酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

読書三昧(28年11月)

2016-11-30 23:27:08 | BOOK


読書三昧(28年11月)

寒いのでベッドにいる時間が長い。11月の体調は可もなく不可もなし。今の私にはこれが最高。

11月に読んだ本
誉田哲也『増山超能力師事務所』
真保裕一『遊園地に行こう』
中村文則『私の消滅』
和田耕三郎句集『椿、椿』
峰崎成規句集『銀河の一滴』

☆誉田哲也『増山超能力師事務所』
「姫川玲子シリーズ」の重量感を期待したが傾向は全く違うライトな感覚。超能力を持ったものが集まり悩む人たちの相談にのる事務所の話。事務所に勤務する人を含め主人公を変えた七話からなる。得意の警察が絡む最後の「相棒は謎の男」が一番面白いかも。

☆真保裕一『遊園地に行こう』
何という微笑ましいというか甘いというか、真保裕一ってこんな小説書く人だっけ。途中犯人捜しの部分で少し面白くなるのだけれど、結末ははぐらかされた感じでがっくり。私の好みではない。

☆中村文則『私の消滅』
面白い!自分が考えもつかない世界につれていかれるのは楽しい。小説はこれでなくっちゃ・・・。中村文則の小説を読むのは「掏摸 スリ」以来かも。

☆和田耕三郎句集『椿、椿』
それぞれに好きな人ゐて秋澄めり
ふた駅を眠れば夏の海見えて
子供の日子どもの靴をおろしたり
灯台に吹く風冬となつてをり
三島忌の銀座にをんな待たせたり

☆峰崎成規句集『銀河の一滴』
ふらここや靴底空とハイタッチ
おくるみの小さな欠伸枇杷の花
うららかや気の合ふ本とランチして
残る虫終電が今遠ざかる
行き帰り道を違へて春惜しむ


読書三昧(28年10月)

2016-11-01 15:44:09 | BOOK


読書三昧(28年10月)

抗がん剤のせいか湿疹ができたり、お腹の具合が悪かったり、落ち着かない日が続いた。
この頃は夢の中に出てくる自分も病人であるのが悲しい。

10月に読んだ本
原田マハ『暗幕のゲルニカ』
近藤史恵『サクリファイス』
柚木麻子『奥様はクレージーフルーツ』
西尾維新『掟上今日子の家計簿』
西尾維新『撫物語(ナデモノガタリ)』

☆原田マハ『暗幕のゲルニカ』
この小説は1900年代半ばと2000年初頭をいったりきたりして進行する。ピカソの『ゲルニカ』の描かれた時代をピカソの愛人ゾラの目で、そしてアメリカモーマ美術館へ『ゲルニカ』を持ってこようとする時代をキュレーター瑶子の目をとおして書かれている。
モーマ美術館勤務の経験を持つ原田マハでなければ書けない小説。後半同じことが繰り返し書かれ多少くどい部分もあるが、『ゲルニカ』という絵が訴える強いメッセージに視点をしぼったこの作品に強くひかれた。この作者の作品では他に『楽園のカンヴァス』や『ジヴェルニーの食卓』など美術を扱った作品はどれも好きだ

☆近藤史恵『サクリファイス』 
サイクルロードレースをテーマにしたミステリー風小説。
テレビで毎年ツールドフランスを見ているので(といってもフランスの美しい景色を見ているだけだが)小説にはスムーズに入りこめた。緊迫感あって面白いのだが、ミステリーとして読むと、ラストで明かされる動機や手法にすっきりしない部分があり、謎解きという面ではいま一歩か。
小説も面白いが、文庫本の巻末にある書評家大矢博子の解説が抜群に面白い。

☆柚木麻子『奥様はクレージーフルーツ』
フルーツをテーマにした短編集。主人公は仲が良いがセックスレス夫婦の妻、島村初美。色っぽい妄想は、いつもいいところまでいくものの、最後にはぐらかされてしまう。各編に使われる苺、桃、マンゴーなどの果物がどう絡ませられているか、作者の腕も見もの。
言葉一つ一つを味わって読めばいいのだが、筋だけを追うと、ある意味パターンなので飽きるかもしれない。

