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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

ウイルスと人間の共存

2020-06-21 08:09:38 | 新型コロナウイルス
ウイルスと人間の共存
新型コロナウイルスの感染拡大が社会の在り方を大きく変えようとしています。ウイルス学が専門で感染症の歴史や新興感染症に詳しい山内一也(やまのうち・かずや)東京大学名誉教授に、ウイルスと人間とのかかわりについて聞きました。宇野龍彦記者


東京大学名誉教授 山内一也さん
やまのうち・かずや=専門はウイルス学。国立予防衛生研究所室長。国立予防衛生研究所室長。東大医科学研究所教授などを歴任。食品安全委員会プリオン専門調査会委員を務めました。主な著書に『エマージングウイルスの世紀』(河出書房新社)、『ウイルスと地球生命』(岩波書店)、『ウイルスの意味論』(みすず書房)など



ウイルスの増殖プロセス
①ウイルスが細胞表面の受容体たんぱく質に吸着
②細胞内に侵入
③細胞の酵素でウイルスの殻が分解され内部の核酸が露出
④細胞の酵素がウイルスたんぱく質や核酸を大量に合成
⑤その核酸とたんぱく質から大量のウイルスが生成され細胞から放出される
(山内一也氏の著書『ウイルスの意味論』から)


恐ろしいだけの存在ではない
自然界でウイルスは宿主と平和共存してきた

ウイルスという言葉の由来は、ラテン語の「病毒」です。そのことが示すように、われわれはウイルスを恐ろしい存在とみなしてきました。しかし人間にとってウイルスは、怖いだけの存在なのでしょうか。
そもそもウイルスは単独で増殖はできません。「宿主」といわれる人や動物の細胞の中に入って、初めて増殖できます。宿主が死ねばウイルスも増殖できずに死んでしまいます。そのためウイルスの中には、さまざまな宿主を渡り歩く巧妙な生存戦略を持ったものがあります。
水痘ウイルスの生存戦略は高い感染力と潜伏、再発です。子どもの時に水痘ウイルスに感染すると水ぼうそうになります。回復してもウイルスは知覚神経細胞に潜み続けます。おとなになり、ストレスや、免疫力低下をきっかけに、帯状庖疹(ほうしん)を発症する原因となります。病名は違いますが、子どものときに感染した水痘ウイルスが原因です。
神経細胞は、ウイルスを排除しようとする免疫反応が到達しにくい場所です。ウイルスもいわば冬眠状態で、免疫反応から攻撃対象と認識されないような状態です。
ウイルスのもっとも効果的な生存戦略は宿主との共存です。ウイルスが自然界で存続する場を提供している動物は、「自然宿主」と呼ばれます。
鳥インフルエンザウイルスの自然宿主はカモです。カモの場合、鳥インフルエンザウイルスは呼吸器ではなく、腸管で増殖します。ウイルスは糞便(ふんべん)とともに排出され、ウイルスが含まれた水を別のカモが飲むことで感染します。そして再び糞便とともにウイルスが排出されます。
冬になると湖沼の水は凍結し、ウイルスも凍結保存されます。そのウイルスが翌年、新しく生まれた子ガモに感染を広げる。そうやって存続してきたと考えられています。しかし鳥インフルエンザウイルスで、カモはほとんど病気を起こしません。
新型コロナウイルスの自然宿主は中国の奥地のコウモリだといわれています。コウモリたちと新型コロナウイルスも長い間、平和共存してきました。



世界保健機関(WHO)は6月8日、新型コロナウイルス感染は世界的に悪化しており、中米ではまだピークを迎えていないとして各国に対応継続を要請しました=6月9日、メキシコ市(ロイター)

