仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

マシスン的逆転

2006-02-18 01:37:27 | 書物の文韜
13のショック

早川書房

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日本テレビの木曜深夜に放送している、『ナイトビジョン』が面白い。昔よくみた上質のSFミステリー、『ミステリーゾーン(原題:Twilight Zone)』を彷彿とさせます。
毎回、1話完結30分のショート・ストーリーが2話ずつという形式で、昨日の放送は「異次元への窓」と「お静かに」。前者は、愛息の事故死をきっかけに妻との関係も冷えてしまった陸軍少佐が、砂漠で発見された異次元への窓を調査するうち、向こう側で生活する平和な家族の姿、とくに愁いに満ちた未亡人に共感し魅せられる。普段は物質を通さない窓が開く瞬間を計算し、異次元の家族のもとへ飛び込んだ少佐が経験したものは……という内容。後者は、被害者の舌を切り取るという猟奇殺人が頻発する都会の喧噪を逃れ、郊外の森林公園で静かな週末を過ごそうとした主人公に、怪しげな老人がつきまとう。果たして彼は、噂の殺人鬼なのか……といった物語ですね。2話とも、ラストのどんでん返しが効いているわけですが、私はこのような展開を、勝手に〈マシスン的逆転〉と呼んでいます。

リチャード・マシスンは、私の大好きな作家・脚本家のひとり。『ミステリーゾーン』や『事件記者コルチャック』のメイン・ライターだったわけですが、映画『激突!』『ヘルハウス』の作者といった方が有名かも分かりません。中学か高校の頃、モダン・ホラーの短編小説集『闇の展覧会』(最近再刊されたようです)で彼の作品「精神一到」(息子リチャード・クリスチャン・マシスンとの共作)を読んだときの衝撃は、今でも忘れられません。
ある男が、真っ暗闇のなかで突然目覚め、自分が罠にはめられて生きたまま埋葬されたことに気づきます。誰が自分を陥れたのか考え、その人間への復讐を誓いながら、彼は必死の思いで棺桶を破り、湿った土を掘り除けて地上に復帰します。勝利を確信し、近くの公衆電話から自宅へ無事を知らせようとした彼は、逆に自分が「何ヶ月も前に死んでいる」ことを知らされるのです。鏡に映る朽ち果てた己の姿をみつめながら、彼は、もうどこにも帰る場所のないことを悟るのでした……。異常な事態から逃れようとする主人公の克明な描写と、彼に訪れる皮肉な運命。その鮮やかな転換の技には、「巧い!」とただ唸らざるをえません。現代のショッキング・ホラー世代には物足りないかも知れませんが、そこには、ストーリー・テリングの妙が光っています。
その短編集は、キング、ブロック、スタージョンなどが競作するかなり豪華な代物だったのですが、マシスンの作品がいちばん印象に残っています。『ナイトビジョン』も、こうしたマシスン的逆転の正統な後継者といえるでしょう。

先日書店を眺めていると、マシスンの短編集『13のショック』が新装カバーで再刊されていました。早速購入、移動中の電車のなかなどで楽しんでいます。
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3 Comments

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Unknown (kazuou)
2006-02-18 08:58:59
はじめまして。

そんな番組がやってたとは。気がつきませんでした。すごく面白そうですね。「異次元への窓」のあらすじが、昔SFマガジンで読んだ短編にそっくりなんですが、原作なんでしょうか。もしかしてオチはその未亡人が人間を誘い込むための擬態だった、というものじゃないですよね?

マシスンは僕も大好きな作家で、『13のショック』『縮みゆく人間』『激突』『地球最後の男』なんかを読みました。「精神一到」も面白いですよね。不気味でどこか奇妙なユーモアさえあるような作品だと思います。
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またご教示を (ほうじょう)
2006-02-18 09:43:45
kazuouさん、コメントありがとうございます。ぼくはかなり適当なSFファンなので、ちゃんと読んでいる方にご教示いただけると勉強になります。

「異次元の窓」の原作は、ボブ・レマンの短編小説「窓」のようです。確かに、1982年2月の『SFマガジン』283号に掲載されていますね。『ナイトビジョン』という番組の性格自体、よく調べていないのですが、「SFやモダンホラーの短編をドラマ化する」意図もあったのかも知れません。「お静かに」の演出はジョー・ダンテでしたから、その世界では有名な監督も使っているみたいですね。今後の放送が楽しみです。
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やっぱりそうでしたか (kazuou)
2006-02-18 19:10:46
わざわざ調べてもらったみたいで、恐縮です。

やっぱりそうでしたか、題名とか思い出せなかったので、何とも気持ち悪かったのが、おさまりました。ありがとうございます。でもそんなマイナー(なのかな)な短編を原作にしてるぐらいだとすると、確かに先行き面白そうな番組ですよね。今度の放送はぜひ見たいと思います。

〈マシスン的逆転〉というとらえ方は、なかなか面白いと思います。マシスンの作品を知っている人には、感覚的にわかりますね。
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