☆西尾維新『掟上今日子の家計簿』
またまた掟上今日子。今回の4編の中では「掟上今日子の筆跡鑑定」が一番面白いかな。
「掟上今日子の叙述トリック」は犯人が明かされていなくてもやもやしたが、ネットで解き明かしてくれている人がいてやっと納得。
最新刊を読んだつもりだったが、もう次の『掟上今日子の旅行記』が10月に出ているみたい。

☆西尾維新『撫物語(ナデモノガタリ)』
またまた西尾維新。掟上今日子シリーズは読んだので、今回は『撫物語』。物語シリーズはこれを含め18巻も出ているから結構人気らしい。ただどうも中高生対象なのかも。
主人公は15歳の漫画家千石撫子。中学生だが不登校。漫画製作の効率を上げるため本人の分身を4人作って協力させようとしたが、勝手に町に出て行ってしまう。なんとか捕まえようとするのだが・・・。
今はやりの怪異ものに、中学生の悩みらしきものをさりげなく加えてあるのが人気の秘密か。かわいいお話なので一冊読んでこのシリーズはとりあえず終了

読書三昧(28年9月)

2016-10-03 22:43:05 | BOOK



読書三昧(28年9月)

手術・入院からほぼ回復。劇場や美術館に行くことも出来た。まあいいひと月だった。

読んだ本
小池真理子『二重生活』
奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』
唐十郎『ビニールの城』
北村想『遊侠沓掛時次郎』
奥山酔朴『明日無き今日』
須藤昌義句集『巴波川』

☆小池真理子『二重生活』
7月に見た門脇麦・長谷川博己の主演映画『二重生活』の原作本。
濃蜜な感じのした映画に比べ小説は淡白な味わい。多少筋も違っている。
大学院生である白石珠は文学的・哲学的尾行と称して、たまたま町で見つけた近所に住む編集者石坂の尾行を始める。石坂の普段見かけているよき夫・よき父親と違う部分を知るのだが、逆に尾行を石坂に知られてしまい・・・。
小説では白石珠がまた違う人物の尾行を始める所で終わるのだが、映画がどういう形で終わったのか思い出そうとしたけれど、思い出せなかった。

☆奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』
661ページもある長編。寝転がって読むにはちょっと重い。本のあまりの厚さに躊躇してしまうが、読みだすと面白い。
まずこの作者はどれだけの知識が頭に入っているのだろうかと感心してしまう程に話題が豊富。

発想が凄い!筋が凄い!知識から雑学まで凄い!文体がまあまあ凄い!ボリュームが凄い!結末が見えないのが凄いなどすべてに驚かされる。まあ読んでみて欲しいというしかないすごさ。過去にこの著者の作品『東京自叙伝』『メフィストフェレスの定理 地獄シェイクスピア三部作』なども面白かったが、ワンランク違う感じ。ただ昭和の一時代の有名落語家や将棋名人、昔の外国のジャズ奏者のアンドロイドが多数出てくるが、今の若者にはイメージが湧かないかもしれない。一方でロンギヌス物質、フィボナッチ数列、異相空間などの馴染みのない言葉も頻発する。それでも読ませるのが凄いと私は思うけど、駄目な人もいるかもしれない。とりあえずオススメ。

☆唐十郎『ビニールの城』
8月にシアターコクーンで上演された森田剛・宮沢りえ主演の『ビニールの城』の脚本。
私は残念ながら芝居を見ておらず、脚本だけで唐十郎の世界をわかることはむずかしそうだ。

☆北村想『遊侠沓掛時次郎』
9月に見た新国立劇場で見た芝居の脚本。芝居は9月27日のブログで紹介済み。

☆奥山酔朴『明日無き今日』
著者の思いが一杯詰まっている、短歌・俳句・温泉めぐり中心のエッセイ集。俳句のみ紹介。
かあさんの香り包みし夏帽子
ひらく程哀れ残りし花火かな
二人して身辺整理冬日向
種袋振りて幽かな夢の音
心意気富士に行き着く山開き

☆須藤昌義句集『巴波川』
探梅行野菜売場に皆ゐたり
黒板に夢の一文字卒業す
螢舞ふ闇に流れのあるやうに
蠅叩ありぬ寅さん記念館
今年竹伸びよと空をあけておく


読書三昧 (28年8月)

