【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

「青い鳥がまちにやってきた!」(さいたま演劇集団「YOU」第21回公演)

2012-03-31 00:29:50 | 演劇/バレエ/ミュージカル

             

 さいたま演劇集団「YOU」第21回公演「青い鳥がまちにやってきた!」が「さいたま市文化センター」でありました。この劇団は演劇愛好者の人たちが集まって1年に一度、公演をしています。劇団のなかに知り合いがいるので、支援の気持ち半分、とにかく舞台を観たい気持ち半分で、毎年時間を見つけて観に行っています。


 今回のテーマは?
 「さくらシルバーホーム」という老人ホーム(東京近郊の新興住宅地)に、ある日ヘルパー募集のチラシをみて、青島ミチルという女性が応募してきました。
 それまで活気がなかったホームがみちがえるほどに明るくなりました。ホームの雰囲気がそれまでとガラリと変わってしまいます。彼女は幸せを運ぶ青い鳥のようです。


 ところが、そんな矢先、ホームを壊してそこにラブホテルを建設するという話がもちあがります。不動産業者の横暴にホームの老人たち、そして住民が反対運動に立ち上がります。何度も開かれる説明会。どうも要領を得ません。
 ホームが建っている土地の所有者の登記に不正があるような・・・。誰がそれをたくらみ、誰が不正をはたらいたのでしょうか?

 今回は、芝居のなかに手品がはさまれていたり、いろいろな工夫もみられました。年々、上手になっています。

 出演者は既に仕事をリタイアした人、また仕事をしながら芝居が好きで結集している人、さまざまです。
 チケット販売も出演者が一生懸命行っています。舞台装置もなかなかのものでした。
 


スーザン・ジョージ/ファブリチオ・サベッリ/毛利良一訳『世界銀行は地球を救えるか』朝日新聞社、1996年

2012-03-30 00:09:30 | 経済/経営

             

  本書で解明されているのは、1944年にブレトンウッズで開催された国際会議で、IMFとともにその設立が決まった世界銀行が戦後世界で果たした役割です。

  47年から融資業務が始まり、当初はヨーロッパ諸国の戦後復興に融資していましたが48年に主として南半球の諸国に開発を目的とした融資がなされるようになりました。
  本書の全体構成は、冒頭に予備的知識が提供され、次いで1944年のブレトンウッズ会議の内容が紹介され(ケインズの描いた構想)、さらにロバート・マクナマラが長期にわたり総裁を務め、世銀の思想と行動原理を確立した経緯が分析されています。
  以降、「構造調整」の孕むドクトリンとその限界、世銀が借入国に極度の困難をもたらした経緯、「自由主義原理の戦士」といわれたラリー・サマーズの開発モデルの構成、1987年の機構改革(「世銀文化」と世紀末アジェンダの設定)、世銀コンディショナリティの影響力、NGOによる世銀標準業務指針と正統派経済学への問題提起、世銀の自己欺瞞的姿勢、世銀を牛耳っている支配者の特定、世銀のイメージと改革の可能性が順に論じられています。
  著者は経済機関を名乗っている世銀を厳格なドクトリンとヒエラルヒーによって支えられ、異なった考えを認めない一枚岩的組織であった中世の教会になぞらえて、分析を行っています。この点が特色です。

  「訳者あとがき」をたよりにしながら本書を通読して分ったことは、世銀が新古典派経済学の自由主義経済ドクトリンをバックボーンにし、開発優先のモデルを教条主義的に信奉し、これを第三世界および旧社会主義国に押し付けてきたこと、そのドクトリンに従わないならば開発のための借り入れを望む国々は無視されること、世銀は表向きには貧困の解消と環境保全を喫緊の重要課題に掲げているが、事態はそれと逆行する結果になっていること、旗幟とする人道主義は元利返済を強要する世銀の実際の行動と矛盾していること、などです。
  著者によって示されたこれらのひとつひとつの知見は、具体的事実の裏付けをともなって示されているので、一部叙述が難解であるにもかかわらず、説得力をもって読者に伝わってきます。
  重要な指摘は随所にありますが、いくつか代表的なもの参考までに列挙すると、ひとつは「持続可能性」という用語の欺瞞性で、経済成長がこの語と結び付けられると、それは終わることのない将来を約束するので、本来的に破壊的なプロセスが破壊的でないようになるという指摘であり(p.232)、世銀の開発モデルの基軸をなすのは「自然資本の価値はゼロ」という考え方である(p.231)などです。
  開発分野の人間は世銀の『世界開発報告』の統計から数字をよく引用するが、それらは信頼できない(p.248)、という指摘も記憶にとどめておくべきでしょう。


