酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

柚月裕子『孤狼の血』

2016-02-14 11:06:49 | BOOK


読んだ小説は、月末にまとめて「読書三昧」に載せているのだけど、あんまり面白いのがあったのでご紹介。

☆柚月裕子『孤狼の血』

作者が女性とは思えない骨太の警察小説である。
舞台は広島。暴力団抗争の中で、ヤクザとの癒着を噂されるはみ出し刑事・大上とその若い部下・日岡が活躍する話だが、ともかく文句なしに面白い。

登場人物は多いが巻頭に人間関係図があり、また章の前にある日岡刑事の日誌で1日の出来事がわかるようになっている。私のように読解力の鈍いものには大助かりである。そしてネタばれ出来ないが、一部消された日誌が最後に大きな意味があるとは・・・。

主人公のはみだし刑事とその部下そして飲み屋のおかみという構図は、ちょうどテレビの『相棒』と同じだが、本小説のキャラクターはずっと濃厚。大おススメ!

読書三昧(28年1月)

2016-01-31 16:51:28 | BOOK


読書三昧(28年1月)

癌の5年生存率の統計が新聞に出た。意外に生存率が高いと思ったが、それはあくまで平均で、癌の種類や見つかった時の進み具合で全然違うことがわかり少しがっかり。

1月に読んだ本
荻原浩『金魚姫』
中山七里『闘う君の唄を』
川上弘美『なめらかで熱くて甘苦しくて』
林真理子・見城徹『過剰な二人』
長谷川櫂『芭蕉の風雅―あるいは虚と実について』
伊藤式郎句集『切絵の森』
能美昌二郎句集『長州砲』

☆荻原浩『金魚姫』
仏壇・仏具会社の営業員である潤と金魚姫の物語。先が予測不可能な展開。笑えるがベースは悲しい純愛小説。

☆中山七里『闘う君の唄を』
幼稚園年少の新任先生が、モンスターペアレンツ達のクレームと闘うなかで、次第に成長していく姿が描かれる前半。ネタばれになるので書けないが、後半内容はがらっと一変する。万一前半で飽きた人も一応最後まで読んで欲しい。

☆川上弘美『なめらかで熱くて甘苦しくて』
短篇5編からなるがどれもとらえどころがない不思議な小説。わからなくなって、何度も前へ戻りながら読んだ。感覚で読まされる感じ。これも作者独特の才能なのだろう。

☆林真理子・見城徹『過剰な二人』
作家と編集者。個性的な二人が、人の生き方を自分の過去を語ることにより教えてくれる。それぞれに厳しい現場で活躍している人の話だけに説得力もある。あとがきで林真理子自身が認めているように、内容が具体的な見城徹の文章の方が圧倒的に面白い。

☆長谷川櫂『芭蕉の風雅―あるいは虚と実について』
芭蕉七部集のうち『冬の日』『猿蓑』『炭俵』の歌仙を取り上げ、芭蕉の風雅すなわち「虚に居て実をおこなふ」芭蕉の考え方をわかりやすく述べている。
連句のつながりは詠み手や捌きのイマジネーションによるものだから読み解くのは中々難しいが、長谷川櫂の解釈には無理がないように感じた。驚くのはこの手の本は過去の誰かの意見を参考にするものだが、それは一切ない。全部自分の考えで書かれているのが凄い。面白い小説を読むのと同じように先を次々読みたくなった。文句のない好著。

☆伊藤式郎句集『切絵の森』
草登り詰めたる天道虫どうする
寒満月切絵の森となりにけり
新酒酌むいい人どこかもの足らず
沈丁花むかし湯殿はほの暗し
冬紅葉散る敗者にも勝者にも

☆能美昌二郎句集『長州砲』
広告に背を貸すベンチ冬の駅
傘の子に取り囲まれて蝌蚪の国
散歩とは小さき冒険五月晴
鳥帰る空に磁石のあるごとく
晦日蕎麦布屋太兵衛は駅の中