2016-08-31 12:46:01 | BOOK



読書三昧(28年8月)

手術・入院があったため、4冊しか読めなかった。
分野は違うがそれぞれパワフルで魅力的な本だった。

8月に読んだ本

誉田哲也『硝子の太陽Rouge』
駒村吉重『君は隅田川に消えたのかー藤牧義夫と版画の虚実』
村上春樹『雑文集』
伊藤龍平『怪談おくのほそ道』―現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』

☆誉田哲也『硝子の太陽Rouge』
誉田哲也に〈ジウ〉サーガと姫川玲子のヒットシリーズがある。コラボで書かれたうち、先月は『硝子の太陽Noir』を読んだ。今月は姫川玲子シリーズの『硝子の太陽Rouge』。
こちらのシリーズは、登場人物の人間関係が良くわかっているから、すらすら読みやすい。事件自体は殺伐な話であるが、いつもどおり姫川玲子と上司や部下との付き合いが非常に魅力的に描かれていて楽しい。また職場の天敵である勝俣健作警部補とのやりとりが大きなアクセントになっており面白く読める。お薦め!

☆駒村吉重『君は隅田川に消えたのかー藤牧義夫と版画の虚実』
7月27日のブログに町田国際版画美術館の『小野忠重コレクション展』のことを書いたところ、小野忠重について興味深い本があると教えてもらったのがこの本。実在した人物が登場する生々しさにミステリーの要素もあって凄く面白い。さすがノンフィクション大賞をとった著者だけあり文章に説得力もある。
ただそれなりに有名な版画家であった小野忠重が何故こんなに手の込んだ危険なことをやらなければならなかったのかは、一応著者の説明はあるもののやっぱり疑問。
近代版画に関心あればお薦め。

☆村上春樹『雑文集』
村上春樹の本の序文・解説や挨拶などをまとめた短い雑文からなっている。
だからほとんど私の知らない外国のジャズ奏者や小説家などのことが書かれており、本来何の興味も湧かないはずなのだが、不思議に読んでいて楽しい。
文章が明快なこともあるが、一番大きいのは、多分ジャズ奏者や小説家のことを媒介にした村上春樹自身がそこに描かれているからだろう。
文章の中ではエルサレム賞・受賞の挨拶『壁と卵』に感銘を受けた。難しいスピーチを強いられる中で、相手を傷つけることなく(多分)自分の意見をきっちり言えるのが凄い。

☆『怪談おくのほそ道』―現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』
江戸時代後期の奇談集『芭蕉翁行脚怪談袋』の現代語訳に、著者の解説をつけたもの。この時代の人々の思う芭蕉像が読みとれて面白い。ただ怪談とついているわりにはそれほど引き込まれる話はなく、また芭蕉が中国地方や九州に登場したり、掲載されている俳句の作者が違っていたり史実的にはかなり変。芭蕉やその門人を登場させて興味をひいたのであろう。
著者は本書を『怪談おくのほそ道』名付けたことについて解題で説明はしているのだが、違和感は残る。

読書三昧(28年7月)

2016-07-31 15:47:35 | BOOK



読書三昧(28年7月)

本はベッドに寝転がって読む。寝転がるのは体調が悪い時。7月は読んだ本が少ないので全体的に体調が良かったのかも。ありがたいことだ。


7月に読んだ本

西尾維新『掟上今日子の退職願』
西尾維新『掟上今日子の婚姻届』
誉田哲也『硝子の太陽Noir』
井上章一『京都ぎらい』
広渡敬雄句集『間取図』

☆西尾維新『掟上今日子の退職願』・『掟上今日子の婚姻届』
感想は7月8日に掲載済


☆誉田哲也『硝子の太陽Noir』
誉田哲也には、〈ジウ〉サーガと姫川玲子のヒットシリーズがある。今回の『硝子の太陽』は両方のシリーズがコラボして二冊出たが、この本「Noir」は〈ジウ〉サーガの方に属する。姫川玲子シリーズは全部読んでいるのだが、〈ジウ〉サーガの方を読むのは実は初めて。
どちらにしてもすごく面白かった。さすが誉田哲也っていう感じ。沖縄米軍基地問題を背景に起こるフリーライターの殺人事件から始まる暗闘。最後は警察と歌舞伎町セブンが悪を追い詰める爽快な話。『硝子の太陽Rouge』の姫川玲子も早く読みたい。