湯山玲子『女ひとり寿司』幻冬舎文庫、2009年

2012-03-29 00:59:42 | 医療/健康/料理/食文化

             

  寿司屋はひとりで入るには敷居が高いです(回転寿司は除く)。

  著者はそれにチャレンジしました。しかも高級寿司屋に。
  そこに至るには前段がありました。自宅への帰路ふいと一人でたちよった寿司屋。この体験が最悪だったようです。ほとんど無視されて二万円。著者のひとり寿司履歴はそこから始まりました。
  好き放題、書き放題に体験記をまとめているように見えますが、鉄則がかくし味のようにあります。
  まず予約を入れ、勧められた場所に座って、まず冷の酒につまみの刺身、それから握りに入って行く。そしてスタンダードをもっている模様。それはきわめて個人的なものであるが、絶対に必要なものらしく、「あら輝」の鮨との出会いから始まったとのことです(p.143)。
  「あとがき」にはひとり寿司の極意が書かれています[予約を入れること、自分について職人は見合い、プレゼンの相手と思うこと、敵はふたとおり、オバハン主婦と30-40代の男](pp.236-7)。将棋で言えばこのあたりは序盤の定石。
  本書ではその後、将棋で言えばさしずめ急戦湯山流というか、飛車角交換に金、銀、桂馬入り乱れての大乱戦となり、ここからが見どころ、面白いです。
  寿司屋に入り、「ラッシャ―イ」の呼びかけを受け、鮨と酒をを愉しみ、居合わせた客のウォッチングを実況放送、そして結末までがしっかり「主観的に」書かれています。
  このレポートから、読者は寿司屋の多様性、個性に驚かされます。伝統的でありながら、革新的、全く画一的でないのです。
  マスターの個性も、著者の相の手でうまく引き出されています。そして寿司ネタ、とくにマグロが豊富な知識で称賛され、鮨の知識、作法が身につくというか、今からでもすぐに寿司屋に駆け込みたくなる名調子が心地よいです。
  「解説」は社会学者の上野千鶴子さん、彼女の著作「おひとりさまの老後」が書かれる切っ掛けになったひとつが本書だそうです(p.243)。
  登場した寿司屋を掲げると、以下のとおりです。
・銀座・久兵衛(東京・銀座)
・NOBU TOKYO(★東京・青山)
・大和寿司(東京・銀座)
・すし屋の芳勘(東京・鷹番)
・すし善(東京・汐留)
・鮨・青木(東京・銀座)
・入船(東京・奥沢)
・寿矢(☆東京・神宮前)
・辡天山美家古寿司(東京・浅草)
・rainbow roll sushi(東京・麻生十番)
・回転寿司(☆東京・丸の内)
・梅丘寿司の美登利総本山(東京・梅丘)
・松栄(東京・恵比寿)
・希扇(東京・赤坂)
・あら輝(東京・上野毛)
・二葉鮨(東京・東銀座)
・鮨さわ田(★東京・中野坂上)
・すきやばし次郎(東京・銀座)
・海味(東京・青山)
・百味庵(東京・六本木)
・中央市場ゑんどう(京都・上賀茂)
・鮨処もり田(福岡・小倉)
・末廣鮨(静岡・清水)。
(★は移転、☆は閉店)


渡辺純『ビール大全』文藝春秋社、2001年

2012-03-28 00:01:53 | 居酒屋&BAR/お酒

              

  ビールのことが細大もらさず書いてあります。前半は「そもそもビールとは何か」、後半は「世界のビールを訪ね歩く」。以下、本書を読んで学んだことを整理します。


  ビールとは何かを知るには、それはどのようにつくられるかがわかればよいのです。ビールは大麦、酵母、ホップ、水があれば自分で作ることができます。それで孤島で暮らしたロビンソー・クルーソーの話で始まります(彼がそこでビールを造るのは容易でなかったのです)。

