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著者が自著「不毛地帯」「大地の子」「二つの祖国」「沈まぬ太陽」「運命の人」を完成させた、その背景について書き、語ったものをまとめた本です。
いずれも大作で、社会問題を抉り、問題提起となった作品ばかりですが、完成にいたるプロセスには人知れぬ苦労があり、取材、調査に要した時間と労力はなみたいていのものではなく、また粘りと根気が必要とされたことがわかります。シベリア抑留、中国の貧困地帯、アフリカ(ケニアなど)での取材、ハワイ大学、カリフォルニア大学での資料収集、そして数々のインタビュー。入念、緻密な取材、調査があったからこそ、いい作品が生まれたのです。
くわえて、人とのいい出逢いが不可欠で、「大地の子」では時の胡燿邦主席の計らいがなければその執筆は不可能だったようです。
そして、著者はそれらを小説に仕立てるため面白く書くことにも力を抜かない作家であることが本書でわかりました。
本書から、他にもいろいろなことを学びました。「残留孤児」と言ってはいけないこと「戦争孤児」であること、シベリア抑留はソ連の国家ぐるみの捕虜虐待であること、それに対して厳重な抗議をしなかった日本政府の姿勢の愚かさ、東京裁判での法廷速記録では日本文は曖昧で英文との対照が欠かせないこと、などなど。
著者はかつて毎日新聞社で記者をしていた経験があり、その時の取材経験が役に立っているとのことです。小説家として身をたてたことに関して、記者時代の上司であった井上靖が、また作風として石川達三が先達のようです。
さらに、作家として作品を書きながら何度も執筆を諦めようと思ったことがあるようであるが、戦争中の体験、同僚の死などを思い返しながら自分の道を進んできたと書いています。