哺乳類の存続に重要な役割
本来の宿主のなかでは「守護者」になりうる

本来の宿主とともにあるとき、ウイルスは「守護者」になりえます。
最近、あるウイルスが哺乳類の存続に極めて重要な役割を果たしていることが明らかになりました。「ヒト内在性レトロウイルス」です。このウイルスは霊長類の祖先の染色体に約3000万~4000万年前に組み込まれました。まさに化石のような存在です。
人の胎児は、母親と父親の両方の遺伝形質を受け継いでいます。父親由来の形質は母親にとっては「異物」です。本来ならば、臓器移植の場合と同様、免疫リンパ球により排除されてしまいます。
その母親由来のリンパ球による攻撃から胎児を守っているのは、胎盤の外側を取り巻く「栄養膜合胞体層」です。この膜は胎児の発育に必要な栄養分を通しますが、リンパ球は通しません。この膜のおかげで胎児は発育できます。
この重要な膜はシンシチンと呼ばれるタンパク質により形成されます。最近、このシンシチンがヒト内在性レトロウイルス由来のタンパク質であることが明らかになりました。
ウイルスは遺伝子をほかの生物に運ぶ能力を持っています。遺伝子治療はその性質を利用したものです。
生物の進化の過程を見ると、単なる変異では説明できない大きな変化が時折、起きています。これはウイルスが新しい遺伝子を運び込んだことによるものだと考えられています。
私たちのDNAにもウイルスの遺伝情報が大量に組み込まれています。その一部は私たちの生命活動を支えています。


なぜ「恐ろしい存在」に変わった
別種の宿主に感染した際免疫に対抗し毒性を強化

そんなウイルスが人間にとって「恐ろしいもの」に変わったのはなぜでしょうか。
たとえば鳥インフルエンザウイルス。自然宿主のカモからニワトリに感染し、ニワトリの免疫機構で排除されるのに対抗し、毒性を増加させました。現代の利益優先の大規模養鶏のおかげで、このウイルスはニワトリからニワトリへと地域的にも広がり、毒性をさらに増強しました。
このようにして毒性を強めたウイルスが、人に重大な病気を起こす強毒性インフルエンザウイルスになってしまったのです。
ナイジェリアでの流行拡大と都市化の関係が注目されているのが、ラツサ熱(ウイルス性出血熱)を起こすウイルスです。もともと大型ネズミのマストミスを自然宿主として、平和共存していました。
ところが都市化が急激に進み、マストミスが人家の周りで生息するようになりました。
マストミスの尿とともに排出されたウイルスに人が感染する機会が増え、致死的な感染症を起こすようになりました。もとの宿主では危険ではなかったウイルスが、別の宿主に感染した際に危険な存在に変身したのです。
自然宿主の動物と共存しているウイルスでは、宿主の免疫反応で排除される機会が少ないため、変異の必要はありません。カモと共存している鳥インフルエンザウイルスなどは、ほとんど変異していません。


野生動物と人の接触機会が増えて…
20世紀の「怖いウイルス」現代社会がもたらした

エイズの原因であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)。中央アフリカでチンパンジーのウイルス(SIV=サル免疫不全ウイルス)が1930年代、人に感染して生まれたと考えられています。
チンパンジーのウイルスがHIVに姿を変えた最大の要因は、人口増加に伴い、サルの生息地である熱帯雨林に人が侵入し、サルと人の接触機会が増加したことです。
HIVは最初から毒性が強かったわけではありません。さまざまな経路で感染が繰り返されるうちに毒性が強まりました。80年代初めには北米やヨーロッパで急速に広がり、90%以上の致死率を示すようになりました。
「怖いウイルス」の出現をもたらしているのは現代社会です。森林破壊や都市化により野生動物と人間社会の距離が短縮し、それが動物のウイルスに人が感染する機会を増やしています。ウイルスは、グローバリゼーションや公衆衛生基盤の破綻など、いずれも現代社会が抱えている弱点をついてきます。人間は、ウイルスが広がりやすい、歴史上かつてない環境を生み出してしまったのです。



ラッサ熱患者の治療に使われた物品を廃棄する防護服の医療関係者=2018年3月6日、ナイジェリア・イルア(AFP=時事)


