東日本大震災と日本経済の問題⑮・⑯
公的就労事業実施を
労働運動総合研究所顧問 大木一訓さん
今日の大災害は一過性のものではなく、かなり長期に続くことを覚悟しなければならない、三重、四重の複合的災害です。復興事業を成功させるには、被災者をふくむ地域住民の主体的参加のもとに、中長期の展望をもった事業をすすめる必要があります。東北の歴史・文化や人間的なつながりを大切にし、住民自身が意欲的に創造し担っていくような復興事業でなければ、持続可能な経済・社会の再構築はできないでしょう。
政府は、被災地に全国から「ヒト・モノ・カネ」を短期間に集中的に投入して復興をはかろうとしていますが、これでは住民ぬきの、大手開発企業による一時的な金もうけのための「復興事業」になってしまいます。
上意下達の姿勢
また、厚生労働省は4月初め、全国の人材ビジネス業者に被災者への就職支援を行うよう要請していますが、こうした政策では、地元のコミュニティーも労働力集団もバラバラに解体されて、復興事業の担い手が失われてしまうでしょう。神戸と違い東北では、自治体主導ではなく政府主導で事業をすすめようという動きがあるようですが、そうした上意下達の姿勢は根本的に改めるべきです。
「復興構想会議」などの議論で決定的に欠けているのは、東北中心に大量に生み出された失業者たちに、その生活と仕事をどう保障していくか、という問題の検討です。被災市町村の就業者84万1千人に震災・原発事故関連の離職者・内定取り消しなどをあわせると、失業者数は100万人に迫るでしょう。阪神大震災の際の「震災による失業者3万2千人」(政府発表)と比較しても、規模の大きさがわかります。しかも農業・漁業などの自営業者が大きな比重を占めることもあって、その多くは雇用保険など従来の失業保障ではカバーされない人たちです。再就職といっても地元の産業は壊滅状態なので、その機会は絶無に近い。そして失業の発生はまだまだ続いているのです。
社会の再生こそ
この長期大量失業に対処するためには、復興事業とむすびつけた公的就労事業を創設することが不可欠だと思います。被災者を救援し、失業者の生活や仕事を保障することと、地域の産業・経営やコミュニティーの復旧・復興をすすめる事業とを、一つにむすびつけて社会の再生・発展をはかるのです。かつての米国のニューディール政策やヨーロッパの直接的雇用政策、それに日本での失対事業や地域雇用創出交付金制度などの経験を生かして、公的就労事業を今日にふさわしく創造的に発展させることです。この点では自治体とともに、業者団体や労働組合、生協、ボランティア団体などの住民組織にも、大きな役割をはたしてほしいと思います。
(聞き手 清水渡)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月12日付掲載
住民の声基に復興を
京都大学大学院教授 岡田知弘さん
今回の東日本大震災の特徴は、あまりにも多くの人命と住宅、農地、漁船、工場や商店などの生活手段、電気、水道などの生活基盤設備までもが一気に失われたことです。したがってこの大震災からの復旧・復興の第一義的課題は、生き残ったすべての被災者の生命・健康の維持と生活の再建、「人間の復興」でなければなりません。そのための必要な手だてを緊急に、スピード感をもって実施することが必要です。
現実は、震災後2カ月以上がたった今も12万人近くが避難し、避難所での劣悪な生活環境から高齢者が亡くなり、子どもの学習や心の問題、生業や事業の再建の遅れなど、人権を保障する最低限の水準さえ確保できていない深刻な状況です。加えて原発事故で避難している住民は先が見えない生活を余儀なくされています。
生活再建を核に
今回地震と津波が襲った農山漁村地域は、経済のグローバル化と歴代政府の進めた構造改革により、地域産業が後退し過疎化と高齢化が進み、コミュニティーが破壊され、買い物難民、医療難民、限界集落といわれるような、社会生活基盤が弱体化した地域です。生活再建を核に地域経済・社会そのものの再生が欠かせません。
