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司法取引を取調べ可視化の突破口に

2007年07月25日 | Weblog
 7月25日朝日新聞朝刊に,「司法取引是か非か 捜査現場に待望論」との大きな特集が組まれている。司法取引というのは,例えば,組織犯罪などで末端の犯罪関与者が,上位の関与者のことを供述することで自らの処罰を減免してもらう(刑事免責)ため,捜査官と取り引きすることをいう。これが是認されれば,組織犯罪などで背後の大物検挙が容易になり捜査は大きく進展する。アメリカなどでは普通に行われているが,日本では許されないとする考えが強かった。しかし,最近,ゼネコンのかかわる談合事件で,最初に申告した業者を検察が立件せず,その業者の情報等を下に他の業者を起訴したケースで,司法取引・刑事免責を認めたではないかとして議論がわき起こっている。
 筆者は,以前から日本的な自白追求捜査の危険性と限界性を克服するためには,このような司法取引・刑事免責を認めるべきではないかと考えてきた。自白追求もだめ,司法取引のような代替の捜査手法もだめでは,捜査官側は納得できまい。もちろん,取引きに応じて述べた供述が,自分の処罰を免れるためにデッチあげた嘘の可能性はないか,これを慎重に見極めるシステムは必要だ。同記事によれば,秋山賢三弁護士は,①取調べ段階で弁護士を介在させ,捜査側に誘導されないようにする,②免責や減免のルールの確立,③嘘をついた場合のペナルティの確立などを司法取引導入の条件とすべきだとする。これに類した何らかの方法は必要であろう。アメリカでも刑事免責を受ける者の供述の真実性を慎重に見極める姿勢にあると聞いている。
 捜査官が自白(共犯者の関与事実を含む)を獲得するには,強圧的な方法か,何らかの取引材料を提供する代わりに自白を引き出す柔らかな方法が有効であり,実際にもこれらが利用されていると思われる。捜査官側が取調べの可視化(取調べ状況を録画するなどしてその供述が任意かつ信用できるかどうかの裏付けに用いようとする仕組み)に強く反対するのは,こうした手法が露わにされると,今の裁判実務の下では供述の任意性が疑われるからであろう。もし,取引的取調べ手法が容認されるなら,捜査官は,取調べにあたって堂々とそのような方法をとることができるようになり,少なくとも可視化を恐れる理由の一つが解消される。強圧的な方法による自白獲得が後に争われる可能性が高いとすれば,できれば取引的方法による柔らかい取調べの方が効率的でもある。しかも,真摯かつ誠実な取引を可視化しておけば,かえってその供述の真実性を裏付ける強力な証拠にさえなる。捜査官が可視化に反対する根拠はますます失われてくる。司法取引の是認は,現下の刑事司法最大の課題の一つである取調べの可視化に向けて突破口になるかもしれない。 (蕪勢)

1 コメント

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確かに (瑞祥)
2007-07-26 00:56:41
取調べの可視化への突破口になるかもしれませんが、今この問題が出てきた直接の要因は何なのでしょうか。やはり、組織的犯罪に対する新たな捜査手法の待望論とみるのが素直なのではないでしょうか。朝日新聞だけが、突然取り上げたのもちょっとびっくりしました。なぜなのでしょうか。今後、他社も取り上げるのか、その後公の場の議論としてどうなるか興味あるところです。
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