読書三昧(27年12月)

2015-12-31 15:56:33 | BOOK


読書三昧(27年12月)
今年も終りました。病気になってから一日一日を大切に思うようになりましたが、大晦日にはまた特別の感慨があります。来年もいい年になりますように。

12月に読んだ本
木内一裕『不愉快犯』
月村了衛『影の中の影』
辻村深月『きのうの影踏み』
雫井脩介『仮面同窓会』
中野京子『怖い絵』
堀切実『現代俳句に生きる芭蕉』
増成栗人句集『遍歴』
鳥羽田重直句集『蘇州行』

☆木内一裕『不愉快犯』
法律まで味方につけて完全犯罪をもくろむミステリー作家とそれを打ち破ろうとする警察の争い。一度は作家の勝利となったのだが・・・。
なれない法律用語も出て来るので理屈っぽい部分もあるが、作家と刑事のせめぎ合いは読み応えがある。主人公である刑事二人のキャラがもう少しはっきり出れば、もっと面白くなりそう。
著者紹介を見たら、前に映画で見た『藁の盾』の作者だった。

☆月村了衛『影の中の影』
少数民族であるウイグル問題や政治や警察の隠蔽体質など社会的な題材も取り入れられてはいるが、基本的には「カーガ―(影法師)」と呼ばれる元警察官の男が。不死身のヒーローとして大活躍するお話。これがハラハラドキドキとてつもなく面白い。筋立ても、登場人物(女性ジャーナリスト・ヤクザの子分たち・ウイグル亡命者など)も丁寧に描かれていて破たんがない。安心して楽しめる大おススメ作品。

☆辻村深月『きのうの影踏み』
ホラーの味付けのある13の短篇を収録。ただ作者の日常がエッセイ風に織り込まれていたりして、本格的なホラーを期待すると物足りないかも。

☆雫井脩介『仮面同窓会』
かなり強引な筋に見えるが、一気に読まされる。ラストの意外な展開にびっくりすると共に、突然登場する兄のキャラクターが笑える。

☆中野京子『怖い絵』
西洋絵画から「怖い絵」を20点選びその怖さを解説している。見るからに怖い絵や、表面上は見えない所に怖さが隠れている絵など、種類はいろいろである。怖い理由の解説を読みながら絵の背景を知ることも出来る貴重な本である。この本ではブリューゲルの『絞首台の上のかささぎ』やラ・トゥールの『いかさま師』などが取り上げられている。好評だったようで、『怖い絵2』『怖い絵3』の出版もされているようだ。

☆堀切実『現代俳句に生きる芭蕉』
近現代俳人の俳句への考え方を取り上げながら、それらが芭蕉の考えの枠内にあることが詳細に語られる。元が俳句誌という俳句作者を対象に書かれたものだけに、わかりやすいが舌鋒するどい部分がないので物足りない面も。

☆増成栗人句集『遍歴』
青によし奈良もはづれの粥柱
大海鼠つつけば海の荒れてくる
遍歴の始まる前の花筏
きちきちの跳びたる草の匂ひけり
雀来て雀隠れにあと少し

☆鳥羽田重直句集『蘇州行』
うなづきが眠りに変はる夜学生
日中韓の三人がゐて冷奴
二丁目のはずが五丁目街薄暑
さはやかな笑みや乗せられてはならず
梅見酒梅のことなど忘れけり


読書三昧(27年11月)

2015-11-30 14:25:13 | BOOK


読書三昧(27年11月)

寒さがきびしくなってきた。ベッドでごろごろしている時間がますます長くなっている。薬の副作用で足がしびれているせいか、外へ出て歩かないとたった一日でも足が退化する感じ。頑張って外へ出なくては!