復旧・復興にあたり、国や県が上からの計画を押し付けてはなりません。政府の復興構想会議は「創造的復興」をめざすといいます。「漁港の集約化」、「農地の集約・広域化」など構造改革推進論も盛んに登場しています。しかし、阪神・淡路大震災の際も今回と同じ「創造的復興」が叫ばれその下で大型開発が優先され、住宅再建をはじめ住民の生活は10年経ても「7割復興」といわれました。この教訓を忘れてはなりません。
旧山古志村では
2004年に中越大震災で全村避難を余儀なくされた新潟県旧山古志村では、「山古志へ帰ろう」という住民合意を広げ、住民と行政が協同した取り組みで多数の住民が村に戻り生活を再建しました。
現地の住民や市町村の要望・要求を基にして立案・策定した復興計画を遂行するシステムを政府に求めます。
政権党の一部の政治家、財界などは被災市町村の合併を構想し、「道州制」を唱えています。これは被災地域の疲弊を深めるだけです。それは「平成の大合併」による広域合併自治体で、周辺部の地域経済が衰退し、さらに中心部も衰退するという悪循環の広がりからも明らかです。
今回の大震災では、市役所や役場が人的にも物理的にも甚大な被害を受けました。復旧・復興を担う自治体職員の確保、増員が必要です。国および全国の地方自治体からの専門職員、一般職員の長期派遣だけでは不足しています。私たち研究者や自治体関係者が参加する自治体問題研究所は、国の直接的な財政的支援を求めるとともに、任期付き公務員制度を利用した被災者の直接雇用による復興策等も提案しています。
(聞き手 大小島美和子)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月19日付
生産基盤が崩壊してしまっている中、公的就労支援などで仕事をつくりそれで生産基盤を立て直していくことは効果的でしょうね。
また、「山古志村に帰ろう」などの目標があれば復興にむけての勇気や希望もでてくると思います。
今回も、「〇〇に帰ってコメ作りを」「〇〇に帰って漁業を」に国が支援していかないといけないと思います。
公的就労事業実施を
労働運動総合研究所顧問 大木一訓さん
今日の大災害は一過性のものではなく、かなり長期に続くことを覚悟しなければならない、三重、四重の複合的災害です。復興事業を成功させるには、被災者をふくむ地域住民の主体的参加のもとに、中長期の展望をもった事業をすすめる必要があります。東北の歴史・文化や人間的なつながりを大切にし、住民自身が意欲的に創造し担っていくような復興事業でなければ、持続可能な経済・社会の再構築はできないでしょう。
政府は、被災地に全国から「ヒト・モノ・カネ」を短期間に集中的に投入して復興をはかろうとしていますが、これでは住民ぬきの、大手開発企業による一時的な金もうけのための「復興事業」になってしまいます。
上意下達の姿勢
また、厚生労働省は4月初め、全国の人材ビジネス業者に被災者への就職支援を行うよう要請していますが、こうした政策では、地元のコミュニティーも労働力集団もバラバラに解体されて、復興事業の担い手が失われてしまうでしょう。神戸と違い東北では、自治体主導ではなく政府主導で事業をすすめようという動きがあるようですが、そうした上意下達の姿勢は根本的に改めるべきです。
「復興構想会議」などの議論で決定的に欠けているのは、東北中心に大量に生み出された失業者たちに、その生活と仕事をどう保障していくか、という問題の検討です。被災市町村の就業者84万1千人に震災・原発事故関連の離職者・内定取り消しなどをあわせると、失業者数は100万人に迫るでしょう。阪神大震災の際の「震災による失業者3万2千人」(政府発表)と比較しても、規模の大きさがわかります。しかも農業・漁業などの自営業者が大きな比重を占めることもあって、その多くは雇用保険など従来の失業保障ではカバーされない人たちです。再就職といっても地元の産業は壊滅状態なので、その機会は絶無に近い。そして失業の発生はまだまだ続いているのです。
社会の再生こそ
