目覚めた夜明けに、身体中に水分が溜まっているのに気がつく。
指の先から胸いっぱいにそして鼻や目や額の奥まで。
胸の中には大きな穴がいくつかぽっかりと口を開けているのに、そこからは水は漏れていかない。
ただひたすら、目や鼻からポロポロと水分が溢れ出そうなその刹那に
目覚めた。
少し音を立てて呼吸をしただけで、噴き出してしまいそうな大量の液体。
少しでもこぼれたら、すべて現実だと認めて押し潰されてしまいそうだ。
重くて、苦しくて、身動きが取れない。
そんな青い朝。
一滴でも水が零れないように、息をつめてそっとそっと起き上がる。
決して何も考えないように頭を空にして、呻き続ける心をひとまず両の手で抑えつつ、顔を洗う。
冷たいミネラルウォーターを冷蔵庫から出して口に含む。
身体の中を水が落ちて行くのを感じる。
洗いざらしのTシャツと短パンに着替え、髪を一つにキュッと束ね、キャップをかぶり、シューズの紐をぎゅっと締めて、ドアを開ける。
外の空気はひんやりと冷たく、植物たちが朝の訪れを喜んでいる甘い気に満ちている。
人影のない歩道で軽く縮こまっていた身体中の腱をのばす。
伸びていく腱や筋にだけ心を置いて。
ゆっくりと走り出す。
夾竹桃の赤い花が咲きこぼれている長い塀の横を抜けると、なだらかな坂道が続き、道の表面に僅かに白い砂が混じってくる。
風の中に海の香りを感じる。
一歩づつ一歩づつ足を前に出すことだけ考えて進む。
やがて一陣の風が吹き抜けて目の前がぽっかりと開ける。
海。
波は荒い。
ごうごうと海鳴りが私を包む。
広く長く続く砂浜にはいくつか人影が見える。
犬と戯れる人、寄り添って水平線を飛ぶカモメを眺める人たち。
濡れて程よくしまっている波打ち際を走り続ける。
水平線からオレンジ色の光がさして、太陽が昇ってくる。
朝日が身体中に暖かい。
Slow and long jogging
ゆっくり、マイペースで、出来るだけ遠くに。
次第に大地を蹴るつま先に力が入ってくる。
( だめだめ、マイペースでもっとゆっくり。)
でも、少しスピードを上げて走ると、風を起こすことが出来る。
汗ばんできた脇の辺りや胸、首の後ろに、風が流れて行くのが気持ちいい。
単調な足どりのテンポが少しづつ心を整えて行く。
溜まっていた重い水分が汗になって身体から蒸発していく。
すれ違う犬に微笑みかける。
すれ違う人に「Morning!」と声を掛ける。
皆、優しい笑顔で朝の挨拶をくれる。
やがて海岸に突き出した煉瓦造りの建物が見えてくる。
行きつけの早朝からやっているカフェだ。
あそこまで、もう一走り。
スピードを上げて風を巻き起こしながら走る。
心臓がバクバクし、呼吸が苦しくなる。
広い階段を登ると、息を切らして立ち止まる。
膝に手をやり上半身を支えて荒い呼吸を整える。
汗がポタポタと顔や頭から落ちてテラスの素焼きのタイルの床に吸い込まれて行く。
振り返ってみると自分が走った足跡が長く長く砂浜に続いている。
そこに朝日がさしてキラキラと光っている。
カフェからは焼きたてのパンとコーヒーの香りが漂ってくる。
この体に染み渡る香ばしさこそ、生きる喜び。
ドアを開けて中に入ると、綺麗好きで働き者のアウレリアが
「Morning! How are you today!」
と訛りの強い英語で笑う。
( 彼女は自分の名前の発音はイタリア訛りなのに、普段喋る言葉はすっかりオージー訛りだ )
「Fine! Absolutely fine!」
と答えた時、私の中に溜まっていた、今にも噴き出しそうだった『涙』の塊が、すっかり蒸発して、カラッとクリアになっていることに気付く。
磨き込まれた木の床は歩くたびに心地よい音を立てる。
海が見えるいつもの席に座ろう。
そして、私の一日を始めよう。
・・・・以上、トマス・ピンチョン風の文体でお送りしました、
「ある日のSlow Jogger、ゴールドコースト編」でした。
(嘘です! タイトルだけトマス・ピンチョン風・・・・?)
