惜別・三國連太郎さん~ピッタリ画面に収まる俳優 神山征二郎
親しくて大事な人との死別が相次いでいる。昨年の5月、師の新藤兼人監督、一昨年は実姉と実弟、拙作の出演者で「さくら」「草の乱」の田中好子さん、「月光の夏」「郡上一揆」の田中実君、「ふるさと」「ハチ公物語」などの長門裕之さんが亡くなってしまった。
映画にとって良い俳優は良いシナリオと同じ程度に大事なものなのでその都度失ったものの大きさを痛感せずにはおれなかった。
ちょうど満開の桜が競い咲く信州長和町の有坂という旧い村の道を散策している時、胸ポケットの携帯電話が鳴った。地元紙の信濃毎日新聞の知り合いの記者からで、三國連太郎さんの卦報だった。
かねて体調が思わしくないとは聞いていたし高齢、心の準備がないわけではなかったが衝撃だった。散歩のあと町営の温泉施設で温まるつもりだったが、とりやめて山荘に戻った。
自身の作で三國さんと最初に相まみえたのは1995年の「三たびの海峡」だった。日中十五年戦争から太平洋戦争へと戦争に明け暮れていた時代、多くの若者を戦場に送り出し石炭の増産など労働力不足を補うために植民地支配をしていた韓半島から、多数の労働力を日本本土に送り込んだ強制連行の実態とそこでくりひろげられた両国の人間のドラマだった。
韓半島に対する加害に対して心から申し訳ないことだったと私も三國さんも共通の認識に立っていた。
毎朝三國さんはその日の台詞に赤鉛筆で直しや加筆をして現れる。一字一句を間違いなきようにという気迫である。私も同じ気迫でそれに応じ、「ではこれで」と納得しあって撮影に臨んだ。キャメラを構えて、画面サイズを決めて俳優の立ち位置を決める。ここまでが演出家の私の仕事。そこでどう演じるかは三國さんの仕事。不思議なもので演技に力不足や理解不足があると画面が出来上がらない。画面が空疎になってしまう。そんな時演出家は七転八倒して演技の中味を充実させなくてはならない。
時には手とり足とりの教示を余儀なくされる。が、三國さんは立っても座っても、歩いても、寝転んでもピッタリと画面の中に収まってしまう。そういう俳優氏は他にも多数存在するけれど、三國連太郎という俳優はそれが抜群だった。死の場面では、本当に死んでしまったように見えてしまう。心から敬愛していました。本当にありがとう。
(こうやま・せいじろう 映画監督)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年4月30日付掲載
映画「釣りバカ日誌」のスーさん役にピッタリだった三國さん。映画「男はつらいよ」の渥美清さんは若くして亡くなったが、三國さんの場合は一定の高齢なので仕方ない感じがするが、それにしても惜しい人を亡くしてしまったものだ。
「人間国宝」ではないが、美術界や仏師などでも高齢でバリバリで頑張っておられる方々もたくさんおられる。
後を継ぐ映画界の俳優さんたちに頑張ってもらいたい。
親しくて大事な人との死別が相次いでいる。昨年の5月、師の新藤兼人監督、一昨年は実姉と実弟、拙作の出演者で「さくら」「草の乱」の田中好子さん、「月光の夏」「郡上一揆」の田中実君、「ふるさと」「ハチ公物語」などの長門裕之さんが亡くなってしまった。
映画にとって良い俳優は良いシナリオと同じ程度に大事なものなのでその都度失ったものの大きさを痛感せずにはおれなかった。
ちょうど満開の桜が競い咲く信州長和町の有坂という旧い村の道を散策している時、胸ポケットの携帯電話が鳴った。地元紙の信濃毎日新聞の知り合いの記者からで、三國連太郎さんの卦報だった。
かねて体調が思わしくないとは聞いていたし高齢、心の準備がないわけではなかったが衝撃だった。散歩のあと町営の温泉施設で温まるつもりだったが、とりやめて山荘に戻った。
自身の作で三國さんと最初に相まみえたのは1995年の「三たびの海峡」だった。日中十五年戦争から太平洋戦争へと戦争に明け暮れていた時代、多くの若者を戦場に送り出し石炭の増産など労働力不足を補うために植民地支配をしていた韓半島から、多数の労働力を日本本土に送り込んだ強制連行の実態とそこでくりひろげられた両国の人間のドラマだった。
韓半島に対する加害に対して心から申し訳ないことだったと私も三國さんも共通の認識に立っていた。
毎朝三國さんはその日の台詞に赤鉛筆で直しや加筆をして現れる。一字一句を間違いなきようにという気迫である。私も同じ気迫でそれに応じ、「ではこれで」と納得しあって撮影に臨んだ。キャメラを構えて、画面サイズを決めて俳優の立ち位置を決める。ここまでが演出家の私の仕事。そこでどう演じるかは三國さんの仕事。不思議なもので演技に力不足や理解不足があると画面が出来上がらない。画面が空疎になってしまう。そんな時演出家は七転八倒して演技の中味を充実させなくてはならない。
時には手とり足とりの教示を余儀なくされる。が、三國さんは立っても座っても、歩いても、寝転んでもピッタリと画面の中に収まってしまう。そういう俳優氏は他にも多数存在するけれど、三國連太郎という俳優はそれが抜群だった。死の場面では、本当に死んでしまったように見えてしまう。心から敬愛していました。本当にありがとう。
(こうやま・せいじろう 映画監督)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年4月30日付掲載
映画「釣りバカ日誌」のスーさん役にピッタリだった三國さん。映画「男はつらいよ」の渥美清さんは若くして亡くなったが、三國さんの場合は一定の高齢なので仕方ない感じがするが、それにしても惜しい人を亡くしてしまったものだ。
「人間国宝」ではないが、美術界や仏師などでも高齢でバリバリで頑張っておられる方々もたくさんおられる。
後を継ぐ映画界の俳優さんたちに頑張ってもらいたい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます