この前、古本市で見つけた松本清張さんの本で、今も松本清張さんの古代史に関する本が出ていることを知り、ネットで、まとめ買いをしたのの一冊がこの本。
松本清張作品集の一つになっているのだが、看板に偽りあり。何と、7つのテーマの内、松本清張さんが、参加しているのは、最初の一つのみ。ネットで買う時は、このリスクは必ずつきまとう。
では、失敗買いだったかというと、大成功。
選ばれた7つのテーマの面白さもさることながら、議論に参加する面々が、丸谷才一さんは、永井路子さんや、遠藤周作さんや、井上ひさしさんや、香西泰さんなど、総勢7×3=21名。多士済々。
個性豊かな論客ばかりで、議論は、白熱し、かなりぐさぐさやっている。
元々20年ほど前に出た本だ。
全般的には、今でも通用する議論がほとんどだが、太平洋戦争についての議論は、その後かなり文書公開が進み、展開したように思う。戦後から、本格的に脱却し、日本の在り方が、問われるようになったこともあるだろう。高度成長時代についての解釈も、バブル後の経済低迷で変わってきている。
各テーマで、面白かったフレーズのみ少しづつご紹介。
1、大化の改新は本当にあったのか?
豪族を割拠させないために、役人にしてしまってかれらに官位を与えて官僚制度に縛りつけてしまうという考えを、蘇我氏は、持っていたと思われる。その馬子のかねての構想を中大兄皇子らが蘇我入鹿を殺して横取りしたのでしょう(松本氏)。
2、短詩形文学はなぜ日本文学の中心なのか?
ぼくは、何といってもまず短歌、俳句というのは短いからいいんだと思うんです。ぼくは、長篇小説を書くことが生涯の主題なんだけど、日本人にとって長篇小説というのは苦手なんですね(丸谷氏)。
3、武家政権はなぜ天皇を立て続けたのか?
桓武天皇までは天皇の名に武がつくんですが、それ以後はなくなる。文の政治への転換があったことは疑いないですね(五味文彦氏)。
4、織田、豊臣、徳川がなぜ天下をとれたのか?
要するに全国を支配するための政治体制は、秀吉が作ったわけですね(遠藤氏)。
そうです。家康はそれに若干の微調整をして、江戸へ持っていって完成したということです(山室恭子氏)。
5、薩長はなぜ徳川幕府を唐ケたか?
地理的な要因ですね。とにかく海岸線の長い藩ほど黒船に敏感ですから(井上勲氏)。
6、太平洋戦争はなぜ始まったか?
海軍は山本五十六にしろ誰にしろ、実はアメリカと戦争したら負けると言っていたんですよ。では、どうして陸軍に対して公然と、オレたちは戦ったら負けると言えなかったのか。それは、海軍の軍政の根幹に関わる問題だからです。つまり、一度そんなことを言ってしまえば、それではすべての予算は陸軍に回しなさいということになってしまう。メンツの問題です。要するに国家の大事よりも、海軍の大事、陸軍の大事が優先するんですね(森本忠夫氏)。
7、高度成長はなぜ可能だったか?
あんなに過当競争をやって、なぜ経営者がリスクを感じなかったのか。その説明がどうもすっきりしないんですね。で、ひとつ思ったのが”サラリーマンもたれあい説”というやつで、つまり経営者も銀行家もみんなサラリーマンで、自分で責任をとるつもりがないものだから「まあ、やっちゃえ」と(笑)。オレが社長のときに潰れなきゃいいやというので、どんどんやったら結果的にうまくいったという(香西氏)。