しかしこのぐらい細かく妄想できるぐらい、世界のいろんな街ではしり、ジョギング妄想は、
ハワイ編、ローマ編、フィレンツエ編、シドニー編、香港タイハンロード編、インドアルタマントロード編、NYセントラルパーク編、パース編、パリオペラ座界隈編、モンマルトル編、コタキナバル編、etc.etc.取り揃えておりまする。
ジョギングできない日には、この妄想を引っ張り出して頭の中でひとっぱしりするだけで、結構救われたりするのです。
心に、体に、そして脳にも、ゆっくりと長く走るのがいいみたいですよ♪
後記;スロージョギングのやり方編(?)をこちらに追加いたしました。
(文中で使った画像はネットで拾ってきた画像です・・・)
指の先から胸いっぱいにそして鼻や目や額の奥まで。
胸の中には大きな穴がいくつかぽっかりと口を開けているのに、そこからは水は漏れていかない。
ただひたすら、目や鼻からポロポロと水分が溢れ出そうなその刹那に
目覚めた。
少し音を立てて呼吸をしただけで、噴き出してしまいそうな大量の液体。
少しでもこぼれたら、すべて現実だと認めて押し潰されてしまいそうだ。
重くて、苦しくて、身動きが取れない。
そんな青い朝。
一滴でも水が零れないように、息をつめてそっとそっと起き上がる。
決して何も考えないように頭を空にして、呻き続ける心をひとまず両の手で抑えつつ、顔を洗う。
冷たいミネラルウォーターを冷蔵庫から出して口に含む。
身体の中を水が落ちて行くのを感じる。
洗いざらしのTシャツと短パンに着替え、髪を一つにキュッと束ね、キャップをかぶり、シューズの紐をぎゅっと締めて、ドアを開ける。
外の空気はひんやりと冷たく、植物たちが朝の訪れを喜んでいる甘い気に満ちている。
人影のない歩道で軽く縮こまっていた身体中の腱をのばす。
伸びていく腱や筋にだけ心を置いて。
ゆっくりと走り出す。
夾竹桃の赤い花が咲きこぼれている長い塀の横を抜けると、なだらかな坂道が続き、道の表面に僅かに白い砂が混じってくる。
風の中に海の香りを感じる。
一歩づつ一歩づつ足を前に出すことだけ考えて進む。
やがて一陣の風が吹き抜けて目の前がぽっかりと開ける。
海。
波は荒い。
ごうごうと海鳴りが私を包む。
広く長く続く砂浜にはいくつか人影が見える。
犬と戯れる人、寄り添って水平線を飛ぶカモメを眺める人たち。
濡れて程よくしまっている波打ち際を走り続ける。
水平線からオレンジ色の光がさして、太陽が昇ってくる。
朝日が身体中に暖かい。
Slow and long jogging
ゆっくり、マイペースで、出来るだけ遠くに。
次第に大地を蹴るつま先に力が入ってくる。
( だめだめ、マイペースでもっとゆっくり。)
でも、少しスピードを上げて走ると、風を起こすことが出来る。
汗ばんできた脇の辺りや胸、首の後ろに、風が流れて行くのが気持ちいい。
単調な足どりのテンポが少しづつ心を整えて行く。
溜まっていた重い水分が汗になって身体から蒸発していく。
すれ違う犬に微笑みかける。
すれ違う人に「Morning!」と声を掛ける。
皆、優しい笑顔で朝の挨拶をくれる。
やがて海岸に突き出した煉瓦造りの建物が見えてくる。
行きつけの早朝からやっているカフェだ。
あそこまで、もう一走り。
スピードを上げて風を巻き起こしながら走る。
心臓がバクバクし、呼吸が苦しくなる。
広い階段を登ると、息を切らして立ち止まる。
膝に手をやり上半身を支えて荒い呼吸を整える。
汗がポタポタと顔や頭から落ちてテラスの素焼きのタイルの床に吸い込まれて行く。
振り返ってみると自分が走った足跡が長く長く砂浜に続いている。
そこに朝日がさしてキラキラと光っている。
カフェからは焼きたてのパンとコーヒーの香りが漂ってくる。