☆井上章一『京都ぎらい』
京都の洛外である嵯峨に育ち、現在は宇治に住むという著者が書く京都論。
この本は、「まえがき」と「あとがき」が面白い。ただ京都嫌いの理由として書かれる本文のエピソードの数々は、お坊さんや舞子さんなど対象が変わるだけでそれほど変化がなく単調。作者の歴史観や怨霊の考え方などの方に興味をひかれた。 実は私も京都に関係の深い 関西人であり、大きな期待で読んだが、へそ曲がり度が期待ほどではなかった。

☆広渡敬雄句集『間取図』
湯婆に波打際のありにけり
間取図に手書きの出窓夏の山
けさ髪を切りし子も来る地蔵盆
呼鈴にはいと立ちたる木槿かな
中秋や遠き雲抜く近き雲


『掟上今日子の退職願』 ・ 『掟上今日子の婚姻届』

2016-07-08 18:10:51 | BOOK


『掟上今日子の退職願』・『掟上今日子の婚姻届』

今年に入り続けさまに読んでいる西尾維新の掟上今日子シリーズ。昨日から二冊読みました。中編4話を収録した『掟上今日子の退職願』と長編の『掟上今日子の婚姻届』。まさに掟上今日子祭といった感じ。
でも相変わらず、じれったい。「もっと早くすすめよ」とか「掟上今日子の紹介はもういいから」など突っ込みを入れながら読んでいます。

ただ体調悪い時、寝転がって読むには最適。刺激が少なく、ほどよいユーモアや蘊蓄もあって心がなごむのです。そして章の終わりや結末が泣かせるセリフや文章で終わるのが抜群に上手い。
やっぱり作者の術中にはまっているとしか言いようがありません。

シリーズの中で私は隠館厄介(かくしだてやくすけ)くんの登場する作品が好きです。
もう近々7冊目『掟上今日子の家計簿』が出るという。早さにびっくり。

読書三昧(28年6月)

2016-06-30 20:20:10 | BOOK



読書三昧(28年6月)

CT検査があり癌は少し大きくなった。ただ先生が思ったほどではなかったらしく、今の薬を続けることに。今の薬はお腹の調子が悪くなるので結構つらいのだが、新しい薬になるとまた新しい副作用と闘わなければならなくなる。
どっちもどっちなので、ここは先生の判断に任せることにしよう。

6月に読んだ本
金原ひとみ『軽薄』
西尾維新『掟上今日子の挑戦状』
桐野夏生『バラカ』
澤村伊智『ぼぎわんが来る』
折原一『死仮面』
蜷川幸雄・山口宏子『蜷川幸雄の仕事』
関森勝夫『近江蕉門俳句の鑑賞』


☆金原ひとみ『軽薄』
若くして綿矢りさと一緒に芥川賞を取って話題になった作者の最新作。
知的になったというのが適当かどうかはわからないが、ともかく随分成長した感じ。ただ彼女が芥川賞後の結婚やフランス生活などの経験すべてを盛り込み過ぎたため、前半は理屈っぽく感じる。自立する女性の一つの生き方を示すものとして深いと言えば深いのだが、小説としての面白さはいまいちかな。最後の急展開は面白い。

☆西尾維新『掟上今日子の挑戦状』
またまた掟上今日子。私にとっては4作目であるが、5月に読んだ『掟上今日子の遺言書』より前の作品。中編3編を収録。中では第一章の「掟上今日子のアリバイ証言」がいい。
完全犯罪を狙う元水泳選手の鯨岡が、アリバイ工作の相手になんと偶然掟上を選んでしまうという設定。一晩寝れば彼女はすべて忘れてしまい・・・。
全体の雰囲気はいつもと変わらず。びっくりするほどではないが、なんとなく読まされてしまうのだ。

☆桐野夏生『バラカ』
面白いけれど登場人物があまりに都合よく出てきて死んでしまう。原発問題という重い問題を背景に置いているが、人物の描き方が軽いためそれが十分響いてこない。

