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イヌワシにアンデスコンドル……中南米で鳥類が減少 国を象徴する鳥さえ絶滅の危機

2024-03-29 | 先住民族関連

ニューヨークタイムズ 2024.03.28

アメリカ大陸の熱帯地域は、鳥類の比類なき宝庫だ。世界の1万1000種のうち36%もが、米国とメキシコの国境以南に生息している。その数は、アジアやアフリカよりも多い。

多様性にも富んでいることは、中南米諸国の国鳥を見れば分かる。細身のナンベイタゲリは、ウルグアイの鳥類のシンボル。体重が30ポンド(約13.6キロ)にもなるアンデスコンドルにいたっては、4カ国もが自国の象徴にしている。いくつかの鳥は、先住民族の文化にとって重要な存在にもなっている。かつては、国内のどこにでもいた鳥もあれば、その国の固有種である鳥もいる。

しかし、そんな多様な鳥たちに共通していることがある。生息数の減少だ。その国を代表する鳥ですら、数が減っている。

【英名Golden Eagle:学名Aquila chrysaetos、和名イヌワシ;メキシコ】

メキシコの子なら、だれもがこの物語を教わる。アステカ人(訳注=14~16世紀に現在のメキシコ中央部で栄えたアステカ帝国の人びと)がまだ遊牧していた時代のことだ。「サボテンにとまったワシがヘビを食べているのを見たら、そこに定住せよ」との神の預言があった。それに従ってテノチティトランという街を築き、首都とした。それが、のちにメキシコ市になった。

イヌワシの分布は広い。ロシアから中央アジア、欧州、南北アメリカ大陸で見ることができる(訳注=日本にも生息する)。メキシコは生息域の南限にあたる、とベラクルス大学(メキシコ・ベラクルス州)の生態学者エルネスト・ルエラス・インズンザは指摘する。硬貨やサッカーのユニホームなどに描かれているほどだが、国内での生息数は減っていると見られ、絶滅も危惧されている。

最近の推計によると、成鳥はメキシコには200羽ほどしか残っていないと見られ、より正式な全国調査が必要だとルエラスは訴える。「美しい鳥で、わが国の歴史とも深く結びついている。でも、見かけることがあまりなくなってしまった」

【英名Resplendent Quetzal:学名Pharomachrus mocinno、和名カザリキヌバネドリ(以下、ケツァール);グアテマラ】

中南米全域で見られる鳥の減少は、生息域が失われていることが大きく響いている。カリブ諸島も含めたこの地域で、森林はここ30年の間に約13%も減った。主な原因は、農業や牧畜業の発展だ。その損失の大部分はブラジルが占めているが、グアテマラだけを見ても1990年から2020年の間に森林の26%以上が消滅した。300万エーカー、もしくは125万ヘクタールもの広さにあたる。

その変化は、グアテマラの国鳥であるケツァールにも多大な影響を及ぼしている。標高の高い雲霧林(訳注=熱帯・亜熱帯の山地で、霧が多く、湿度の高いところに発達する常緑樹林)で繁殖し、標高の低い森林を主なエサ場としているからだ。

玉虫色に輝くケツァールの緑の羽根は、ヘビの頭をしたアステカとマヤの神ケツァルコアトル(訳注=人類にトウモロコシ栽培を伝えたとされる豊饒〈ほうじょう〉、太陽、天空の神)を飾り、その昔は貨幣の代わりに使われもした。現代のグアテマラの通貨も、ケツァールと呼ばれている。

しかし、ケツァールの生息に必要な条件とアボカド栽培への依存は両立が難しく、気候変動や森林伐採の影響を受けやすくしている。絶滅危惧種のレッドリストを設けている「国際自然保護連合」(訳注=本部・スイス)は、ケツァールを準絶滅危惧種(訳注=生息条件の変化によっては絶滅危惧種に移行する可能性がある)に分類した。

【英名Andean Condor:学名Vultur gryphus、和名アンデスコンドル;ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル】

世界最大級の飛べる鳥アンデスコンドル。中南米4カ国が国鳥としている=Cornell Lab of Ornithology/Macaulay Library via The New York Times/©The New York Times

世界のほとんどの地域で、アンデスコンドルはペルーなど中央アンデスの少数言語であるケチュア語の「クントゥル」という名で知られている。飛べる鳥としては最も大きな種の一つで、翼幅は10フィート(3メートル余)、体重は最大で33ポンド(15キロ弱)にもなる。

