【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

宮尾登美子『一弦の琴』講談社、1978年

2012-06-23 00:03:24 | 小説

             

  明治から大正、昭和、高知を舞台に一弦の琴(発祥地は須磨、京大阪で発展)に惹かれ、憑かれた女性2人の生涯をとおして、時代の空気、社会の在り様、女の想いを描いた大河小説。


  2人の女性の名は、苗と蘭子。蘭子にはモデルがいて、その人は人間国宝の秋沢久寿栄。彼女の師匠が苗である。

  小説の前半は苗の人生、これをうけつぐ形で蘭子の人生がある。澤村家の苗が祖母・袖の庇護のもと亀岡さんに琴の手習いを指南され、その後たのみこんで有伯翁に弟子入り、めきめきと腕をあげる。結婚、再婚。2番目の夫は音曲に理解があり、苗は後援を受けて琴の塾(市橋塾)を開き、弟子の数は増え続け、盛況を極める。

  この間、有泊と同居していた女性の不始末、妹(美代)の結婚と死、妹の夫だった人との再婚、琴製作の達人・佐竹紋次郎との出会いと別れ、そして再開。波乱万丈の人生、人間関係の確執、この作家の得意とするところだ。

  市橋塾で学び、なかでも頭角を現した蘭子は塾内部のいざこざで波紋同然となるが、結婚に恵まれ、琴の普及に開眼し、人間国宝として認められた。彼女にとっては苗を越えることが夢であり、究極の目標であったが、国宝として認められ、苗以上の長寿を全うし、夢を果たした。これも人生である。

  後半、祓代(はつよ)という蘭子の弟子が出てくるが、この人は、わたしは想像するに、著者の化身ではなかろうか。なんとなくそう読めた。

  実際、著者は「あとがき」で、昭和37年秋に高知の寺田寅彦邸で人間国宝秋沢久寿栄の一弦琴を聴き、以後、取り憑かれたことを書いている(祓代が著者自身とは書いていないが)。


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