東日本大震災と日本経済の問題⑬・⑭
応能負担で復興財源
立正大学客員教授 浦野広明さん
東日本大震災からの復興の財源をめぐって、消費税を増税して確保しようという議論があります。
消費税はもともと、所得の低い人ほど負担が重くなる逆進性を持ちます。名目が「復興財源」になろうと、それは変わりません。結局、所得の低い者、被災者に重くのしかかるのです。
震災後、飲食業を中心に倒産が相次いでいます。中小業者は消費税を価格に転嫁できず、店の売り上げから負担しています。そのもとで消費税を増税すれば、被災地に限らず全国的に景気が後退します。
しかも、消費税は、建設資材など復興に必要なものにまでかかってきます。税率が引き上げられたら、復興がますます遠のくでしょう。
結局、消費税はどの点をとっても、復興にもっともふさわしくない財源なのです。
被災者には消費税を還付しようという議論もあります。還付を実現するためとして、納税者番号制度の導入をにらんでいます。しかし、納税者番号制度はプライバシーを侵害し、国民生活の管理につながるもので、認めるわけにはいきません。
累進課税強化で
復興財源に消費税をあてることに批判的な論者の中には、所得税や法人税、住民税に復興特別税を上乗せすればいいという人もいます。しかし、住民税は所得にかかわらず10%です。法人税や所得税も単純な上乗せでは低所得者や小規模企業ほど負担は相対的に重くなります。超過累進課税を強化する方向で上乗せしなければなりません。
当面は、特別国債などを発行して賄うことになります。国債を大企業に引き受けさせ、内部留保を活用させるのはいいアイデアです。国債はいずれ償還しなければなりません。
そのための財源は、応能負担で行うべきです。たとえば、法人臨時特別税を実施することです。これは、法人の所得や資産に応じて法人税に上乗せするものです。
法人臨時特別税
法人臨時特別税は1990年の湾岸戦争の際、米軍中心の「多国籍軍」の戦費を負担するために発行した臨時特別公債の返済財源として導入されたことがあります。そのときは憲法違反の「戦争財源」でしたが、今回は復興のための財源として導入するのです。
長期的には、大企業や大資産家に対する減税によって、空洞化した法人税や所得税も、抜本的に転換していく必要があります。
税制は、議会で決めるものですから、応能負担原則を掲げ、大企業や大資産家に遠慮なくモノをいえる議員を増やしていくことが大切です。
(聞き手 清水渡)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月10日付掲載
大企業が支える側に
労働運動総合研究所常任理事佐々木昭三さん
東日本大震災で日本の基幹産業である自動車などの製造業が大きな打撃を受けました。自動車では、被災地からの電子部晶や樹脂原料・ゴム製品などの供給が停滞し、生産停止や休業に追い込まれました。これは、日本だけでなく、アメリカや世界の生産にも影響を及ぼしました。
親企業には責任
東北地方は、日本や世界の基幹産業の部品供給や生産の一翼を担う重要な役割を果たしていたのです。農業、漁業、林業、観光業やそれを支える商業とともに、東北の地域経済と国民経済を支え、世界経済にも影響を与える位置をもっていました。
被災した自動車をはじめ大企業の関連・協力・下請け企業・業者の再建復興にとって、現在、重要なことは、支えられてきた大企業が社会的責任として全面的に支援・援助・協力することです。それと国・自治体が復興に積極的に関与して、金融・財政支援を含め行財政で本格的に支援することです。
大企業では、再建復興のため、技術者の派遣、工場・設備の投資と無償貸与、金融支援などを行い、再建と正常化まで親企業として責任を持つことです。これは、労働者・業者の雇用や生活にも責任をもって保障することです。大企業にとって、内部留保と経済力を使えば可能なことです。
今、震災・原子力発電所事故を理由にした労働者の解雇、関連下請けへの契約打ち切りなど「企業利益最優先」の企業行動があります。被災者・家族、国民が大きな困難をかかえ、それを乗り越えるための協力・援助が社会的に求められる中では、「許されない行為」です。こうした利益最優先の、労働者・国民に犠牲を強いる企業行動に対しては、社会的に糾弾する必要があります。