ボリビアとチリが主な生息地だが、全体の数がそもそも少なく、コロンビアとエクアドルではほとんど見かけられなくなった。「アンデスコンドル財団(Andean Condor Foundation)」の2015年の調査では、エクアドルにいる成鳥は100羽ほどにすぎないと推定されている。

アンデスコンドルは魂を天国に運ぶと信じられるなど、一部の先住民の文化では重要な役割を担う。にもかかわらず、狩猟の対象にされたり、毒物をしかけられたりしている。家畜のことを心配する農民によることが多い。たいていは野犬と競って腐肉をあさっているが、ときには牛の赤ちゃんを殺すこともあるからだ。

「これは、地域の集落の近くにすむ猛禽(もうきん)類に共通する大きな問題だ」。鳥類の保護を目指す国際環境NGO「バードライフ・インターナショナル」(訳注=本部・英国)のエクアドルの保護担当者エリアナ・モンテネグロは、こう語る。

イヌワシやアンデスコンドル、あるいはパナマのオウギワシ(英名harpy eagle、学術名Harpia harpyja)のような猛禽(もうきん)類は、恐れを抱かせるその姿と大きさからカリスマ的な国鳥となっているが、逆に人間の迫害を招くこともある。

【英名Southern Lapwing:学名Vanellus chilensis、和名ナンベイタゲリ;ウルグアイ】

【英名Rufous Hornero:学名Furnarius rufus、和名セアカカマドドリ;アルゼンチン】

ナンベイタゲリもセアカカマドドリも、草原や牧草地を好む。その意味で、森林が農園や牧場に開拓されることの恩恵を受けてきた。

いずれもよく見かける鳥だが、自然保護活動への支援を集める役割も果たしてくれている、とコロンビアのハベリアナ大学の保全生物学者ルイス・ミゲル・レンヒフォは説明する。

ほとんどのアルゼンチン人は国鳥のセアカカマドドリを、首都ブエノスアイレスの公園でさえ容易に見つけることができる。その名の通り、泥を使ってかまどのような形の巣を枝の上に作るこの鳥は、「見る人を面白がらせてくれる」とレンヒフォ。「それが、鳥と人間を結びつけてくれる」

【英名Scarlet Macaw:学名Ara macao、和名コンゴウインコ;ホンジュラス】

中南米には多くの美しい鳥がおり、ペットの世界市場を満たそうとする密猟が大きな問題になっている。コンゴウインコも例外ではない。

この鳥は、地上と天国の間を行き来できる、と古代マヤ人は信じていた。色彩豊かなその羽根は、古代のマヤとアステカでは支配層の飾りにもなっていた。美しい羽毛だけではない。飼育になじみ、人の言葉をまねるのがうまいことがペットとしての人気を高め、3000ドル以上で取引されることもある。

中米の多くの地域で、その個体数が減っている。ホンジュラスでは絶滅の危機にある。近年は森林の保護活動が効果をあげ、ある程度の改善も見られるようになった。例えば、観光と自然保護を結びつけた鳥の公園「マコー・マウンテン」が、この国の西部にある。最東端のモスキーティア地方では、以前は狩猟をしていた人たちを有給の森の管理人として雇うようになった。

しかし、その効果はまだ微々たるものだ。

問:では、そんなシンボルとしての存在が、鳥類の保護活動を活発にしてくれるだろうか。

答:まず、生息数の推移を把握するには、長期にわたるデータの収集が欠かせない。それに、保護活動が成果をあげるには、何十年もかかることがある。

しかも、「生物多様性が最も豊かな国の多くでは、必要な人的・物的資源などを確保できないできた」と米コーネル大学鳥類学研究所に付属する鳥類個体群研究センターの共同所長ビビアナ・ルイス・グティエレスは保護の難しさを語る。

さらに、一つの国で特定の種の個体数が減っても、地球規模の影響が見られない限り、国際的な援助資金は集まりにくい。

それでも、イヌワシについて語ったメキシコ・ベラクルス大学のルエラスらの研究者は、ある鳥類が特定の地域で減ってしまうことが住民の関心を呼び起こし、観察活動への参加を促したり、調査や保護活動への支援に結びついたりすることを期待する。それが国鳥なら、なおさらのことではないだろうか。

「一つの国のシンボルともなれば、みんなが手を携えてくれるのではないか」とルエラスはいった。(抄訳、敬称略)

(Elaine Chen)©2024 The New York Times

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https://globe.asahi.com/article/15209404

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