本郷菊坂にはかつて菊富士ホテルがあった。多くの知識人、文人、アナーキスト、高等遊民がそこにいた、今となっては夢のような宿泊所である。そのホテルの経営者と親戚関係にあった著者は、優しい眼差しで、このホテルを定点に往還した人々の姿を描いている。読み応え十分の文学的香り高い作品である。
大杉栄、竹久夢二、宇野浩二、直木三十五、広津和郎、石川淳、三木清、坂口安吾といった歴史上の人物が、日常生活で呼吸している。
意外だったのは広津和郎の人物像。松川事件で被告の無罪を唱えた広津は、実は想像以上に滑稽な、人間臭い作家であったようである。
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