『怪談 牡丹燈籠』 渋谷BUNKAMURAシアター・コクーン
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『怪談 牡丹燈籠』は日本の三大怪談話のひとつです。明治に人気を博した圓朝の創作落語がもともとです。
この「牡丹灯籠」はむかし中国に同じような話があり、それが江戸時代に日本で翻案され、圓朝が江戸前で創り直したのです。
その後、文学座の杉村春子が劇作家、大西信行に請うてこの創作落語を戯曲化してもらい、1974年に公演されました。今回、演出はいのうえひでのりさんが担当しました。
キャストは段田安則、伊藤蘭、秋山菜津子、千葉哲也、柴本幸、瑛太など豪華です。(敬称略)
3組の男女、萩原新三郎(瑛太)とお露(柴本幸)、伴蔵(段田安則)とお峰(伊藤蘭)、源三郎(千葉哲也)とお国(秋山菜津子)のそれぞれの人生が運命的に交錯し、怨念、情緒、幻想の世界が流れていきます。
筋は次のようです。
<第一幕>
浪人の萩原新三郎(瑛太)に恋い焦がれて命を落とした旗本飯島平佐衛門の娘、お露(柴本幸)。お露の死の知らせに念仏三昧の日々を送っていた新三郎のもとに、お盆の13日の夜、下女(死んだはずの)を連れたお露が姿を現しました。
新三郎は、お露たちが死んだとばかり思っていたので驚きます。 乳母のお米は「お露が死んだというのは、二人を別れさせようという作り話」と伝え、あなたさまに逢いたいという「お嬢様の願いをかなえてください」と頼みます。
かねてからお露に好意をもっていた新三郎は、お露といっしょに寝間に入ります。そこにやってきたのが、「新三郎が幽霊にとりつかれた」と聞いた志丈と新三郎の下男、伴蔵[はんぞう](段田安則)です。志丈は人魂に驚いて逃げ出しますが、伴蔵はそっと寝間をのぞきこみます。すると蚊帳の中には蛍がとびかい、新三郎とお露の声が聞こえました。目を凝らすと、新三郎の腕の中にいるのは、なんと骸骨!伴蔵はぎょっとして、逃げ出します。
飯島家では一人娘のお露が亡くなったので、愛人のお国(秋山菜津子)は隣家の源次郎(千葉哲也)を養子に迎えるよう平左衛門に勧めます。しかし、取り合ってもらえません。そこで、平左衛門を殺してしまうよう源次郎をけしかけます。しかし、平左衛門に見破られ、ふたりは情事の最中、はた試合となってしまいます。
やぶれかぶれになったお国と源次郎は平左衛門を殺し、居合わせた女中のお竹も殺して逐電します。
一方、おびえた様子でうちへ戻ってきた伴蔵は、蚊帳の中にいます。針仕事をしているお峰(伊藤蘭)。行灯が薄暗くなり、牡丹燈籠が庭先に浮かびます。
お露の幽霊に取り付かれて死相が現れた新三郎は、家中に魔よけのお札をはり、金無垢の海音如来をもつようになったので、お露は新三郎に近づけなくなりました。
新三郎の心変わりを恨んで泣くお露を不憫に思ったお米は、伴蔵に「お札をはがし海音如来をとりあげて下さい」と頼みに来ました。 伴蔵とお峰は、新三郎が死んでは暮らしていけず、かといって自分たちが幽霊に取り殺されるのも困るので、暮らしが立つようにと百両の金を幽霊に無心します。
翌日伴蔵とお峰は新三郎のうちへ行き、金無垢の海音如来を瓦で作った不動明王像とすり替えます。二人は海音如来を後で売り払おうともくろみ、それを庭の土中へ埋めました。
すると牡丹燈籠が現れて天井から小判がふってきました。 伴蔵は新三郎のうちへ行き、高窓のお札をはがすと牡丹燈籠がその窓へ吸い込まれるように入っていきました。お札がはがされたとは知らない新三郎は「お露はやはり生きていた」と思って喜びますが、お露は新三郎をとり殺してしまいます。
<第二幕>
下男の伴蔵、お峰の夫婦は栗橋で荒物屋「関口屋」を始めて成功し、大旦那と奥様となりました。
野州栗橋の宿のはずれ。源次郎は平左衛門との死闘のおりに刺された傷で足が自由でなくなり、今ではに落ちぶれてしまっています。
お国は生活のために酌婦として御座敷に出ています。羽振りの良くなった関口屋の主人、伴蔵がお国をひいきにしているのです。
そんなおり、お峰と伴蔵の江戸での知り合いであったお六が関口屋にたずねてきました。夫と死に別れたお六を、お峰は店に置くことにします。
金が入ると伴蔵は茶屋遊びに出て女たちと楽しんでいましたが、そのことが女房お峰の知るところとなり、夫婦げんかの大騒ぎになります。お峰は大声で「仏像を盗んだのはお前で、その時の金,百両を出せば別れてやる」と騒ぎ立てるのでした。伴蔵は最初こそ高圧的にふるまっていましたが、幽霊の一件に触れられると平身低頭、いちからやり直そうとお峰に謝ります。
伴蔵はこうしてなんとかお峰の機嫌をとりなしたのですが、夫婦の痴話喧嘩を盗み聞きしていたお六は、幽霊にもらった百両のこと、金無垢の仏様のことを言い出し、騒ぎはじめます。「早く萩原様のところへいらっしゃいませ」といって手招きするお六を見て、ふるえる伴蔵とお峰。
さて、お国は???
同僚のお梅とお絹と一緒にお国は源次郎の居る小屋のある土手を通りかかります。お梅とお絹の身の上話から、お梅は源次郎が殺した女中・お竹の妹だと知りました。それを聞いた源次郎は罪を悔いるのですが、お国は悪びれる様子もありません。
二人をいつしか蛍の群れが囲み、突然刀を抜いた源次郎は転んだ拍子に自らの背中を刀で貫いてしまします。そうとは知らないお国が源次郎に抱きつくと、刀はお国に突き刺さりました。立ったまま息絶えたふたりの周りを蛍が群れ飛ぶのでした。
伴蔵とお峰はお六が口走ったことが原因で役人につかまるのを恐れ、他の土地へと逃げようとします。伴蔵は金無垢の如来像を江戸から持ってきて埋めてあると打ち明け、それを掘り出すのでお峰に見張りをするように言いつけます。
伴蔵は油断した峰を隠し持った刀で突き刺し、川のなかにつき落とします。伴蔵がその場を立ち去ろうとすると、見えない手に引き戻され、川の流れからお峰の手が現れ伴蔵は水の中へと引きずり込まれていきました。蛍が舞います。
3組の男女の人生を重ね合わせ、絡み合わせ、怪談仕立ての濃密な舞台でした。
「牡丹燈籠」とは、女中のお米(よね)が持っている提灯の牡丹の絵柄です。夜になると「カラーン、コローン、カラーン、コローン」という下駄の音が聞こえました。幽霊に足をつけたのです。幽霊が灯りを点けているのも独特です。