【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

小林和男『エルミタージュの緞帳』NHK出版、1997年

2011-12-31 00:09:10 | ノンフィクション/ルポルタージュ

          

 「エルミタージュの緞帳」とは? 世界三大美術館のひとつエルミタージュ美術館には、ほとんど知られていないし、見た人もいないが劇場があり、その正面の舞台にはロマノフ家の紋章である金色の王冠を戴いた「双頭の鷲」が入った緞帳がかかっているらしく、「エルミタージュの緞帳」とはそれを指しています。
 この緞帳は19世紀の画家で、一時マリンスキー劇場の芸術監督をしていたアレクサンドル・ゴロヴィンとその弟子による作らしく、ソ連時代にはこの緞帳は表目に薄い幕が張られ、約70年もの間、破壊されることなく、存続してきた、とのことです。
 1991年にソ連が崩壊し、エルミタージュ美術館は表面の薄い幕を剥ぎ、ロマノフ王朝のシンボルが再現されました。

 本書はソ連崩壊からエリツィンが登場したロシアの政治と社会の現場報告ですが、その話の内容の象徴にこの緞帳が標題に採用されたわけです。(この書の最後のエッセイの表題は、「エルミタージュの緞帳」です)。

 著者は冒頭で述べていますが、中学生から高校の頃、ソ連による人類初の人工衛星打ち上げに衝撃を受け、ロシア語を東京外国語大学で学び、NHK入社。70年にモスクワ駐在特派員となり、取材活動に。しかし、直後からこの社会主義国への期待が幻想であったことに気づきました。

 社会主義国ソ連の問題点はいまでは周知であり、一般的には、過度の中央集権制、ノメンkラトゥーラが跋扈した官僚制度国家であったことが崩壊と解体の原因であったことになっています。

 本書はジャーナリストによって書かれたものなので、話が具体的であり、リアルです。ペレストロイカがパンスト論議から時始まったこと、ゴルバチョフに大きな期待が寄せられながら軍部に対する統制がきかず、保守化したこと、エリツィンがゴルバチョフを失脚させたものの権力をとったとたん、権力にあぐらをかき、同じ轍をふんだこと、ソルジェニーツィンの取材での失望、画家レーピンの歪曲された実像、チャイコフスキーコンクール(1994年)の舞台裏などなど。

 コスイギン外相、ロストロポーヴィッチ、サハロフ博士など大物への取材内容も興味深いです。

 著者は「何かといえば共産党独裁政権下の特権階級を批判し」てきたのですが、自身その特権的な恩恵に浴してきたことも十分自覚していて(p.237)、ロシアとロシア人の一筋縄ではいかないしたたかさ、懐の深さをにも熟知し、そのことが文章の端々に感じられ、面白い読み物でした。


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