☆澤村伊智『ぼぎわんが来る』
第22回(2015年)日本ホラー小説大賞受賞作。確かにホラーではあるが、怖いというより楽しい小説。映像化すれば結構恐ろしいものになりそうだが、この作者の文章にはお笑い的なとぼけた味わいがあり、小説としてはそこが魅力。

☆折原一『死仮面』
夢・作中の小説の中のこと・現実それぞれが入り組み過ぎて、私にはこの作品のつじつまがあっているのかどうかわからないほど複雑。多分時系列の表でも作って解読しないと理解不能かも。ただ、はらはらどきどきの江戸川乱歩風の世界の面白さには引き込まれる。
この作家は過去に『沈黙の教室』で日本推理作家協会賞を受賞している。

☆蜷川幸雄・山口宏子『蜷川幸雄の仕事』
蜷川幸雄が亡くなる前、2015年12月の発行。蜷川の業績や魅力を余すところなく伝えている。写真も多いので気軽に読める。
多分朝日新聞でずっと適格な劇評を書いてきた共著者山口宏子(現朝日新聞論説委員)の力であろうと感じられる見事な出来上がり。私もこの10年ぐらい蜷川の芝居を多数見てきたので、読んでいていろんな感慨がわいてくる。蜷川ファンにはたまらない一冊。

☆関森勝夫『近江蕉門俳句の鑑賞』
近江蕉門10名の俳句を細かく鑑賞することにより、その人物も浮かび上がらせようとする試み。芭蕉の弟子として名前を知っていても、句を読んだことのない人物もいて興味深い。

読書三昧(28年5月)

2016-05-31 18:27:20 | BOOK


読書三昧(28年5月)

抗がん剤のせいだと思うが、相変わらずお腹の具合が悪い。外出しても落ち着かない。でも外へ出られるだけでも喜ぶことなのかもしれない。散歩でいろいろな花を見られるのがうれしい。


5月に読んだ本

西尾維新『掟上今日子の遺言書』
小川洋子『いつも彼らはどこかに』
ストリンドベリ『夢の扉』
柳広司『象は忘れない』
相場英雄『ガラパゴス』
滝口悠生『死んでいない者』
大輪靖宏『なぜ芭蕉は至高の俳人なのか』
片山壹晴 随想句集『嘴野記』


☆西尾維新『掟上今日子の遺言書』
退屈だ、まだるっこいと言いながらまた読んでいる「掟上今日子シリーズ」。これで3作目。すっかり作者に取り込まれてしまったようだ。

☆小川洋子『いつも彼らはどこかに』
文庫本で短篇8篇からなる。題の「彼らは」はそれぞれの作品に登場する小動物などを指しているようだ。
どの作品も西洋のおとぎ話を読んでいるような感覚がある。終わってもまだまだ続いていくような不思議な読後感もあり、からっとしているが、死の匂いもある。ともかく他にない個性を持った作者で、こういうのを珠玉の短編というのかもしれない。
私はこの作者の有名な『博士の数式』も『ことり』も読んだことがないので、普段どんな小説を書いているか知らないのだが、実力ある作家であることは私でもわかる。

☆ストリンドベリ『夢の扉』
先月KAAT神奈川芸術劇場で見た芝居『夢の劇-ドリーム・プレイ』の原作脚本。芝居が今一つ理解できないので読んでみた。神の娘が人間界に降りて知る、悲しみと嫉妬に満ちた貧しい世界。この辺まではわかるのだが、作者の観客への意図をどう受け取ったらいいのか、すべてが夢だとすると誰の夢なのかなど本を読んでも今一つ不明。宗教への乏しい理解、翻訳劇であることなどでの限界か。

☆柳広司『象は忘れない』
福島の原発事故後に著者の目にした様々な出来事を、能楽のシチュエーションを借りて書いた短編小説五篇からなる。今の病んでいる日本の怖さが浮かんでくる注目すべき作品。日本人でいるのが、いやになりそうだ。

☆相場英雄『ガラパゴス』
単行本で上下二巻。かなりの長編であるが面白くて一気に読んだ。経済小説と警察小説がミックスされた感じ。自動車・家電・携帯業界の日本でのガラパゴス化や派遣労働者の劣悪な雇用条件問題に、宮古島出身の正義感の強い青年の殺人事件がからまる。捜査に関わる主人公二人の刑事より、はみだし刑事の鳥居と派遣会社女性秘書高見沢のキャラが面白い。

