事しましたが、50歳からそれまでの経験を生かして反原発活動に精力的に関わるようになりました。

 実際に原発製作にたずさわり原発が事故と背中合わせのあやうい存在であることを知りつくしているので、提供される情報は傾聴に値します。

 原発のメカニズムはそれほど複雑なものではなく、要するにタービンを蒸気でまわして発電するのだけでいわば「原子力やかん」にすぎないのですが、その構造は驚くほど複雑であるとのこと。

 福島第一原発1号機ー5号機の格納容器はGEが開発したMARK1タイプのものが使われているそうですが、それは完成直後からGE内部で安全性に問題があると指摘されていた「いわくつき」の代物だそうです。

 その弱点は、内側からの圧力に対する弱さで、格納容器が小さすぎて水素などが大量発生すれば容器そのものがもたないらしいです(p.14)。さらに圧力容器底部は下から制御棒駆動機構ハウジングという剣山のような配管群を差し込む構造になっていて、原理的に「ざる底」だそうです。

 とりあえず「穴」はふさいであるものの、たとえていうなら絆創膏でふさいでいる程度のものなので、メルトダウンしたときには全く役立たず。また原子炉圧力機からは多くのさまざまな配管がでていますが、その数数百本、それらが不安定な支持構造で無秩序にぶるさがっていて、溶接がきわめて難しく、地震などなくても、トラブルがないこと(配管の亀裂)を想定すること自体が無理な話らしいです。

 この種の事業には必ず納期があり、そのスケジュール管理がもともと大変なうえ、始終設計変更があるので、ミスが生まれるないのが不思議であり、国の検査でパスしてあとにミスが見つかり、糊塗したこともしばしばであったようです。

 原子炉製作者の現場にいた人でなければわからないことが数多く指摘されたあとに、著者はさらに作業員の被曝の実体、活断層の上に建設された浜岡原発の危険性、試験運転でトラブルがあても商業運転をやめない無神経さ、自主点検の改竄と隠蔽、使用済み核燃料処理に関わる問題点、電力会社・政府に騙され続けてきた日本人、を順次解説し、反原発の姿勢を鮮明にしています。