11月に読んだ本
加藤シゲアキ『傘をもたない蟻たちは』
米澤 穂信『王とサーカス 』
羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』
岩城けい『MASATO』
三谷幸喜・松野大介『三谷幸喜創作を語る』
橋睦郎『百人一句』
能村研三句集『催花の雷』


☆加藤シゲアキ『傘をもたない蟻たちは』
この作者に「ジャニーズ事務所のNEWSのメンバー」という紹介はもう不要のようだ。この作品は六篇の短篇からなるが、小説家としての才能を十分しめしている。主人公が男であったり女であったり、職業が学生だったりサラリーマンだったり作家だったり、シチュエーションはいろいろだが、それぞれの発想に意外性がありとてつもなく面白い。中で私は『Undress』や『インターセプト』のようなどんでん返しのある作品が好き。今後もベストセラー作家として大活躍しそうな予感がある。お薦め!
この作品はフジテレビ・2016年1月放送の「土ドラ」でドラマ化が決定している。

☆米澤 穂信『王とサーカス 』
非常に丁寧に書かれたという印象。女性のフリーライターがネパールで偶然国王などの王族殺害事件に出くわす。主人公・太刀洗万智は報道とはどうあるべきかを絶えず問いかけながら取材を続ける。ジャーナリストのあり方を問いかけながら、一方ミステリーとしても一級品。最後まで飽きさせない。米澤 穂信の作品は過去に『インシテミル』や『満願』を読んでいるが、今回の作品が一番面白いと思った。これもお薦め!!

☆羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』
今年の芥川賞受賞作品。死にたい死にたいと毎日言う87歳の祖父と暮らす孫・健斗。祖父の希望をかなえるために、何か出来ることはないかと考えた健斗は・・・。
老人介護の問題をとりあげているが、この小説にしめっぽさは微塵もない。弱っているようでしたたかな面も持つ祖父とドライな考えの健斗とのやりとりを、私は面白いと思ったが評価は分かれるかもしれない。

☆岩城けい『MASATO』
父親の転勤でオーストラリアの現地校の5年生に転校した男の子が小学校を卒業するまでの話。苦労しながら現地生活に馴染んでいく中で、自立していく姿は心温まるが、日本を離れられない母親との葛藤は生々しい。両親の意見の食い違いの部分はもう少し整理して短くても良かったかな。

☆三谷幸喜・松野大介『三谷幸喜創作を語る』
インタビュー形式で三谷が過去の自分の仕事(舞台・テレビ・映画)について語る。朝日新聞夕刊の連載記事「三谷幸喜のありふれた生活」と重なる部分もあるが、三谷の映画や舞台作品はほとんど見ているので、すごく興味深い。この本に書かれている作品の中で私が一番好きなのは、2007年の舞台でゴッホなど画家を題材にした『コンフィダント・絆』。

☆橋睦郎『百人一句』
短歌に「百人一首」があるなら、俳句に「百人一句」があっていいだろうという作者の発想から生まれたという。前連歌時代から近年までの百人の一句を取り上げ、句を楽しみながら俳諧の流れがわかるよう構成。全生涯をかけて俳諧・俳句に取り組んだ人達がいかに多くいたかを教えられる。

☆能村研三句集『催花の雷』
新涼や家霊棲みたる書架の奥
三脚をさす夏草の香を宥め
義士の日の妥協許さぬ会議あり
後ずさりして見る実梅あるわあるわ
木の家に木の節あまたあたたかし



読書三昧(27年10月)

2015-11-01 18:43:19 | BOOK


読書三昧(27年10月)

寒くなってきました。中々起きられません。限られた時間をベッドでごろごろしているのは、もったいないのですが体が動かないのでどうしようもありません。
今日は全日本大学駅伝で東洋大学が初優勝しました。毎年メンバーが変わるのにどの大会も上位はすごいことです。箱根も楽しみ!