 大麦を水につけ発芽させた麦芽には、アミラーゼ(デンプンを糖に分解する酵素)、たんぱく質を分解し活性化させる酵素が蓄積されます。これを乾かし、酵母を投入して発酵させればビールができます。
  常温で発酵するのが上面発酵酵母、冷温で発酵するのが下面発酵酵母、前者からできるのがエール、後者からできるのがラガーです。ビールの歴史はエールビールのそれでしたが、160年ほど前からラガーが台頭し、いまではラガーがほとんどです。
  ラガーの登場とともにビールは琥珀色になりました(それまでは黒色が普通)。こうなるにいたったのには、アンモニア式冷凍機の開発(1874年)がおおきかったようです。
  ビールは原料が麦(大麦)なので、パン(かつては大麦、小麦、燕麦)と親戚です。大麦を煮てつくった粥をよりおいしく食べるために発酵させたさいにできるうわずみの液体がビールです。

 麦を発酵させるという点では、ビールもパンも同じ行程をたどります。したがってかつてはビールは滋養のために、毎度の食事に欠かせないものでした。

 本書は後半で各国のビールの紹介になります。イギリス、アイルランド、ベルギー、ドイツ、チェコ、その他(オーストリア、スイス、オランダ、フランス、アメリカ etc.)です。
 その種類の多いこと。ワインの種類は多くてとても覚えきれませんが、ビールも全く同様です。奥が深いです。深すぎます。

 この認識は、日本のビールがいかに画一化されているかのを確認でもありました。


南木佳士『臆病な医者』新潮文庫、2005年

2012-03-27 12:59:46 | 小説

           

 この小説には、ある種の無常感,諦念,死生感がトーンとして流れていますが,それらが観念的でないのは,著者が300人以上の死亡診断書をこれまで書いてきた臨床内科の医師であるという現実,そして自身が「うつ病」と闘ってきているという現実をふまえて人生を語っているからです。


 祖母に育てられ,農業が嫌で医者になり,タイ農村の日本医療基地に参加し,末期の癌患者と向かいあいながら小説書く。自分史の回顧の仕方は謙虚そのもの。世俗的な価値を排し,自然の摂理のなかで生きるべきという指摘に共感しました。


CLEOPATRA(Handel) NATALIE DESSAY

2012-03-26 00:10:37 | 音楽/CDの紹介

                

  
ヘンデル作曲「エジプトのジュリオ・テェザーレ」は1723年に作曲されました。ヘンデルの生前中に最も成功したオペラのひとつです。初演はロンドン・ヘイマーケットの国王劇場です。

 このCDには2つのシンフォニア(器楽曲)と1つのデュエット、8つのアリアが収められています。アリアはいずれもクレオパトラのために書かれた曲です。そのうち2曲「わたしのあこがれの人に命をささげようと」「あまりにもあなた方は残酷です」はヘンデルがそれらを書きながら他のアリアに変更してしまったものですが、このCDには上記のもともとのアリアと変更した決定稿との両方が収録されています。

 ヘンデルが生きた時代、クレオパトラはロンドンの聴衆には、シェークスピア<アントニーとクレオパトラ>、ドライデンの戯曲<すべて恋ゆえに>を通して知られていました。それらが伝えるクレオパトラ像はシーザーの追随者であるマルクス=アントニウスとの関係でつくられて女性、紀元前30年に自殺をはかった女性でした。これに対し、ヘンデルはそれらとかなり異なり、政治家として、また性的魅力を駆使して古代世界の最強の男性の愛を勝ち取る若い女性のイメージを浮かび上がらせています。
  
  ナタリー・デセイ(1965- )はフランスのオペラ歌手です。その歌唱力は現代世界最高といわれています。ドイツオペラだけでなく、イタリアオペラなどレパートリーは広く、、≪後宮からの誘拐≫のブロンデ役、≪ナクソス島のアリアドネ≫のツェルビネッタ役で有名です。
  声楽をボルドー国立音楽院で学びました。またトゥールーズの教会での聖楽隊員として経験を積み、その後1年間パリ・オペラ座の声学教室で勉強しました。
 フランス・テレコム社主催の声楽コンクール「新しい声」で優勝、またウィーン国立歌劇場の「モーツァルト国際コンクール」でも覇者となりました。
  1994年10月、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にデビュー、リヒヤルト・シュトラウスの≪アラベラ≫に"Fiakermilli"役を務めました。2001年から2002年までウィーンでの定期公演で声の不調に悩まされましたが、手術などを経て困難を克服し復活、2003年2月。パリでの復活公演が大成功をおさめ、さらに翌月ツェルビネッタ役でメトロポリタン歌劇場に復帰しました。

