デュアルユース(軍民両用)の危険① 「復興」に潜り込む軍事
岸田文雄政権による大軍拡路線は、科学・技術を軍事へ動員する仕組みづくりに拍車をかけています。軍事と民生双方に活用できる「デュアルユース」の危険性を追います。
福島県の太平洋沿岸部に位置する「浜通り地域」は東日本大震災による津波と原発事故で大きな被害を受けました。この地で国と県が「復興の切り札」とする国家プロジェクトが進んでいます。「福島イノベーション・コースト構想」です。新たな技術や産業を創出することで、浜通り地域の失われた産業基盤を回復するとうたいます。構想に基づき整備されたのが「福島ロボットテストフィールド」です。
事業費156億円を投じ、2020年3月、南相馬市と浪江町に全面開所しました。南相馬市には東京ドーム10個分の敷地にドローン(無人機)の飛行実験場や、救命ロボット用の模擬災害現場など「陸・海・空」20余の施設を整備しています。
福島ロボットテストフィールド=福島県南相馬市
転用
ロボット産業の育成を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に防衛省は関係閣僚会議のメンバーとして参画。17年7月28日に開かれた第1回会議で若宮健嗣(けんじ)防衛副大臣(当時)は、「民間企業が、ロボットにかかわる新たな製品または新技術の開発を行う際に、防衛装備庁の試験研究施設をご利用いただくことにより、構想の推進に協力したい」と発言しました。民間企業の技術開発に防衛省の施設を活用させることで、民生技術を軍事転用したいとの意図を暗に示しています。
科学史・技術史を研究してきた東北大学の井原聰名誉教授は、「陸自のフィールドを民間に提供することで民間と技術交流の機会が増え、民事が軍事に寛容になる」と、その危険性を指摘します。「軍事技術は秘匿されるので、精緻になるが先細りになり、先進技術はうまれにくい。軍隊内の開発には限界があり、民をあてにしなければならないのです」
さらに若宮氏は第1回会議で、将来的な「福島ロボットテストフィールド」の活用についても言及。「防衛省におきましてもロボット関連技術の研究開発を進めているところ」「将来的にも、福島ロボットテストフィールドを利用する可能性についても検討してまいりたい」と強調しました。
『ルポ母子避難』などの著書があるフリーライターの吉田千亜氏は、復興を隠れみのにした軍事利用に警鐘を鳴らします。
吉田氏が情報開示請求で入手した資料によると、防衛省の外局である防側装備庁は21年、「福島ロボットテストフィールド」で、作業車両の遠隔操縦実験と、高機動パワードスーツ(強化服)実験の二つの事業を行っていました。装備庁は、あくまで災害対応と説明しています。
車両実験では、原発事故などの災害を想定した訓練を実施。この訓練は、化学・生物・放射線・核(頭文字をとってCBRN=シーバーン)による汚染環境下でも、遠隔操作で車両を動かそうというものです。複数車両の情報を統合し作業エリアの静臨表示や3次元(3D)地図を作成しました。
情報開示資料には、ここで得られた情報や経験は、「将来の陸上自衛隊が運用する陸上無人車両の遠隔操縦性の向上に貢献することが期待できる」と記されています。井原氏は「まぎれもなく兵器の実機試験と試行運用です」と指摘します。
福島ロボットテストフィールド内にある実験施設=福島県南相馬市
戦闘
高機動パワードスーツの性能試験もあくまで「災害派遣」の試験として実施されました。しかし、情報開示資料には、高機動パワードスーツの使い道として「島しょ防衛」が「災害派遣」と同等の扱いで列挙されています。
パワードスーツは軍民両用技術です。重い荷物を持ち上げる際にかかる身体への負担を軽減する目的で開発が進んできました。国内では介護や農業などを中心に製品化が進む一方、米国では軍用としての技術開発も行われています。
一連の研究を終え、装備庁は「戦闘行動時に必要な高い移動速度で行動可能なパワードスーツは本研究で初めて実現した」と評価。「諸外国と比較して技術的優位性が高い」と結論付けました。
実験にかかった経費は全体で約5千万円。「福島ロボットテストフィールド」の借り上げ費用として420万円を払っています。
震災後の福島を取材してきた吉田氏は、「復興名目でやっているのだとしたら非常に問題だ」と指摘。「福島ロボットテストフィールド」の利用規約に「平和利用に限る」との文言を加えるなど、復興に資する使い方に限定すべきだと提起します。(つづく)(5回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年12月13日付掲載
17年7月28日に開かれた第1回会議で若宮健嗣(けんじ)防衛副大臣(当時)は、「民間企業が、ロボットにかかわる新たな製品または新技術の開発を行う際に、防衛装備庁の試験研究施設をご利用いただくことにより、構想の推進に協力したい」と発言。民間企業の技術開発に防衛省の施設を活用させることで、民生技術を軍事転用したいとの意図を暗に。
高機動パワードスーツの性能試験もあくまで「災害派遣」の試験として実施。しかし、情報開示資料には、高機動パワードスーツの使い道として「島しょ防衛」が「災害派遣」と同等の扱いで列挙。
重い荷物を持ち上げる際にかかる身体への負担を軽減する目的で開発。国内では介護や農業などを中心に製品化が進む一方、米国では軍用としての技術開発も。
まさに、軍民両用技術です。