10月に読んだ本
坂東眞砂子『真昼の心中』
伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
矢部 宏治・ 須田 慎太郎『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド』
諫山 創漫画『進撃の巨人3』
和田 遊句集『生きて生かされて』

☆坂東眞砂子『真昼の心中』
短篇7篇を収録。内容は「官能時代小説(言葉がちょっと古い?)」の趣。ただ江戸時代の女性が自分の生きたいように生きているのが描かれすっきりした読後感あり。

☆伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
これも短篇7篇が収録されている。伊坂幸太郎らしい奇抜な発想もあるのだが、正直あまり面白くない。中では最初の「浜田青年ホントスカ」がいいかも。

☆矢部 宏治(著), 須田 慎太郎『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド』
基地の観光ガイドとはうたっているが、憲法・安保などわかりやすく読み説いた解説書。
知らなかった沖縄問題をいろいろ教えてくれる。結論までしっかり書いてあるが、これからどうするかは私達が自分自身で考えていかなければならない。

☆諫山 創漫画『進撃の巨人3』
映画『進撃の巨人』の原作漫画本。映画は見たけど漫画を読んでいなかったので、ためしに買ってきた。漫画というより劇画の感じ。映画の巨人が漫画のイメージに近く、うまく作ってあるのがわかる。

☆和田 遊句集『生きて生かされて』
あたたかき冬なりパスタ巻きをれば
一文字を一気に書いて筆始
ひた押しにくる流氷の鼓動かな  


読書三昧(27年9月)

2015-09-30 16:06:14 | BOOK


読書三昧(27年9月)

今月は体調がいい日が多く、芝居も4本見に行った。好きなことが出来るということは、素晴らしいことだ。

9月に読んだ本
澤田瞳子『若冲』
太宰治『グッド・バイ』
柚月 裕子『ウツボカズラの甘い息』
池井戸潤『民王』
松尾芭蕉『芭蕉全句集』
長岡新一句集『青樹海』

☆澤田瞳子『若冲』
若冲が何をエネルギーにあれだけの絵を生み出したのかについて、作者の推論をとことん突き詰める。妻の自殺やその弟との積年の葛藤など若冲の心の闇が、腹違いの妹志乃の目を通して描かれる。若冲の絵が文章でいろいろ紹介され、画家仲間の丸山応挙・池大雅・与謝蕪村・谷文晁なども登場し興味をひく。
緻密な構成、馴れた文体、とても38歳という若い作者だとは思えない出来である。直木賞の有力候補になったことも納得。

☆太宰治『グッド・バイ』(再読)
ケラリーノ・サンドロヴィッチ脚本・演出の舞台「グッドバイ」の原作。芝居を見たので読みなおした。未完であるが何度読んでも面白い。

☆柚月 裕子『ウツボカズラの甘い息』
ラストは「太陽がいっぱい」の女性版といったところか。丁寧に描かれていたお話が、問題解決への流れになると、急にさくさく進んで物足りない。犯人の心の動きも説明的で深みに乏しい。前半がすごく面白いだけに惜しい。

☆池井戸潤『民王』
私は見なかったが、つい最近までやっていたテレビドラマの原作本。首相とその息子の大学生の体と中身が入れ変わったことによりおこるドタバタ。新薬認可問題など現実の政治問題も背景におくが、軽い娯楽小説として楽しめばよさそう。

☆長岡新一句集『青樹海』
来た道を帰るほかなき秋の暮
見おろせば見上げられをり秋うらら
たむろして登山の前のストレッチ


読書三昧(27年8月)

2015-08-31 17:51:50 | BOOK


読書三昧(27年8月)

薬を変えるか変えないか判断するためCT検査をした。癌は少し大きくなっていた。抗がん剤が一時、癌細胞に攻め込み優勢だったのだが、癌が反撃し今は押されている。一度押され始めると、もう抗がん剤には押し返す力はない。あとはどれだけ耐えられるか・・・。まだ少しは頑張っているので、薬は同じものを続けることになった。

8月に読んだ本
中山可穂『男役』
太宰治『女生徒』
芥川龍之介『舞踏会』『或阿呆の一生』
馳星周 『アンタッチャブル』
小手鞠るい『思春期』
加藤シゲアキ『ピンクとグレー』
岩瀬江美子句集『大合唱』

