【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

クレイマー、クレイマー(Kramer vs. Kramer) ロバート・ベントン監督、アメリカ、1977

2017-09-22 20:18:12 | 映画

                  
 
妻ジョアンナ(メリル・ストリープ)が家出したのは理由がないわけではなかった。自分らしく生きたいと思ったのだ。夫テッド(ダスティン・ホフマン)は妻をひとつの型にはめこもうとし、理想の妻にしようとした。ジョアンナはすてきなこと、したいことがいくつもあったのに、そのことを相談しようとしても、仕事に熱中していたテッドは忙しさを理由に彼女の相談にのろうともせず、無視し続けたからであった。ジョアンナは精神的にも落ちこみ、自殺も考えたほどであった。テッドは七才になったビリー(ジャスティン・ヘンリー)に語りかける。

 広告マンのテッドは、ニューヨークの会社で代理店の契約をとる仕事に従事していた。半年、命を賭けて取組んだ契約をとりつけ、副社長に重役昇進の話しも約束され、有頂天で帰宅すると、ジョアンナはクレジット・カード、小切手帳をおいて、家を出ていくと言う。八年の結婚生活で離婚、息子ビリーがテッドのもとに残された。

 会社勤めと家事、育児とで、テッドは戸惑った。起床、朝食でフレンチトーストを焼く、子どもを学校へ連れていき、夕方には迎え、そして就寝前のベッドでのお話。ハローウィンの催し物、PTAには親として出席しなければならなかったし、子どもが熱をだせば、迎えにいかなければならない。ふと目を離したすきに、公園のジャングルジムで遊んでいたビリーが落下。左目の下を十針縫う大怪我。仕事に生活にきりきり舞のテッド。家庭のごたごたを、仕事にもちこんだり、支障はないと副社長と約束したが、得意先の契約を取ることに失敗し、挙句の果てにテッドは会社を首になり、失業してしまった。

 テッドは、新しい困難に直面した。家出してカリフォルニアに行き、その後ニューヨークに戻ってデザイナーの仕事についていたジョアンナが、ビリーの親権を主張し、引き取りたいと打ち明けた。テッドが拒否すると、ジョアンナは裁判に持ちこんだ。失業中のビリーは裁判のために、安い給料に妥協して再就職。ニューヨーク地方裁判所の法廷で、親権をめぐって争うことになった。

 両者の弁護士による尋問の場面は、凄い。裁判に勝つための激しいやりとりがある。ビリーを五年間育てたジョアンナか、18ヶ月、仕事と両立させて面倒をみたテッドか。過去のあらゆることが掘り起こされ、裁判はこの勝敗の決着をつける闘いであった。判決はジョアンナの勝訴。彼女がビリーを育て、テッドは養育費として月四〇〇ドル、隔週に一度面会でき、泊ることができるというのが判決の内容であった。

 テッドは上告を諦め、判決にしたがった。ビリーの引越しの場面。テッドになだめられて引越しの準備をすすめるが、ビリーは父親も好きなので泣きじゃくった。離婚した親に、子どもの心が引き裂かれるこのシーンは、見ていてつらい。ビリーを迎えにきたジョアンナ。様子がおかしい。ジョアンナは、ロビーで「あの子の家はここよ」と涙ぐむ。「ビリーに会っておいで。ぼくはここで待っているから」と促されてジョアンナは、マンションのエレベータで、テッドの部屋まで上がって行こうとした。涙を拭きジョアンナはテッドに笑顔を向けて「おかしい?」と聞くと、彼は応えた「すてきだよ」と。

 アメリカの当時(1970年代後半)の家族問題を真摯に直視しながら、深刻ぶるわけではなく、笑いも挟み込まれ、上質の映画である。しかも要所は、シリアスである。ベントン監督によれば「この映画のメッセージは許すこと」である。

 第52回(1979年)アカデミー賞作品賞。ロバート・ベントンは監督賞と脚本賞を受賞。ダスティン・ホフマンは男優賞、メリル・ストリープは助演女優賞をそれぞれ受賞した。


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