エボラ出血熱の感染拡大を受けて、チェックポイントで幼児の熱を測る保健当局者=2019年8月1日、コンゴ民主共和国のゴマ(AFP=時事)

世界流行が頻発
なかでもウイルスの存続環境が大きく変動したのは20世紀後半です。多くの人が生活する都市と、大規模な人の移動が生まれ、たびたびウイルスの世界的流行が起こるようになりました。
70年代にはエポラ出血熟の流行がありました。致死率は高かったものの、感染はほぼアフリカ内に限られていました。2002~03年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際も、今ほどグローバル化は進んでいませんでした。
新型コロナウイルスは、またたく間に世界に拡大しました。その原因は、ウイルスの側にあるというよりは、私たちが暮らす社会の急激な変化にあります。人口が密集し、人やモノが国境を超えて地球規模で移動するグローバル化が急激に進んでいる現代社会が、新型コロナウイルスの世界的拡大を生み出したのです。


コロナウイルス新型で人感染7種目
もともとコロナウイルスは、人に日常的に感染し風邪の原因となる4種類のコロナウイルスと、重症肺炎を引き起こすSARSウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルスの2種類が知られていました。新型コロナは7種類目になります。
風邪の原因になるコロナウイルスの一つ、HCOV-OC43については、19世紀の終わりごろに、コウモリから牛を介して人に感染して、当時、肺炎の大流行を起こしたのち、単なる風邪ウイルスになったのではないかという仮説があります。
コロナウイルスの遺伝子の長さはインフルエンザウイルスの2倍もあるため、ウイルスが複製される際に変異が起こりやすいという特徴があります。しかも、コロナウイルスは宿主を飛び越えて感染しやすいため、公衆衛生上の大きな脅威とみなされてきました。


14世紀の黒死病で「検疫」が始まった
14世紀にイタリアを襲った「黒死病」は、ボッカチオの『デカメロン』、カミュの『ペスト』をはじめ、多く語りつがれています。
現在では、腺ペストで、ネズミなどを宿主として、ノミが媒介するペスト菌によって起きたと考えられています。
黒死病は1347年10月、イタリアのシチリア島に上陸しました。ヨーロッパの最南端から北上し、3年たたないうちに3500キロメートル離れた北極圏に広がりました。ヨーロッパの全人口の3分の1から3分の2が死亡したと推定されています。
黒死病が再び北イタリアに持ち込まれるのを防ぐために、1377年にはベニスで海上検疫が始められました。最初は30日間の検疫でしたが、間もなくそれでは短すぎるということが分かり40日に変更されました。
これが現在の検疫の始まりです。検疫は英語でquarantine(クウォレンティン)ですが、これはイタリア語の「40日」に由来します。
感染拡大を防ぐ上で検疫制度が重要であることは、1629年10月に再びミラノに黒死病が到達した時に明らかになりました。翌年3月にミラノ・カーニバルが開かれた際に検疫の条件を緩和した結果、黒死病が再発し、最盛期には1日3500人の死者を出してしまったのです。
英国リバプール大学動物学名誉教授のクリストファー・ダンカンと社会歴史学の専門家スーザン・スコットは教会の古い記録、遺言、日記などを詳細に調べて『黒死病の再来』(2004年)を出版しました。
彼らの結論では、黒死病はペスト菌ではなく出血熱ウイルスによるものであり、今でもアフリカの野生動物の間に眠っていて、もしもこれが現代社会に再び出現した場合には破局的な事態になりかねないと警告しています。

「しんぶん赤旗」日曜版 2020年6月21日付掲載


もともとのウイルスの存在は、野生動物だけでなく、人類の進化のなかでも共存してきたもの。宿主となった人類のなかでもです。
でも、別の宿主に感染する時に、ウイルスそのものが防御反応で強毒化するってこと。
今回の新型コロナウイルスは、経済のグローバル化、人的移動のグローバル化であっというまに全世界に広がった。

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