一方で、被災地域や関連企業・業者の多くは、経営や雇用、再建復興に膨大な困難があります。これに対しては、最大規模な緊急の支援・援助・協力が、大企業と国・自治体に求められています。
日本社会の転換
経済の復興・再建に向けて、日本社会は大きな転換が求められています。国民の安全と健康がしっかりと守られる災害防止を国づくりの基本に置き、「人災」原発の収束と安心安全なエネルギー政策への転換です。
国民が働き、生活する地域で、衣食住が確保できる地域経済、東北の豊かな自然と共生する農業、漁業、林業と観光業での地域経済の確立、基幹産業関連の再建・復興、これらを大企業の経済力と国・自治体の行財を使い、この中で雇用の確保・拡大と震災復興、地域経済の再建をはかることです。しかも、これを、関係する被災者、関連団体、関係自治体が参加・発言し、「上から」ではなく「下から」、地域経済・地域社会の主人公が中心となって進めることが決定的に重要です。
このことは、国民的課題として、日本の経済・社会にも問われています。また、エネルギー政策の転換にもかかわって、「大量生産、大量消費、大量廃棄」や「24時問型社会」のあり方、長時闇過重労働や夜勤労働の規制、年次有給休暇・連続休暇の取得など健康で人間らしい働き方と生き方、社会のあり方を本格的に考えてゆく課題として提起されています。
(聞き手 中川亮)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月11日付掲載
お二方とも、経済力のある大企業が復興財源を負担すべきだとの事ですね。社会保障でも応能負担ってことが言われますが、震災復興でもそうでないといけませんよね。
特に佐々木さんが言われているように、いままで自動車や電器産業などを下で支えてきた関連企業が被災したわけですから、親企業あげて支援するのは当然ですよね。
湾岸戦争の時に「法人臨時特別税」が導入されたなんて知りませんでした。当時は憲法違反の「戦争財源」だったわけですが、今回は国民の命と暮らしを守るため、まさに憲法にのっとった財源ですから大いに負担してほしいと思います。
応能負担で復興財源
立正大学客員教授 浦野広明さん
東日本大震災からの復興の財源をめぐって、消費税を増税して確保しようという議論があります。
消費税はもともと、所得の低い人ほど負担が重くなる逆進性を持ちます。名目が「復興財源」になろうと、それは変わりません。結局、所得の低い者、被災者に重くのしかかるのです。
震災後、飲食業を中心に倒産が相次いでいます。中小業者は消費税を価格に転嫁できず、店の売り上げから負担しています。そのもとで消費税を増税すれば、被災地に限らず全国的に景気が後退します。
しかも、消費税は、建設資材など復興に必要なものにまでかかってきます。税率が引き上げられたら、復興がますます遠のくでしょう。
結局、消費税はどの点をとっても、復興にもっともふさわしくない財源なのです。
被災者には消費税を還付しようという議論もあります。還付を実現するためとして、納税者番号制度の導入をにらんでいます。しかし、納税者番号制度はプライバシーを侵害し、国民生活の管理につながるもので、認めるわけにはいきません。
累進課税強化で
復興財源に消費税をあてることに批判的な論者の中には、所得税や法人税、住民税に復興特別税を上乗せすればいいという人もいます。しかし、住民税は所得にかかわらず10%です。法人税や所得税も単純な上乗せでは低所得者や小規模企業ほど負担は相対的に重くなります。超過累進課税を強化する方向で上乗せしなければなりません。
当面は、特別国債などを発行して賄うことになります。国債を大企業に引き受けさせ、内部留保を活用させるのはいいアイデアです。国債はいずれ償還しなければなりません。
そのための財源は、応能負担で行うべきです。たとえば、法人臨時特別税を実施することです。これは、法人の所得や資産に応じて法人税に上乗せするものです。
法人臨時特別税
法人臨時特別税は1990年の湾岸戦争の際、米軍中心の「多国籍軍」の戦費を負担するために発行した臨時特別公債の返済財源として導入されたことがあります。そのときは憲法違反の「戦争財源」でしたが、今回は復興のための財源として導入するのです。
長期的には、大企業や大資産家に対する減税によって、空洞化した法人税や所得税も、抜本的に転換していく必要があります。
