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 裁判員制度施行一周年の5月21日を期して,東京・大阪・名古屋高裁(但し,大阪は20日開催)で,裁判員裁判を担当した裁判官の意見交換会が行われた。それだけなら何と言うこともないが,画期的なのはこれが報道機関に公開される形で行われたことだ。中でも,大阪高裁管内の意見交換会は,以下の記事から見ても,「ほう,裁判官からそう言う発言が出される時代が来たか」と思わされ,この記事を読んだだけでも,裁判員制度をより充実させていきたいと改めて思わされる。
 記事中で笹野裁判官が触れておられる「付箋方式」だが,判例時報の2052号(昨年11月11日号)で「裁判員裁判とコミュニケーション研究会」が提唱しているもので,要するに裁判員に意見を大型の付箋に書いてもらい,それを評議室のホワイトボードに貼りつけてから議論を進めるというものだ。なぜそんなことをするかというと,ただ口頭で議論するだけだと,どうしても裁判員の「発言力」に差があることは否定できず,一部の裁判員同士,一部の裁判員と裁判官の議論で進展してしまいがちになる。そうなると,表向きは盛り上げっているようでも,「評議の質」が向上しない。全員の議論がホワイトボードに並べられると,裁判員も今何をどう議論しているのかわかりやすい。判例時報の当該号の16ページに「付箋方式」での量刑評議の模擬実践例の写真が載っている。東京方面でも一部の裁判官が実践しておられるようである。
 まず,人の意見を聞く前に,自分の意見を書いてもらうと言うことは,緊張している裁判員にとって頭の整理にもなり,初対面の人の前でいきなり口で意見を言わされる緊張感を和らげる側面もある。手前味噌で恐縮だが,日本裁判官ネットワークが数年前に立命館大学で行った模擬裁判では,まず裁判員の方にアンケート用紙様のものを配って意見を書いていただいてから,それを基に評議するという試みを行った。そうした工夫の延長線上にこのようなノウハウが生み出されたことは感慨深い。
 さて,大阪の裁判官がどんな小ネタをしこんだのか,機会があれば是非聴いてみたい。

 「小ネタ仕込む…裁判員和ますのに裁判官も工夫」(5月20日読売新聞より)
 施行から1年を迎えた裁判員制度を巡り、担当する刑事裁判官が感想や工夫を述べ合う意見交換会が20日、大阪高裁で開かれ、報道機関に公開された。
 「裁判官も大きく成長できる」と評価する一方で、「負担を減らすため、1事件の抽出人数を絞り込むべきだ」と見直しを求める声もあった。
 大阪、京都、大津の3地裁で裁判員裁判を担当する裁判長4人と大阪地裁の若手裁判官7人が参加した。
 この1年を振り返り、大阪地裁の中里智美裁判長(50)は「これまでの裁判に比べて手間はかかるが、必要な手間だと思う。当然と思っていたことについて、原点に立ち返ることが多い」と感想を述べた。同地裁の安永武央裁判官(39)も「裁判員との熱心な議論で、裁判官も大きな成長ができる。(従来の)裁判官裁判でついた垢(あか)が落ちる感じだ」と絶賛した。
 裁判員の緊張をほぐす工夫も披露され、若手裁判官は「和気あいあいの雰囲気をつくるため、話題になる小ネタを事前に仕込んでいる」「裁判官の顔写真付きのプロフィルカードを作って配っている」などと明かした。裁判長からも「『審理中にトイレに行きたくなったら、いつでもメモを回して』と、開廷前に声をかけるだけでも効果はある」との意見が出た。
 若手裁判官から、発言が少ない裁判員の意見をどう引き出せばいいかを尋ねられた大阪地裁の笹野明義裁判長(57)は、「裁判員全員に、付せんに意見を書いてもらい、張り出すようにしている」などと述べた。
 大阪高裁によると、管内の6地裁2支部では、制度施行から今年3月末までに、対象事件で334人が起訴され、90人に判決が言い渡された。
(くまちん)


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