この長期大量失業に対処するためには、復興事業とむすびつけた公的就労事業を創設することが不可欠だと思います。被災者を救援し、失業者の生活や仕事を保障することと、地域の産業・経営やコミュニティーの復旧・復興をすすめる事業とを、一つにむすびつけて社会の再生・発展をはかるのです。かつての米国のニューディール政策やヨーロッパの直接的雇用政策、それに日本での失対事業や地域雇用創出交付金制度などの経験を生かして、公的就労事業を今日にふさわしく創造的に発展させることです。この点では自治体とともに、業者団体や労働組合、生協、ボランティア団体などの住民組織にも、大きな役割をはたしてほしいと思います。
(聞き手 清水渡)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月12日付掲載
住民の声基に復興を
京都大学大学院教授 岡田知弘さん
今回の東日本大震災の特徴は、あまりにも多くの人命と住宅、農地、漁船、工場や商店などの生活手段、電気、水道などの生活基盤設備までもが一気に失われたことです。したがってこの大震災からの復旧・復興の第一義的課題は、生き残ったすべての被災者の生命・健康の維持と生活の再建、「人間の復興」でなければなりません。そのための必要な手だてを緊急に、スピード感をもって実施することが必要です。
現実は、震災後2カ月以上がたった今も12万人近くが避難し、避難所での劣悪な生活環境から高齢者が亡くなり、子どもの学習や心の問題、生業や事業の再建の遅れなど、人権を保障する最低限の水準さえ確保できていない深刻な状況です。加えて原発事故で避難している住民は先が見えない生活を余儀なくされています。
生活再建を核に
今回地震と津波が襲った農山漁村地域は、経済のグローバル化と歴代政府の進めた構造改革により、地域産業が後退し過疎化と高齢化が進み、コミュニティーが破壊され、買い物難民、医療難民、限界集落といわれるような、社会生活基盤が弱体化した地域です。生活再建を核に地域経済・社会そのものの再生が欠かせません。
復旧・復興にあたり、国や県が上からの計画を押し付けてはなりません。政府の復興構想会議は「創造的復興」をめざすといいます。「漁港の集約化」、「農地の集約・広域化」など構造改革推進論も盛んに登場しています。しかし、阪神・淡路大震災の際も今回と同じ「創造的復興」が叫ばれその下で大型開発が優先され、住宅再建をはじめ住民の生活は10年経ても「7割復興」といわれました。この教訓を忘れてはなりません。
旧山古志村では
2004年に中越大震災で全村避難を余儀なくされた新潟県旧山古志村では、「山古志へ帰ろう」という住民合意を広げ、住民と行政が協同した取り組みで多数の住民が村に戻り生活を再建しました。
現地の住民や市町村の要望・要求を基にして立案・策定した復興計画を遂行するシステムを政府に求めます。
政権党の一部の政治家、財界などは被災市町村の合併を構想し、「道州制」を唱えています。これは被災地域の疲弊を深めるだけです。それは「平成の大合併」による広域合併自治体で、周辺部の地域経済が衰退し、さらに中心部も衰退するという悪循環の広がりからも明らかです。
今回の大震災では、市役所や役場が人的にも物理的にも甚大な被害を受けました。復旧・復興を担う自治体職員の確保、増員が必要です。国および全国の地方自治体からの専門職員、一般職員の長期派遣だけでは不足しています。私たち研究者や自治体関係者が参加する自治体問題研究所は、国の直接的な財政的支援を求めるとともに、任期付き公務員制度を利用した被災者の直接雇用による復興策等も提案しています。
(聞き手 大小島美和子)(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月19日付
生産基盤が崩壊してしまっている中、公的就労支援などで仕事をつくりそれで生産基盤を立て直していくことは効果的でしょうね。
また、「山古志村に帰ろう」などの目標があれば復興にむけての勇気や希望もでてくると思います。
今回も、「〇〇に帰ってコメ作りを」「〇〇に帰って漁業を」に国が支援していかないといけないと思います。
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