読書三昧(28年5月)
抗がん剤のせいだと思うが、相変わらずお腹の具合が悪い。外出しても落ち着かない。でも外へ出られるだけでも喜ぶことなのかもしれない。散歩でいろいろな花を見られるのがうれしい。
5月に読んだ本
西尾維新『掟上今日子の遺言書』
小川洋子『いつも彼らはどこかに』
ストリンドベリ『夢の扉』
柳広司『象は忘れない』
相場英雄『ガラパゴス』
滝口悠生『死んでいない者』
大輪靖宏『なぜ芭蕉は至高の俳人なのか』
片山壹晴 随想句集『嘴野記』
☆西尾維新『掟上今日子の遺言書』
退屈だ、まだるっこいと言いながらまた読んでいる「掟上今日子シリーズ」。これで3作目。すっかり作者に取り込まれてしまったようだ。
☆小川洋子『いつも彼らはどこかに』
文庫本で短篇8篇からなる。題の「彼らは」はそれぞれの作品に登場する小動物などを指しているようだ。
どの作品も西洋のおとぎ話を読んでいるような感覚がある。終わってもまだまだ続いていくような不思議な読後感もあり、からっとしているが、死の匂いもある。ともかく他にない個性を持った作者で、こういうのを珠玉の短編というのかもしれない。
私はこの作者の有名な『博士の数式』も『ことり』も読んだことがないので、普段どんな小説を書いているか知らないのだが、実力ある作家であることは私でもわかる。
☆ストリンドベリ『夢の扉』
先月KAAT神奈川芸術劇場で見た芝居『夢の劇-ドリーム・プレイ』の原作脚本。芝居が今一つ理解できないので読んでみた。神の娘が人間界に降りて知る、悲しみと嫉妬に満ちた貧しい世界。この辺まではわかるのだが、作者の観客への意図をどう受け取ったらいいのか、すべてが夢だとすると誰の夢なのかなど本を読んでも今一つ不明。宗教への乏しい理解、翻訳劇であることなどでの限界か。
☆柳広司『象は忘れない』
福島の原発事故後に著者の目にした様々な出来事を、能楽のシチュエーションを借りて書いた短編小説五篇からなる。今の病んでいる日本の怖さが浮かんでくる注目すべき作品。日本人でいるのが、いやになりそうだ。
☆相場英雄『ガラパゴス』
単行本で上下二巻。かなりの長編であるが面白くて一気に読んだ。経済小説と警察小説がミックスされた感じ。自動車・家電・携帯業界の日本でのガラパゴス化や派遣労働者の劣悪な雇用条件問題に、宮古島出身の正義感の強い青年の殺人事件がからまる。捜査に関わる主人公二人の刑事より、はみだし刑事の鳥居と派遣会社女性秘書高見沢のキャラが面白い。
☆滝口悠生『死んでいない者』
第154回芥川賞受賞作品。祖父の死に集った子や孫などの縁者たち。通夜と葬式の間のそれぞれの行動や心情が描かれる。そこには日常とは違った世界があり、それが独特の文体で表現されている。ゆったりした文体が雰囲気をだすのに効果をあげており、上手な小説だとは思うが、私には引き込まれるほどの魅力は感じなかった。
☆大輪靖宏『なぜ芭蕉は至高の俳人なのか』
芭蕉を中心に、発生から蕪村の時代まで、俳諧の歴史を解き明かす。こうした形の本は単調で面白くないのが普通だが、この本はわかりやすく楽しい。筆者の芭蕉に対する考え方にブレがないこと、例句の解説が明快であることなどがその理由だろう。俳句をやっている人にはどなたにもおすすめできる好著。題名がもうすこしやわらかいといいのに。
☆片山壹晴 随想句集『嘴野記』
ページの上段に俳句、下段に随筆を載せた随想句集。示唆に富んだ随想に読み応えあり。
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