く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「つばさの贈り物 ― 本を通して家族と共に分かち合ったよろこびのかずかず」

2014年11月20日 | BOOK

【アニス・ダフ著、大江栄子・間崎ルリ子・渡邊淑子訳、京都修学社発行】

 原書のタイトルは「BEQUEST Of WINGS ― A Family's Pleasures with Books」。最初に出版されたのが1944年というから、今年でちょうど70年前になる。英米の児童書を扱う図書館の関係者にとっては必読書とされてきた古典。訳者3人がこの本に出会ったのは20年以上前のことだった。いずれも神戸や大阪の図書館や自宅の家庭文庫などで児童書に関わってきた。毎月1回集まって読み解くうち、この本をもっと多くの人と分かち合いたいとの思いが募って刊行にこぎ着けた。

    

 著者アニス・ダフはカナダのトロント近郊の生まれ。学校卒業後、図書館に2年間勤務した後、書店の児童書部門の主任を務める。音楽教師の男性と結婚後、米国イリノイ州に移って2児に恵まれる。1930年代後半から40年代初めにかけ、子どもたちの成長に合わせて共に本を楽しんだ記録を次々に発表、それが出版社の目に留まって出版に至った。その後、アニスはニューヨークに移り、出版社で児童書の名編集者として20年近く活躍した。

 本書は「家族の行事として」「子ども部屋で楽しむ詩」「ことばの楽しみ」「笑いをもたらす本」など15章で構成する。巻末の索引に本書に登場する童話などが50音順に紹介されているが、その書名や作品名を合わせると250点余に達する。その中には『クマのプーさん』『ちびくろさんぼ』『不思議の国のアリス』など日本でもおなじみの童話も多く含まれている。

 子どもが最初に出会う本で、本当に良い本とはどんな本だろうか? 著者は体験から「絵が子どもの毎日の生活の中で目にするものを、くっきりと、美しく、生き生きと、力強く、そしてユーモアと魅力をもって描き出しているもの」とし、「こうした絵は日常目にふれるものを画家の想像力で輝きを与えて見せてくれる」という。

 そのくだりを読みながら、奈良のある図書館の入り口にあった貼り紙を思い出した。『「よい絵本」とは』というタイトルで、そこには「作家、画家たちが文字通り情熱を注いだ作品で、子どもたちの年齢にあっていること、理解しやすく、楽しく、正確な内容と美しい絵と文章、そして子どもの興味、関心をひくもので読書の原点となること」とあり、末尾に「全国学校図書館協議会」と書かれていた。

 著者の長女は多くの本と接するうちに、本の一節をうまく会話の中に引用するようになった。3歳になったばかりの頃、おもちゃを片付けずにぐずぐずしていた娘に、父親がしびれを切らし「早くしろ!」とどなった。すると、娘は静かな声で「と、とてもおおきなトロルが言いました」と言ったとか。その光景が目に浮かぶ。

 本書から「大きな刺激と喜びと励ましを得た」という訳者たちは「あとがき」にこう記す。「夫婦、子どもで成り立つ家族のなかで、本と自然、そして音楽や絵画といった芸術、つまり人間の想像力の翼の羽ばたきから生み出された良きもの、美しいもののかずかずがこのように自然に好ましく結合し、楽しまれ、子どもたちが豊かな精神性を得てゆくということは、なんとうれしいことでしょう」。図書館関係者だけでなく、小さなお子さんを持つ親御さんにもぜひ一読してほしい1冊である。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« <センニチコウ(千日紅)>... | トップ | <橿考研付属博物館> 秋季... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