仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

遠征

2006-02-13 17:27:12 | 議論の豹韜
10日(金)、身体の調子をみて、午後から歴博の共同研究「神仏信仰の通史的研究I」集会に参加。できるだけ身体に負担のかからないよう、大船から総武線で船橋へ出て京成に乗り換え、佐倉へ至るルートで、4時過ぎには歴博へ到着。

新谷尚紀さんの報告「神社と古伝承―民俗学の視点から―」は聞き逃しましたが、和田萃さんの報告「古代史からみたカミ祭り」にはなんとか間に合いました。いわゆる湧水点祭祀・導水祭祀の問題から、吉野の水分の意味を問う内容で、古代日本における水の祭祀の中核には変若水への信仰があり、それは近代の民俗にも繋がっているというもの。私は、湧水点祭祀云々というと開発との関係を考えてしまうので、吉野とはいまひとつ繋がってきません(でも、開発/神聖化の反比例という捉え方をすれば、同じということになりますか……)。水辺の祭祀遺跡も、遺構・遺物とも、必ずしも一括できる内容を持つわけではない。そのあたりちゃんと伺ってみたかったのですが、時間も元気もなかったので黙っていました。
その日は懇親会をパスしてホテルへ直行、iBookを持ち込んで、遅れている『災害史』の作業を行いました。

翌11日(土)は、9時半から三橋健さんの報告「古代における神社数の一考察―『八百万神』という用語を中心として―」。古代の諸史料にみえる神の数え方の意味を問い、『出雲国風土記』冒頭に載せる同国の神社数をもとに、奈良期の全国の神社の実数を推算しようとしたもの(単純計算では24,072社ですが、出雲国の情況を一般化することはできないので、あくまでこれは上限)。実数の有効性はともかく、「八百万」でも「八十万」でもない「百八十」の成り立ちが気になるところ。例えば『書紀』崇仏論争記事にみえる「百八十神」は、『梁高僧伝』竺仏図澄伝の「百神」を翻訳したものとみられているけれども、なぜ「百八十」に転換されているのか。『出雲国風土記』の官社数が184であることからすると、官社設定の際に何らかの意味を持ったのかも知れません。報告終了後の井上寛司さんとの議論でも、神社研究では、漢籍の受容を念頭に置いた言説の研究/考古遺物・遺構から判明する実態の研究/言説と実態との関係の研究、という3つのレベルが明確かつ自覚的に推進される必要のあることを痛感しました。
最後は、最終年度である来年度の打ち合わせ。なぜかまた仕事を増やされてしまう。けっこうキツくなっています。

終了後、ようやく普通に食事が摂れるようになったので、井上智勝さんと昼食。彼が昨年10月に怪異学会で報告した、祟りの問題などについて情報交換。
その後は、ひとりで新収の収蔵品を見学。桃が明らかに女陰を象って描かれている江戸期の『桃太郎画伝絵巻』、下駄の鼻緒が切れたために取り落としてしまった槌と釘を、頭の蝋燭を外して探しているやや滑稽な歌川豊広『丑の刻参り』など、なかなか面白いものがありました。

それから京成で八幡へ出、都営新宿線に乗り換えて神保町へ。内山書店と東方書店をみて中国図書を物色。岩波ホールでは、川本喜八郎の人形アニメーション『死者の書』の初日。絶対観に来なければ。

5時、新宿を経由して、大江戸線で光が丘に到着。毎年この日に行われる、IMAホールでの野村萬斎狂言会を鑑賞しました。近くに住んでいる、妻の友人の中世史研究者Nさん(私たちの結婚式の司会をしていただきました)とお姉さんが、ありがたいことに、いつもチケットをとっておいてくださるのです。
今回の演目は、「墨塗」と「寝音曲」。前者は、訴訟が無事解決して所領へ戻ることになった武士が、都の女に別れを告げる際に起きる滑稽な騒動。後者は、主人に謡を所望された太郎冠者が、いろいろと条件を付けた挙げ句、主人の膝枕で音曲を披露するに至るやりとり。とくに後者は、落語の『掛取萬歳』よろしく、演者の謡い舞う芸がみどころのひとつ。太郎冠者役の萬斎の美声が冴えますが、節はまだ未完成なのかなあ……。お酒をあおる仕草にもややブレがあって、声は涸れてしまったけれども、父親万作の練られた〈形〉には及ばないところもみえます。『花伝』のいう、年齢と芸の関係が想い出されるところ(お経のあげ方にも通じるところがありますしね)。
妻は、一昨年論文で扱った『志度寺縁起』の謡曲化『海士』の一節が謡われたので、非常に感慨深かった様子。

それから4人でお蕎麦を食べ、あれこれ話して解散。どうやら妻は、匿名でブログを始めたらしいですよ。
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