☆滝口悠生『死んでいない者』
第154回芥川賞受賞作品。祖父の死に集った子や孫などの縁者たち。通夜と葬式の間のそれぞれの行動や心情が描かれる。そこには日常とは違った世界があり、それが独特の文体で表現されている。ゆったりした文体が雰囲気をだすのに効果をあげており、上手な小説だとは思うが、私には引き込まれるほどの魅力は感じなかった。

☆大輪靖宏『なぜ芭蕉は至高の俳人なのか』
芭蕉を中心に、発生から蕪村の時代まで、俳諧の歴史を解き明かす。こうした形の本は単調で面白くないのが普通だが、この本はわかりやすく楽しい。筆者の芭蕉に対する考え方にブレがないこと、例句の解説が明快であることなどがその理由だろう。俳句をやっている人にはどなたにもおすすめできる好著。題名がもうすこしやわらかいといいのに。

☆片山壹晴 随想句集『嘴野記』
ページの上段に俳句、下段に随筆を載せた随想句集。示唆に富んだ随想に読み応えあり。
叱責し気まずきままに新茶飲む
自転車に乗れたと自慢の柏餅
片付けは死後の重荷の彼岸かな





読書三昧(28年4月)

2016-05-01 17:35:49 | BOOK



読書三昧(28年4月)

先日の診察は代診の若い先生だった。パソコンの私のデータを見たとたん、えっ!こんなに何回も抗がん剤やっているのですか・・・とびっくりされてしまった。
怖くて聞けなかったけれど、どういう意味なんだろう???

4月に読んだ本

黒名ひろみ『温泉妖精』
本谷有希子『異類婚姻譚』
西尾維新『掟上今日子の備忘録』
黒川博行『勁草』
ジャンボール・絹子『俳諧師園女の生涯』

☆黒名ひろみ『温泉妖精』
2015年すばる文学賞受賞作。
「細かいことはどうでもいいや」と思わせてくれる小説。整形を続け今は外人を粧う20代の主人公、つぶれかけた旅館のおかみ、お金持ちでマニアックな中年男の三人が東北の旅館で出会う。登場人物の関係はちぐはぐだけれど、どこかで許し合っているのが、読後感のいい理由だろう。好みは分かれるかもしれないがお薦め。

☆本谷有希子『異類婚姻譚』
今年の芥川賞受賞作品。面白いといえば面白いが、そうでないと言えばそうでない。この感性に合う人は、はまるだろうが。
私はこの著者を10年ぐらい前「劇団、本谷有希子」の方でまず知った。作・演出の芝居はエネルギーにあふれ、毒があり面白かった。今回の小説にも怖さはあるのだが、どこかソフト。心の内面に向かっているような内容は、一女をもうけた作者の生活の変化と関係あるのかもしれない。単行本では他に短篇3編を収録。

☆西尾維新『掟上今日子の備忘録』
2月に読んだ『掟上今日子の推薦文』より前の作品で、これが「忘却探偵シリーズ」の最初の作品のようだ。なんとなくくどい文体、もう一つすっきりしない推理。読みながらもやもや状態が続く。しかし前回もそうだったが、このもやもやは、ラストの3行ぐらいの微笑ましさで解消させられてしまう。不思議な作家である。

☆黒川博行『勁草』
2年位前に読んだ『破門』ほどではないが、この作者はやはり面白い。
オレオレ詐欺に関わっていた橋岡と矢代の二人、ある時殺人まで犯して多額の預金通帳を手に入れたのだが、いつか刑事達に追われる身に・・・。
オレオレ詐欺の内幕や預金の払出に苦戦する銀行とのやりとりに切迫感があり、大阪弁もいいアクセントになっていて飽きさせない。

☆ジャンボール・絹子『俳諧師園女の生涯』
園女亭で詠まれた芭蕉の「白菊の目にたてゝみる塵もなし」という発句は有名であるが、俳人園女の生涯は余り知られていなかった。幅広い資料を丹念に読み解きそれを解明しようとするもの。はっきりとした結論までには至っていないが、園女研究のためには貴重な一書である。

読書三昧(28年2月)

