【賀殿や還城楽…古くから伝わる管弦と舞楽を奉納】
奈良市の春日大社神苑万葉植物園で3日「万葉雅楽会」(主催=春日古楽保存会、公益社団法人南都楽所)が開かれた。毎年春の「こどもの日」と秋の「文化の日」の年2回開かれる恒例行事。園内中央の池に設けられた浮舞台で、春日大社に古くから伝わる管弦と舞楽が約2時間にわたって古式ゆかしく披露された。
浮舞台の背後には市指定文化財にもなっているイチイガシの巨樹。開演の午後1時前には池の周りに敷かれたゴザやイス席も多くの観客で埋め尽くされた。外国からの観光客もちらほら。雅楽会はまず管弦の部として「平調音取(ひょうぢょうねとり)」と「林歌(りんが)」の2曲が演奏され、次いで「舞楽の部」に移った。
最初の演目は舞台を清めるために舞われる「振鉾(えんぶ)」。鉾を持った赤い装束の左方舞人、次に緑の装束の右方舞人が登場し笛の乱声(らんじょう)に合わせて舞った。この後、舞人4人による左舞(唐楽)の「賀殿(かてん)」と右舞(高麗楽)の「狛桙(こまぼこ)」。前者は遣唐使の藤原貞敏が中国・唐から持ち帰った琵琶の譜に基づいて林真倉という楽人が舞を振り付けたといわれる。後者の舞は朝鮮半島から高麗の使者が船で渡ってくる様子を模したもので、4人の舞人が船を操るように五色に彩られた棹を持って舞う。
舞楽の最後の演目は一人舞の「還城楽(げんじょうらく)」。一説に蛇を好んで食する西域の胡国の人が蛇を見つけ喜ぶ様子を表現したものといわれる。このため別名「見蛇楽(けんじゃらく)」ともいわれる。赤い恐ろしげな面を着けた舞人が鎌首を持ち上げた蛇を見つけ、リズミカルな演奏に乗って蛇の周りを軽やかに舞う。そして左手でとぐろを巻いた蛇を持ち上げ、また喜び勇んで舞を続ける。その所作がなんともユーモラスだった。「還城楽」は左右両方にある舞楽だが、この日は右舞として演じられた。