<収録曲目>

1. 「クレオパトラ」 ジュリオ・チェーザレ・オペラ・アリア集 序曲  
2.  第1幕 第7場 アリア:どのようなことでも可愛い女性は出来るのです  
3. 第2幕 第2場 レチタティーヴォ:静かに!何事でしょう?  
4. 第2幕 第2場 アリア:あなたを敬愛します、瞳は  
5. 第2幕 第7場 レチタティーヴォ:ここにまもなく来るでしょう  
6. 第2幕 第7場 アリア:美しきヴィーナスよ  
7. 第2幕 第8場 伴奏付レチタティーヴォ:何てことを耳にするのかしら?おお神よ!  
8. 第2幕 第8場 アリア:もし私を哀れと思われないのでしたら  
9. 第2幕 第8場 アリア:私のあこがれの人に命をささげようと  
10.戦闘のシンフォニア  
11. 第3幕 第3場 レチタティーヴォ:とはいえ、このように一日で  
12. 第3幕 第3場 アリア:私の運命を嘆き悲しむでしょう  
13. 第3幕 第3場  アリア:あまりにもあなた方は残酷です  
14. 第3幕 第7場 伴奏付レチタティーヴォ:あなた達は以前は私の忠実な侍女たちでしたが  
15. 第3幕 第7場 レチタティーヴォ:君を助けるために入り口をこじ開けて来た、おお愛しい人よ!  
16. 第3幕 第7場 アリア:嵐で木の船は砕け  
17. シンフォニア  
18. 第3幕 終場 レチタティーヴォ:美しきクレオパトラよ  
19. 第3幕 終場 二重唱:愛しい人よ!美しい人よ!  


半藤茉莉子『漱石夫人は占い好き』PHP研究所、2004年

2012-03-24 00:26:32 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談

           

 著者は夏目漱石の孫で,「歴史探偵家」の半藤一利氏の妻です。


 裏表紙の織り込みに写真がありますが,エッセイの内容と同じで天心爛漫そのものです。

 文章はやわらかく,読みやすいです。主として身辺のことを書いたものが入っています。

 価値のあるのは夏目家,漱石の周辺の出来事を書いた第1章「漱石夫人は占い好き」。

 ただし,章の建て方がいまひとつ不明瞭で,各章に配される標題のひとつが章のタイトルになっているのはわかりますが,それぞれがどういう纏まりで章に括られているのかのコンセプトが分りません。

 「猫」の話しが多いのは,漱石先生を意識してでしょうか?


草笛光子『光子の扉を開けて』読売新聞社、1992年

2012-03-23 00:20:34 | 評論/評伝/自伝

          
 草笛光子さんの自叙伝です。


 読者に語りかけるように,内弁慶だった少女時代,松竹舞踏音楽学校時代,ミュージカルとの出会い,芥川也寸志との結婚・離婚,舞台での役者としての仕事感が綴られています。

 「シャーリー・バレンタイン(ひとり芝居)」は余程,気にいったのでしょう,紙幅を多く割いて,舞台に立つにいたった経緯,稽古風景,反響が書きこまれています。
 映画(ポーリン・コリンズ主演)が大変面白かったので,彼女のひとり芝居は観たかったとつくづく思いました。


LIBERTA:Junko Makiyama

2012-03-22 00:18:59 | 音楽/CDの紹介

              

  牧山純子さんのセカンド・アルバムです。2009年の8月にレコーディングされました。
 牧山さんは東京都出身。4歳からヴァイオリンを始め、海野義雄氏らに師事、音楽大学卒業後、フランスで修業し、現在ソリストとして活躍中です。
  

 アルバムの冒頭は、"Captain Caribe"。もともとはギター用の曲です。フュージョン界のギタリスト、リー・リトナーのレパートリーとして有名なナンバーです。牧山さんは、ギター用の曲を、自分のものとしてヴァイオリン演奏しています。
 全体に軽快なリズムのなかに、強い意志が表現され、しかしその強さはむき出しではなく、光る音色に包まれています。ジャケットにあるような、さわやかさ、軽快感が持ち味になっています。ブラボー。