☆中山可穂『男役』
宝塚の「男役」を描いた美しい小説である。美しさが魅力であり、また物足りない部分でもある。宝塚フアンならメロメロになりそうかと思ったが、意外にもフアンからは辛口の評が目立つ。
あとがきで作者は宝塚一筋ではなく、小劇場演劇にのめりこんでいた時期があると書いている。作者は美しい世界を意図的にもっと美しく描くことで、男役の魅力と苦悩を際立たせようとしたのかもしれない。

☆太宰治『女生徒』
☆芥川龍之介『舞踏会』『或阿呆の一生』
これらは先月読んだ北村薫の『太宰治の辞書』に出てきた小説。読み合わせてみると楽しい。

☆馳星周 『アンタッチャブル』
最近はやりのパターンであるが、警察組織からはみ出した公安部所属の警視と巡査部長のコンビが主人公の小説。
本筋を追っていると、どこかで梯子をはずされるのではないかと絶えず不安がつきまとう。結局梯子をはずされたような、予想通りであったような不思議な感覚のまま終る。ただ文章の切れ味や登場人物のキャラクターが秀逸で、時間を忘れるほど面白いことは保証する。

☆小手鞠るい『思春期』
主人公の女の子が中学1年生から3年生まで成長していく過程のお話。毎日の生活の中でのとまどいや悩みが9章に分けて書かれている。難しい漢字に振り仮名が付けられているということは、同世代の女の子への生きる指針として書かれたものなのだろう。普通の小説だと思って読んだのだが、違ったみたい。娘でもいればもう少し近いものとして感じられたかも。

☆加藤シゲアキ『ピンクとグレー』
作者がジャニーズ事務所のアイドルであるNEWSのメンバーと聞いて、余り期待せずに読んだけどなかなか面白い。時期を前後させるわりには、表現が滑らかでない前半は多少まだるっこく感じたが、後半はテンポよく読める。作者がアイドルとして日常感じていることがうまく織り込まれているためか、デビュー作でも内容に無理がない。単なる友情小説に終わらせず、耽美的な匂いも感じさせるのが最大の魅力。芥川賞の又吉直樹の『火花』より好きかも。映画化も決定とのこと。

☆岩瀬江美子句集『大合唱』
風薫る若先生の診察日
飛行機雲春の山より立ち上る
モノクロに収めし八月十五日


『ピンクとグレー』

2015-08-16 21:33:47 | BOOK


『ピンクとグレー』  加藤シゲアキ著

作者がジャニーズ事務所のアイドルであるNEWSのメンバーと聞いて、余り期待せずに読んだけどなかなか面白い。

時期を前後させるという手法を使っているにしては、表現が滑らかでない前半は多少まだるっこく感じた。しかし一転して中盤以降はテンポよく読める。

作者がアイドルとして日常感じていることがうまく織り込まれているためか、デビュー作でも内容に無理がない。単なる友情小説に終わらせず耽美的な匂いも感じさせるのが最大の魅力。
芥川賞の又吉直樹の『火花』より好きかも。映画化も決定とのこと。

読書三昧(27年7月)

2015-07-31 11:23:56 | BOOK


読書三昧(27年7月)

体調は特に悪いわけではないが、癌の治療薬はだんだん効かなくなって二度と使えなくなるのが普通。いままで3種類は変わったと思うが、あと使える薬はいくつあるのだろうか。医者がはっきり言ってくれないので余計不安。

7月に読んだ本
原田マハ『モダン』
T・ハミルトン&D・コイル『シークレット・レース』
降田天『女王は帰らない』
又吉直樹『火花』
北村薫『太宰治の辞書』
藤野律子句集『風の章』

