【ピンク色の大輪フヨウの花と〝競演〟】
奈良市虚空蔵町にある弘仁寺で淡紫色のシオン(紫苑)の花が満開になり見頃を迎えている。平安時代初期創建の高野山真言宗の寺院。「山の辺の道」北コースの円照寺と石上(いそのかみ)神宮の中間に位置し、本尊虚空蔵菩薩から知恵を授かる〝十三参り〟の寺として知られる。
シオンは山門を入って左手の寺務所の周りに群生する。先々代の住職の奥様が好きだったシオンを植えたのが始まりという。草丈は2m前後もあり、散形状に広がった花のてっぺんに陣取ったカマキリがこちらをじっとにらんでいた。シオンのそばではうすいピンク色のフヨウ(芙蓉)も咲き誇り、境内の一角にはムラサキシキブ(紫式部)が小さな紫色の実をたくさん付けていた。
弘仁寺は中世、華厳宗(総本山東大寺)の寺院だった時期があり、その当時は多くの堂宇が立ち並ぶ修行道場だったと伝わる。戦国時代、松永久秀の兵火で1572年に伽藍の大半を焼失したが、江戸初期の1629年、僧宗全によって再興された。本堂前に立つ常夜灯は江戸中期に建立されたもので、「享保」の文字が刻まれている。