 収録された曲のなかには、牧山さん自身が作曲したものが3曲あります。"Vento di Liberta","Orange Rord","Tempo Felice"です。"peninsula"は、ピアン担当のクリヤさんの提供、「彼女の夏」はフジTV系列のドラマ「BUZZER BEAT」のメイン・テーマ、"After The Love Has Gone","Sir Duke"はスティーヴィがヂュック・エリントンにささげた作品、"Linus And Lucy"は「スヌーピー」で知られた曲です。クラシックからの2曲も入っています。ショパンの「ノクターン」、ベートーヴェンの「交響曲9番から<合唱>」です。

 これだけいろいろなジャンルの曲をヴァイオリンで歌いあげたのが、このCDです。背景のピアノ、ベース、ドラムとも見事に合致して、ユニークな音楽の玉手箱になっています。

 プロデュースとアレンジそしてピアノを担当したのはクリヤ・マコトさん。ベースは納浩一さん、ドラムは大槻"KALTA"英軍です。


音楽劇「お嬢さんお手上げだ」(作:マキノノゾミ)於:紀伊国屋サザンシアター

2012-03-21 00:40:24 | 演劇/バレエ/ミュージカル

                


 かつてタイガースで一世を風靡したジュリーこと沢田研二さんがメインで出演するので、観に行きました。

 2001年から始まった沢田研二さん主演の音楽劇で、今回の出し物は1978年に発売された沢田研二のアルバム「今度は、華麗な宴にどうぞ」に収録された「お嬢さんお手上げだ」(阿久悠作詞、大野克夫作曲)を題材にマキノノゾミが書き下ろした作品です。

 話は東京下町で漫画家(沢田研二)のところに、かつて した女性の娘と称する女の子(朝倉みかん)が訪れたことから始まります。漫画家はかつては売れた時期があったのですが、いまはスランプにおちいっていて仕事をする元気がありません。彼の周囲には、気心知れた仲間、噺家、大企業の社員、三河屋という酒屋のあんちゃんがいます(山崎イサオ、野田晋市、すわ親治)。みな気のいいやつで、調子の悪い漫画家は彼らとマージャンとお酒にあけくれている様子です。そこへ飛び込んできたのが若い娘、仲間は彼女の訪問に気が気でありません。

 若い女性は漫画家のもとに弟子入りしたいのですが、漫画家は彼女を実家に即刻帰そうとします。しかし、彼女がむかし知りあった女性の娘ということもあり、彼女が漫画家になることにあまりに熱心なので、しばらく自宅におくことにします。

 出版社から漫画執筆の依頼があっても、漫画家は「描けない」の一点張りです。中年になれば誰しも人生の曲がり角に直面したり、苦難に出会うもの。仲間のひとり、大企業の社員は、ここにきて会社をやめよといわんばかりの仕打ちにあい、それを妻に伝えたところ、妻には家を出ていかれる始末。

 さあ、どうなっていくのかと思っていると、事態は意外な方向に展開していきます。

 沢田研二さんは何度も何度も衣装替えをして、それが面白く、また往年馴らした歌唱を要所要所で披露します。これが絶品です。観客の気持ちはここで一気に青春時代に飛翔します。ジュリーは、かなり太っていたけれどもやっぱりジュリーです。

 まわりの俳優さんの演技もポイントを心得ていて、感心させられました。若い女性の朝倉みかんさんは溌剌として、一本気でよかったです。また会社員のすま親治さん、いい味を出していました。


・作・演出/マキノノゾミ
・音楽/coba
・振付/南流石

<出演>
・沢田研二
・朝倉みかん
・野田晋市
・すわ親治
・山崎イサオ

<演奏>
・川浪幸恵(バンドネオン)
・古川淑恵(チェロ)
・熊谷太輔(パーカッション)


中野孝次『趣味に生きる愉しみ-老年の過ごし方』光文社、1999年

2012-03-20 00:12:51 | エッセイ/手記/日記/手紙/対談

          

 著者は『清貧の思想』で知られる作家です。自由人としての老後の愉しみを説いています。粋人,教養人です。

 囲碁,落語,骨董,書道。守備範囲は広い。傘(スウェイン・アドニーブリック社),帽子(ツイードのクロスハット),下駄(会津の柾目),カメラ(ライカ),万年筆,水滴(李朝分院窯),硯(緑縁の八稜硯)。質のよいもの,人間に馴染むものへの偏愛には感服します。わたしには新鮮であり,羨ましくもあり,しかし絶対に到達しえない世界と認識しました。

 もっとも,著者はあくせずせず,自由闊達に生きる姿勢が,人生の秋である老年に実りをもたらすということを主張しているのですから,その境地に入ることが重要なのだと,溜飲をさげました。


