読書三昧(27年7月)
体調は特に悪いわけではないが、癌の治療薬はだんだん効かなくなって二度と使えなくなるのが普通。いままで3種類は変わったと思うが、あと使える薬はいくつあるのだろうか。医者がはっきり言ってくれないので余計不安。
7月に読んだ本
原田マハ『モダン』
T・ハミルトン&D・コイル『シークレット・レース』
降田天『女王は帰らない』
又吉直樹『火花』
北村薫『太宰治の辞書』
藤野律子句集『風の章』
☆原田マハ『モダン』
5篇の短篇からなる作品集。中では最初の『中断された展覧会の記憶』が素晴らしい。
東北大地震と原発事故が起きた時、「ふくしま近代美術館」では『アンドリュー・ワイエスの世界』展を開催中だった。目玉は「ニューヨーク近代美術館」から借りた『クリスティーナの世界』。是非展示を続けたい日本側と早く作品を戻したいニューヨーク側。作品撤収までの一部始終や二つの美術館の館員のやりとりとその背景は、フィクションとわかっていながらもその緊迫感は感動もの。著者のキュレーター(美術学芸員)としての経験が生かされた最高の作品になっている。
この作品があまりにいいので、他の4篇は印象が薄くなった。
☆降田天『女王は帰らない』
第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
内容は多少テクニックに溺れた感じはするが、一気に読まされてしまう面白さはある。ただ私が気になったのは、主人公たちが小学4年生だということ。どこか違和感が拭えない。といっても5年生ならどうか、6年生ならいいのかと言われても判断は出来ないのだが。
☆又吉直樹『火花』
今年の芥川賞受賞作品。
先輩漫才師神谷と売れない若手漫才師徳永の心あたたまる懐かしい関係を描く。飲みながらの二人のばかばかしい会話が笑いを誘う。ところどころに出てくる作者の気取った文体に多少の違和感はあったが、読み心地は良い。
海外でも話題になっていて翻訳されるというが、ストーリーはともかく会話の部分はうまくいくのだろうか??
☆北村薫『太宰治の辞書』
小さい出版社に勤める女性が、芥川の『舞踏会』や太宰の『女生徒』の背景を調べ解決していくお話なのだが、関わって登場する人物がすべてあたたかくやさしい。文学話と登場人物のバランスが絶妙で良質の読後感が得られる。ただこの本の書名にもなっている書下ろしの三篇目「太宰治の辞書」は話題が太宰の辞書探しだけでなく、萩原朔太郎にまで及び説明が長い分だけ小説としての面白さには欠ける。
この本の最初の「花火」で知ったのだけれど、芥川龍之介の小説『ある阿呆の一生』には「火花」という章があり、同人誌へ発表する原稿を持った主人公が出て来る。とすると『火花』を書いた又吉直樹は最初から芥川賞を意識して小説を書いていたと想像できる。まあ出版社も絡んでのことだろうけど、凄すぎる・・・。
☆藤野律子句集『風の章』
ピノキオの鼻のするする春岬
みほとけの世へ蛤の水飛ばす
遠足の尾をしまひたる蜜柑山