2016-02-29 23:33:09 | BOOK



読書三昧(28年2月)

私の抗がん剤の副作用は、信じられないほどのだるさがきて、加えてお腹が必ずこわれます。だから5日間ぐらいは完全ダウン。普段だとそれから徐々に回復するのですが、何故か今月は長期化。楽しみにしていた外出も控え、ベッドにいる時間が長く続きました。その分本もたくさん読めましたが、やはり散歩位はしたいですよね。

2月に読んだ本
滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』
恩田陸『消滅』
柚月裕子『孤狼の血』
伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』
米澤穂信『真実の10メートル手前』
西尾維新『掟上今日子の推薦文』
大野和基編『知の最先端』(カズオ・イシグロの章のみ)
能村研三随筆集『飛鷹集』
富川明子句集『菊鋏』
大矢恒彦句集『風船』

☆滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』
第153回芥川賞候補作。
定義は良く知らないけれどこういうのを「私小説」と言うのだろうか。今は妻と小さな娘がいる私が「思い出せない」「わからない」といいながら、それでいて過去の出来ごととその時の心情を連綿と書いている。書かれた出来ごとの一つ一つはそれなりに心に残るのだが、この小説がいいのか悪いのか私にはわからない。
作者は今回『死んでいない者』で第154回芥川賞を受賞した。

☆恩田陸『消滅』
長編であるが最初から最後までずっと緊迫感の持続する面白い小説である。ただ結末は意外性がありスケールも大きなものなのだけど、まっとう過ぎて肩すかしの感じなのが惜しい。けれどお薦め。

☆柚月裕子『孤狼の血』
2016/2/14ブログで紹介済。

☆伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』
陽気なギャング4人組とハイエナ記者の一騎打ち。伊坂幸太郎らしいハイテンポでかつうんちくやギャグが散りばめられた軽くて面白い話。病院の待ち時間などに読むには最適かも。

☆米澤穂信『真実の10メートル手前』
昨年読んだ長編『王とサーカス』の主人公でフリージャーナリスト「太刀洗万智」が活躍する短篇六編からなる。それぞれ推理の部分が余りにうまく進み過ぎて、いささか現実味にかけるが、作者の視点がジャーナリストの立ち位置にあるとすれば納得もいく。ただ取材後に主人公がどういう記事を書いたかは読者にゆだねられるのだが、私にはイメージが浮かばないままで、いささか未消化の部分も。
六編の中で面白いのは「正義感」、作者の意図を強く感じるのは「ナイフを失われた思い出の中に」か。

☆西尾維新『掟上今日子の推薦文』
記憶が一日ごとにリセットされる忘却探偵掟上今日子(おきてがみきょうこ)と元美術館警備員の親切守(おやぎりまもる)が事件を解決する話。なんとなく文章はまだるっこい。親切守が掟上今日子の心の内を推測する同じような話が何度も出て来るせいか。と言ってもこの文体が作者の個性だから仕方がない。
そんな不満はあるのだが、すべては付記の微笑ましさで解消。

☆大野和基編『知の最先端』
知性の最先端にいる天才7人に大野和基がインタビューしたもの。中の一人がカズオ・イシグロ。現在テレビドラマで放映中の『わたしを離さないで』の作者。小説を書くための自身の工程を包み隠さず話している。ドラマも違った目で見られそう。
他の天才のインタビューは余り興味ない分野だったので読むのを省略。

☆能村研三随筆集『飛鷹集』
筆者は俳句誌『沖』主宰で、市川市役所で文化部門の要職にあったこともある。随筆202編に俳句時評が少し加えられている。俳句の主宰としての苦悩や役所で文化面を担当した自信などが素直に語られていて、中々興味深い。

☆富川明子句集『菊鋏』
遠足のしんがり風がそつと押す
気に入つてくれしや巣箱ことことす
どんど火のうしろで闇が伸びちぢみ
ふんばれり午前十時の霜柱
カレンダー十二枚目の寒さうな

☆大矢恒彦句集『風船』
草刈つてをりぬ蛍を守る会
口論に負けて海鼠となつてゐる
休校の子とおはじきの春炬燵
本閉ぢるやうに本屋の閉ぢて夏
清水の舞台押し上げ花吹雪