この体に染み渡る香ばしさこそ、生きる喜び。
ドアを開けて中に入ると、綺麗好きで働き者のアウレリアが
「Morning! How are you today!」
と訛りの強い英語で笑う。
( 彼女は自分の名前の発音はイタリア訛りなのに、普段喋る言葉はすっかりオージー訛りだ )
「Fine! Absolutely fine!」
と答えた時、私の中に溜まっていた、今にも噴き出しそうだった『涙』の塊が、すっかり蒸発して、カラッとクリアになっていることに気付く。
磨き込まれた木の床は歩くたびに心地よい音を立てる。
海が見えるいつもの席に座ろう。
そして、私の一日を始めよう。
・・・・以上、トマス・ピンチョン風の文体でお送りしました、
「ある日のSlow Jogger、ゴールドコースト編」でした。
(嘘です! タイトルだけトマス・ピンチョン風・・・・?)
しかしこのぐらい細かく妄想できるぐらい、世界のいろんな街ではしり、ジョギング妄想は、
ハワイ編、ローマ編、フィレンツエ編、シドニー編、香港タイハンロード編、インドアルタマントロード編、NYセントラルパーク編、パース編、パリオペラ座界隈編、モンマルトル編、コタキナバル編、etc.etc.取り揃えておりまする。
ジョギングできない日には、この妄想を引っ張り出して頭の中でひとっぱしりするだけで、結構救われたりするのです。
心に、体に、そして脳にも、ゆっくりと長く走るのがいいみたいですよ♪
後記;スロージョギングのやり方編(?)をこちらに追加いたしました。
(文中で使った画像はネットで拾ってきた画像です・・・)
なんか素敵ですね!
もっとハウツーが出てるのかと思ったら、こんなポエム~
「トマス・ピンチョン風の文体」っていうのが意味不明だけど面白かったです!
>こんにちは。
なんか素敵ですね!
もっとハウツーが出てるのかと思ったら、こんなポエム~
わははは。すみませぬ。
ハウツーも書いてみましたが、ぜんぜんハウツーとかいらないです。
ただゆっくり走るだけですし。
>「トマス・ピンチョン風の文体」っていうのが意味不明だけど面白かったです!
Thomas Pynchonはアメリカの天才作家です。
全然文体なんか似てないんですが、「Slow Learner」という短編集があって、その題のマネっこです。
ま、アラン・シリトーでもいいのですが。
もっと読みたいです。
トマス・ピンチョンは読んだことないのですが、以前『ミラーさんとピンチョンさん』という
外国のコミックを読んだことがあり、それにこのピンチョンさんというのは
トマス・ピンチョンからきてると書いてありました。
天才作家なの?
漫画からしても理解しがたい感じだったのですが・・・
>トマス・ピンチョンは知りません、妄想ですか あ! 題名に妄想編て書いてありますね、ところでアウレリアて誰ですか?
アウレリアはゴールドコースト滞在中の行きつけカフェにいた人です♪
アウレリアってユリウス・カエサルのお母さんの名前と同じですね。
妄想は以前に経験したことをもとにでっち上げてます。
友達に話すと呆れられます・・・
>jesterさんの短編、いいなあ・・・
もっと読みたいです。
あ、ありがとうございます♪
ひえ~~はずかしい。。。
>トマス・ピンチョンは読んだことないのですが、以前『ミラーさんとピンチョンさん』という
外国のコミックを読んだことがあり、それにこのピンチョンさんというのは
トマス・ピンチョンからきてると書いてありました。
天才作家なの?
漫画からしても理解しがたい感じだったのですが・・・
トマス・ピンチョンを最近読んでおります。
「天才作家」と言われてますが、難解です・・・・(汗