☆原田マハ『モダン』
5篇の短篇からなる作品集。中では最初の『中断された展覧会の記憶』が素晴らしい。
東北大地震と原発事故が起きた時、「ふくしま近代美術館」では『アンドリュー・ワイエスの世界』展を開催中だった。目玉は「ニューヨーク近代美術館」から借りた『クリスティーナの世界』。是非展示を続けたい日本側と早く作品を戻したいニューヨーク側。作品撤収までの一部始終や二つの美術館の館員のやりとりとその背景は、フィクションとわかっていながらもその緊迫感は感動もの。著者のキュレーター(美術学芸員)としての経験が生かされた最高の作品になっている。
この作品があまりにいいので、他の4篇は印象が薄くなった。

☆降田天『女王は帰らない』
第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
内容は多少テクニックに溺れた感じはするが、一気に読まされてしまう面白さはある。ただ私が気になったのは、主人公たちが小学4年生だということ。どこか違和感が拭えない。といっても5年生ならどうか、6年生ならいいのかと言われても判断は出来ないのだが。

☆又吉直樹『火花』
今年の芥川賞受賞作品。
先輩漫才師神谷と売れない若手漫才師徳永の心あたたまる懐かしい関係を描く。飲みながらの二人のばかばかしい会話が笑いを誘う。ところどころに出てくる作者の気取った文体に多少の違和感はあったが、読み心地は良い。
海外でも話題になっていて翻訳されるというが、ストーリーはともかく会話の部分はうまくいくのだろうか??

☆北村薫『太宰治の辞書』
小さい出版社に勤める女性が、芥川の『舞踏会』や太宰の『女生徒』の背景を調べ解決していくお話なのだが、関わって登場する人物がすべてあたたかくやさしい。文学話と登場人物のバランスが絶妙で良質の読後感が得られる。ただこの本の書名にもなっている書下ろしの三篇目「太宰治の辞書」は話題が太宰の辞書探しだけでなく、萩原朔太郎にまで及び説明が長い分だけ小説としての面白さには欠ける。
この本の最初の「花火」で知ったのだけれど、芥川龍之介の小説『ある阿呆の一生』には「火花」という章があり、同人誌へ発表する原稿を持った主人公が出て来る。とすると『火花』を書いた又吉直樹は最初から芥川賞を意識して小説を書いていたと想像できる。まあ出版社も絡んでのことだろうけど、凄すぎる・・・。

☆藤野律子句集『風の章』
ピノキオの鼻のするする春岬
みほとけの世へ蛤の水飛ばす
遠足の尾をしまひたる蜜柑山

『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』

2015-07-17 21:33:33 | BOOK


『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』   T・ハミルトン&D・コイル著

今ツール・ド・フランスが開催中である。今日が第13ステージで、全21レースの半分を過ぎたところ。

そんな時この本を読み終えたのだが、ツールを見る目が一転してしまった。それほどドーピングに関わる選手やチームそしてこの世界の暗い裏面があからさまに暴きだされる。ノンフィクションだけれど、そこらへんの小説と比べて格段に面白い。作家ダニエル・コイルと元プロ自転車選手タイラー・ハミルトンとの共著ではあるが、完成度は高い。

アメリカ人の選手ハミルトンが自転車競技を始め、徐々に力をつけ、ツール・ド・フランスでも活躍出来るところまで上り詰めるのだが、その過程で使用せざる得なくなった薬物や自分の血液の注入などがドーピング検査で見つかり、一挙に転落していく物語である。そこにツール・ド・フランスで七連覇したランス・アームストロングの裏側やプロ自転車競技界の腐敗も暴かれる。

ハミルトンが語り、コイルが文章化したのであろうが、文章の流れが良くドーピングにかかわる選手たちの心の動きが細やかに表現されている。ただ暴露的な印象を薄めるため選手やチームへの攻撃的な内容は出来るだけ抑え、ハミルトンの心の動きを中心に描いている。それが読後感の良い理由ではあるのだが、背後にはもっと生々しくどろどろした現実があることを、読者に感じさせる。




私の目の前のテレビでは昨日と同じように、ツールが淡々と展開されているのだが、全く違うレースに見えてしまうのが悲しい。