税制は、議会で決めるものですから、応能負担原則を掲げ、大企業や大資産家に遠慮なくモノをいえる議員を増やしていくことが大切です。
(聞き手 清水渡)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月10日付掲載
大企業が支える側に
労働運動総合研究所常任理事佐々木昭三さん
東日本大震災で日本の基幹産業である自動車などの製造業が大きな打撃を受けました。自動車では、被災地からの電子部晶や樹脂原料・ゴム製品などの供給が停滞し、生産停止や休業に追い込まれました。これは、日本だけでなく、アメリカや世界の生産にも影響を及ぼしました。
親企業には責任
東北地方は、日本や世界の基幹産業の部品供給や生産の一翼を担う重要な役割を果たしていたのです。農業、漁業、林業、観光業やそれを支える商業とともに、東北の地域経済と国民経済を支え、世界経済にも影響を与える位置をもっていました。
被災した自動車をはじめ大企業の関連・協力・下請け企業・業者の再建復興にとって、現在、重要なことは、支えられてきた大企業が社会的責任として全面的に支援・援助・協力することです。それと国・自治体が復興に積極的に関与して、金融・財政支援を含め行財政で本格的に支援することです。
大企業では、再建復興のため、技術者の派遣、工場・設備の投資と無償貸与、金融支援などを行い、再建と正常化まで親企業として責任を持つことです。これは、労働者・業者の雇用や生活にも責任をもって保障することです。大企業にとって、内部留保と経済力を使えば可能なことです。
今、震災・原子力発電所事故を理由にした労働者の解雇、関連下請けへの契約打ち切りなど「企業利益最優先」の企業行動があります。被災者・家族、国民が大きな困難をかかえ、それを乗り越えるための協力・援助が社会的に求められる中では、「許されない行為」です。こうした利益最優先の、労働者・国民に犠牲を強いる企業行動に対しては、社会的に糾弾する必要があります。
一方で、被災地域や関連企業・業者の多くは、経営や雇用、再建復興に膨大な困難があります。これに対しては、最大規模な緊急の支援・援助・協力が、大企業と国・自治体に求められています。
日本社会の転換
経済の復興・再建に向けて、日本社会は大きな転換が求められています。国民の安全と健康がしっかりと守られる災害防止を国づくりの基本に置き、「人災」原発の収束と安心安全なエネルギー政策への転換です。
国民が働き、生活する地域で、衣食住が確保できる地域経済、東北の豊かな自然と共生する農業、漁業、林業と観光業での地域経済の確立、基幹産業関連の再建・復興、これらを大企業の経済力と国・自治体の行財を使い、この中で雇用の確保・拡大と震災復興、地域経済の再建をはかることです。しかも、これを、関係する被災者、関連団体、関係自治体が参加・発言し、「上から」ではなく「下から」、地域経済・地域社会の主人公が中心となって進めることが決定的に重要です。
このことは、国民的課題として、日本の経済・社会にも問われています。また、エネルギー政策の転換にもかかわって、「大量生産、大量消費、大量廃棄」や「24時問型社会」のあり方、長時闇過重労働や夜勤労働の規制、年次有給休暇・連続休暇の取得など健康で人間らしい働き方と生き方、社会のあり方を本格的に考えてゆく課題として提起されています。
(聞き手 中川亮)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月11日付掲載
お二方とも、経済力のある大企業が復興財源を負担すべきだとの事ですね。社会保障でも応能負担ってことが言われますが、震災復興でもそうでないといけませんよね。
特に佐々木さんが言われているように、いままで自動車や電器産業などを下で支えてきた関連企業が被災したわけですから、親企業あげて支援するのは当然ですよね。
湾岸戦争の時に「法人臨時特別税」が導入されたなんて知りませんでした。当時は憲法違反の「戦争財源」だったわけですが、今回は国民の命と暮らしを守るため、まさに憲法にのっとった財源ですから大いに負担してほしいと思います。
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