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20年振りの刑事裁判担当
 今年の4月から,サラ金に対する過払事件に追われた民事担当を離れて,20年振りに刑事事件を担当することになった。簡易裁判所なので略式起訴による罰金刑が多いのだが,窃盗,暴行,傷害等による公判請求(通常の起訴)も多い。窃盗罪の法定刑は懲役10年以下だったが,平成18年の刑法改正で,50万円以下の罰金刑が選択できるようになったので,被告人の身柄を拘束して公判請求された窃盗事件であっても,検察官が罰金を求刑することが少なくない。罰金刑と懲役刑との分かれ目の量刑相場が,まだよくつかめないのだが,この点はもう少し経験を積んでから書きたいと思う。
 刑事裁判官の仕事は,無罪の者を処罰しないことと,過大な刑罰をチエックすることだと考えているので,検察官が罰金刑を求刑した場合,被害者の立場に配慮して懲役刑を選択するようなことはしない。
 民事で交通事故の損害賠償請求事件をたくさん経験してきたが,その証拠として,当該交通事故の略式命令(自動車運転過失致死傷罪の刑事裁判)の記録の一部が提出されることが多かった。略式命令の「罪となるべき事実」は,起訴した検察官と略式命令を発した裁判官が当該交通事故について認定した事実を示しているものだと考えていたので,民事裁判の証拠としてもそれなりに尊重していた。無条件に略式命令の罪となるべき事実を受け入れていたものではないが,これを左右するに足りる証拠が民事裁判で提出されない限りは,略式命令の罪となるべき事実に添った認定をしていたと思う。
 しかし,自分が略式命令を担当するようになって,考えが変わった。略式命令の罪となるべき事実は,起訴検察官の事実認定であって,略式命令を発した裁判官の認定ではない,ということだ。起訴検察官の認定に疑問を抱いても,被告人に不利益な認定でなければ(すなわち,被害者にとって不利益な認定であっても),検察官の起訴事実を容認して略式命令を発しており,略式不相当(刑事訴訟法463条1項)として,正式裁判をすることはしていない。
 例えば,信号機のない見通しの悪い交差点を南から東へ右折した四輪車が,東から西へ対面進行してきた二輪車と衝突した交通事故において,検察官が四輪車運転手の過失を「徐行義務違反」と捕らえて起訴したが,自分は「四輪車がキープレフトしなかった」点が直近過失だと判断した場合,後者の過失の方が重く,罰金も多額になるから。検察官が起訴した過失のままで略式命令を発するという具合である。であるから,民事裁判では,被告人に有利な略式命令の事実認定には,引きずられないようにしもらいたいものである。
被害者参加がある地裁の刑事裁判からすると,ズレているという批判があるのだろうか?
瑞月

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