岸田文雄政権による大軍拡路線は、科学・技術を軍事へ動員する仕組みづくりに拍車をかけています。軍事と民生双方に活用できる「デュアルユース」の危険性を追います。
福島県の太平洋沿岸部に位置する「浜通り地域」は東日本大震災による津波と原発事故で大きな被害を受けました。この地で国と県が「復興の切り札」とする国家プロジェクトが進んでいます。「福島イノベーション・コースト構想」です。新たな技術や産業を創出することで、浜通り地域の失われた産業基盤を回復するとうたいます。構想に基づき整備されたのが「福島ロボットテストフィールド」です。
事業費156億円を投じ、2020年3月、南相馬市と浪江町に全面開所しました。南相馬市には東京ドーム10個分の敷地にドローン(無人機)の飛行実験場や、救命ロボット用の模擬災害現場など「陸・海・空」20余の施設を整備しています。
福島ロボットテストフィールド=福島県南相馬市
転用
ロボット産業の育成を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に防衛省は関係閣僚会議のメンバーとして参画。17年7月28日に開かれた第1回会議で若宮健嗣(けんじ)防衛副大臣(当時)は、「民間企業が、ロボットにかかわる新たな製品または新技術の開発を行う際に、防衛装備庁の試験研究施設をご利用いただくことにより、構想の推進に協力したい」と発言しました。民間企業の技術開発に防衛省の施設を活用させることで、民生技術を軍事転用したいとの意図を暗に示しています。
科学史・技術史を研究してきた東北大学の井原聰名誉教授は、「陸自のフィールドを民間に提供することで民間と技術交流の機会が増え、民事が軍事に寛容になる」と、その危険性を指摘します。「軍事技術は秘匿されるので、精緻になるが先細りになり、先進技術はうまれにくい。軍隊内の開発には限界があり、民をあてにしなければならないのです」
さらに若宮氏は第1回会議で、将来的な「福島ロボットテストフィールド」の活用についても言及。「防衛省におきましてもロボット関連技術の研究開発を進めているところ」「将来的にも、福島ロボットテストフィールドを利用する可能性についても検討してまいりたい」と強調しました。
『ルポ母子避難』などの著書があるフリーライターの吉田千亜氏は、復興を隠れみのにした軍事利用に警鐘を鳴らします。
吉田氏が情報開示請求で入手した資料によると、防衛省の外局である防側装備庁は21年、「福島ロボットテストフィールド」で、作業車両の遠隔操縦実験と、高機動パワードスーツ(強化服)実験の二つの事業を行っていました。装備庁は、あくまで災害対応と説明しています。
車両実験では、原発事故などの災害を想定した訓練を実施。この訓練は、化学・生物・放射線・核(頭文字をとってCBRN=シーバーン)による汚染環境下でも、遠隔操作で車両を動かそうというものです。複数車両の情報を統合し作業エリアの静臨表示や3次元(3D)地図を作成しました。
情報開示資料には、ここで得られた情報や経験は、「将来の陸上自衛隊が運用する陸上無人車両の遠隔操縦性の向上に貢献することが期待できる」と記されています。井原氏は「まぎれもなく兵器の実機試験と試行運用です」と指摘します。
福島ロボットテストフィールド内にある実験施設=福島県南相馬市
戦闘
高機動パワードスーツの性能試験もあくまで「災害派遣」の試験として実施されました。しかし、情報開示資料には、高機動パワードスーツの使い道として「島しょ防衛」が「災害派遣」と同等の扱いで列挙されています。
パワードスーツは軍民両用技術です。重い荷物を持ち上げる際にかかる身体への負担を軽減する目的で開発が進んできました。国内では介護や農業などを中心に製品化が進む一方、米国では軍用としての技術開発も行われています。
一連の研究を終え、装備庁は「戦闘行動時に必要な高い移動速度で行動可能なパワードスーツは本研究で初めて実現した」と評価。「諸外国と比較して技術的優位性が高い」と結論付けました。
実験にかかった経費は全体で約5千万円。「福島ロボットテストフィールド」の借り上げ費用として420万円を払っています。
震災後の福島を取材してきた吉田氏は、「復興名目でやっているのだとしたら非常に問題だ」と指摘。「福島ロボットテストフィールド」の利用規約に「平和利用に限る」との文言を加えるなど、復興に資する使い方に限定すべきだと提起します。(つづく)(5回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年12月13日付掲載
17年7月28日に開かれた第1回会議で若宮健嗣(けんじ)防衛副大臣(当時)は、「民間企業が、ロボットにかかわる新たな製品または新技術の開発を行う際に、防衛装備庁の試験研究施設をご利用いただくことにより、構想の推進に協力したい」と発言。民間企業の技術開発に防衛省の施設を活用させることで、民生技術を軍事転用したいとの意図を暗に。
高機動パワードスーツの性能試験もあくまで「災害派遣」の試験として実施。しかし、情報開示資料には、高機動パワードスーツの使い道として「島しょ防衛」が「災害派遣」と同等の扱いで列挙。
重い荷物を持ち上げる際にかかる身体への負担を軽減する目的で開発。国内では介護や農業などを中心に製品化が進む一方、米国では軍用としての技術開発も。
まさに、軍民両用技術です。
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