「ガラスの動物園」(シス・カンパニー)於:Sibuya Bunkamura シアター・コクーン

2012-03-19 00:02:41 | 演劇/バレエ/ミュージカル

           

 テネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」をシス・カンパニーが取り上げました。演出は長塚圭史さん。この演劇の筋は、すでに1月3日の本ブログに紹介しましたが、簡単に状況説明すると以下のようです。


 1930年代のセントルイス。登場人物は4人。配役はアマンダ(立石 凉子さん)、ローラ(深沢絵理さん)、兄のトム(瑛太さん)、トムの仕事場の友人ジム(鈴木浩介さん)です。過去の記憶を想起させる場面には、白い服装のダンサーが多数出てきます。

 ガラスの動物のコレクションをコレクションし、父が残したレコードを懐かしがっているのは、内気で引っ込み思案のローラ。後半、トムの友人であるジムが客として来て(ジムはローラとかつて同級生だったがジムの記憶にはない)、ローラが彼と心を通わせるところ、しかしジムにはすでに許嫁がいてローラが再び沈んでいく場面では、不覚にも涙腺が緩みました。深沢さんの繊細な演技に心が震わされました。

 アマンダは家出した夫はもとより息子のトムにも干渉しすぎ、結局、家族のみんなをスポイルしています。それを立石涼子さんが大きな声で、居丈高にふるまうアマンダ役を見事に演じていました。瑛太さんの声が力強く、惚れ込みました。いい声です。

 
また、舞台空間の使い方が工夫されていました。奥行きのある設定、一番奥の小さな机でタイプライターをたたく、トム。記憶を呼び起こしながら、家族のことをふり返って文章にしたためているのでしょうか。
 場が展開するごとに、白い踊り子たちが小道具を自然なながれで配置換えしていく様子も面白かったです。


寺内大吉・永井路子『史脈瑞應-「近代説話」からの遍路-』大正大学出版会、2004年

2012-03-18 00:32:31 | 科学論/哲学/思想/宗教

 「慟哭の明治仏教」「化城の昭和史」(以上寺内大吉著),「氷輪」「雲と風と」(以上永井路子著)を読んでみたいと思う気持ちを背中から強く押してくれる本です。

 ふたりの直木賞作家が生い立ちから「近代説話」に集うまでを自己紹介し,かつ文学をとおして歴史と仏教を語り合っています。

 日本の歴史に疎いわたしは,ふたりの知識の豊富さに驚かされました。興味深かったのは,路子への叔父三郎の影響,「近代説話」同人の活動,受戒,法華セン法などの仏教用語。

 仏教の側から歴史,現代史を読み解く仕事は重要かもしれません。仏教が葬儀だけにかかわるのではなく病める人を癒す役目があり,もっと積極的に後者を自覚すべきという永井さんの指摘は有意義でした。


幸田文『父・こんなこと』新潮文庫、1955年

2012-03-17 01:34:36 | 小説

               

         


 手許にあった懐かしい文庫本の再読です。


 高校生の頃,幸田文のファンでした。キリリとした文体のゆえです。

 「父」は幸田露伴の娘である文の,みとり介抱,最期,葬送の記。病と闘う父を懸命に看病する娘の姿勢が甲斐甲斐しくもあり,健気でもあります。厳格な露伴が突然優しい眼になったりするあたりの描写が細やかです。

 自分の気持ち,姿,生き方をも客観的に見据えているところが清々しいです。

 高校3年生の夏に一度、読了しました。1968年8月と鉛筆書きの日付が入っていました。


童門冬ニ『冬の火花』講談社文庫、1998年

2012-03-16 00:16:48 | 小説

             

 「雨月物語」の著者,上田秋成とその妻「たま」の物語です。


 「天はなぜわたしを生んだのだ」と悲嘆する秋成は4才で実母に捨てられ,5才で痘瘡にかかり,38才の時に養子となった嶋屋の火災で財産を喪失,57才で左眼を失明するなど苦難の人生を歩んだ。性格は猜疑心,自尊心,嫉妬心が強く,屈折していました。

 妻は彼と心のそりがあわず,一心同体になれないことを悩み,心の別居を34年続けていましたが,秋成の秘密が彼自身の口から明らかにされ,ふたりは晩年に心を通い合わせました。

 秋成の実像,性格,夫婦関係がよく描かれていて,面白かったです。