エスクァイア5/3(金) 22:40配信
このストリーミングサービスに初のオスカーをもたらした『ローマ』を始め、時間を割いて観る価値のある作品の数々を紹介します。
映画やテレビ番組の話題の大きさや視聴者数、賞での実績を基準に支配的な文化を判断するならば、現代社会を席巻しているのはNetflixです。
この巨大ストリーミングサービスは、2019年だけでオリジナルプログラムに150億ポンド(約2兆2000億円)を費やす見込みです。それは高額のギャラで大物俳優たちを引きつけているだけでなく、作品づくりにおいて従来の映画スタジオとは比較にならない裁量を監督たちに与えています。
Netflixと言えば、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』、『ナルコス』といった先駆的なオリジナルドラマシリーズの素晴らしい品質が高く評価されてきましたが、オリジナル映画については長年これらに見合うレベルに引き上げるための試行錯誤が繰り返されてきました。しかし近年のNetflix映画は、ゴールデングローブ賞などの映画賞でも頭角を現しており、今年は複数作品が映画館でも公開される予定となっています。
今回は、そんなNetflix映画の中から見逃せない10本の作品を紹介いたします。
『ROMA ローマ』
アルフォンソ・キュアロン監督は2014年、美しい宇宙ドラマ『ゼロ・グラビティ』でメキシコ人監督として初のアカデミー監督賞に輝きました。あれから4年、キュアロン監督はメキシコシティで働く先住民の家政婦を描いたこのモノクロ映画で再びこの賞を受賞。
今回は待望の作品賞受賞も有力視されていました(結果は『グリーンブック』に敗れました)。
キュアロン監督はこの物語に命を吹き込むために、無名の俳優たちを自らキャスティング。その中には、主役のクレオとして驚くべきデビューをはたしたヤリッツァ・アパリシオも含まれています。
濡れた床に頭上の飛行機が反射するシーン、映像が家具店の中から窓の外の暴動へと移り変わるシーン、犬のフンを本当に美しく捉えたシーンまで、この映画には多くの記憶に残るシーンや衝撃的な瞬間があります。
『オクジャ/okja』
『オクジャ/okja』には、人口過剰の危機やのために動物の飼育することへの倫理的問題、強欲な企業、権力者に真実を言う子どもの無邪気な力といったテーマがあります。
しかし基本的には、カバにも豚にも見える動物の友だち「オクジャ」を愛する女の子の物語です。
『オクジャ/okja』はジェイク・ギレンホールやティルダ・スウィントン、ポール・ダノの素晴らしい演技が光る気持ちのいい映画です。
また、観た人に罪悪感をもたらす作品でもありますが、これも悪いことではありません。
『バスターのバラード』
この6章からなるアンソロジー作品は、もともとミニシリーズとしてのリリースが意図されていたもので、米国の西部開拓時代の様々なストーリーを2時間の映画にまとめたものです。この映画は複数の映画賞を受賞しており、特に優れた脚本が評価されています。
章ごとに作品のトーンが突然変わることもあり、コーエン兄弟の頭の中をのぞくという意味で楽しめる1本と言えるでしょう。
暴力的な描写も満載であり、タランティーノ作品や『ゲーム・オブ・スローンズ』のように登場人物の誰が死んでもおかしくないという映画です。
『早とちりの娘』のゾーイ・カザン、主人公のバスター・スクラッグスを演じるティム・ブレイク・ネルソンは、実に素晴らしい演技を見せてくれました。
『マイヤーウィッツ家の人々』
「アダム・サンドラーのオスカー争い」など、想像もつかないかもしれません。
ですがノア・バームバック監督(『フランシス・ハ』、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』)のこの映画がカンヌ映画祭でスタンディングオベーションを集めると、実際にそんな見出しが世間を賑わせました。
サンドラー演じるダニー・マイヤーウィッツは、腹違いの弟のマシュー(ベン・スティラー)とともに、芸術家の父であるハロルド・マイヤーウィッツ(ダスティン・ホフマン)に振り回される人生を送ってきました。
そんな家族が再び実家に集まることになり、ハロルドの回顧展に向けて驚くほど緊迫した家族ドラマが展開されます。
『マッドバウンド 哀しき友情』
ミシシッピデルタのある土地が、2つの家族を良くも悪くも結びつけます。彼らは人種や階級による隔たりがあるものの、いずれも苦労する家族により良い生活をもたらしたいという一心で、同じ土地で共に働くことになります。
それぞれの家族の男が一人ずつ戦争に従軍し、2人は心に傷を負って返ってきます。しかし、彼らは戦争によってケリがついたかに思えた問題に、再び直面することになるのでした…
この映画はアカデミー賞において、1つの歴史をつくりました。撮影監督のレイチェル・モリソンは2018年、女性として初めてアカデミー撮影賞にノミネートされました。
また、ディー・リース監督という新たな才能、メアリー・J・ブライジやキャリー・マリガン、ギャレット・ヘドランドの素晴らしい演技も注目に値します。
『タルーラ ~彼女たちの事情~』
『JUNO/ジュノ』では際立った演技を見せてくれたエレン・ペイジですが、アリソン・ジャネイとの3度目の共演をはたしたこの映画での役柄も、これに匹敵する素晴らしいものでした。
しかし、今回の彼女が抱くのは自らの赤ちゃんではありません。彼女が演じたのは、育児放棄した母親から赤ちゃんをさらうホームレスの流れ者です。
一方、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』では恐ろしい母親の役でアカデミー助演女優賞に輝いていたジャネイでしたが、今回演じた母親はこのときとは似ても似つかないキャラクターでした。
「赤ちゃんをさらう」という決断は、最初こそ狂気の沙汰にも思えますが…。
『タルーラ ~彼女たちの事情~』は、この状況でのモラルに関する問題を巧妙に提起しています。また、シャーリーズ・セロンが出演した2018年の映画『タリーと私の秘密の時間』と同じように、母親に関するタブーとも言える側面に切り込んだ新たなタイプの興味深い映画でもあります。
『ジェラルドのゲーム』
スティーブン・キングは原作『ジェラルドのゲーム』の中で、あるシンプルな問題を提起しました。それは「人里離れた湖畔の別荘に夫婦で滞在し、アブノーマルなプレイの一環としてベッドに手錠で繋がれていたとき、突然夫が死んでしまったらどうなるか?」というものです。
こうして妻のジェシー(カーラ・グギノ)は、「自由になるために手首を切るべきか」というジレンマに直面します。実際に長時間ベッドにつながれ、精神が錯乱したかのようなグギノの演技は印象的です。
この映画は、現実と非現実の境界が曖昧になることでさらに面白くなっていきます。
というのも、ストーリーが進むにつれて彼女は夫や昔の記憶が入り混じった幻覚を見るようになり、この幻覚と現実がごちゃまぜになっていくのです。
『プライベート・ライフ』
キャスリン・ハーンとポール・ジアマッティが演じるクールなブルックリンのカップルは、子どもを作るにはもう手遅れではないかと心配しています。
2人は肉体的にも精神的にも消耗する体外受精や養子縁組にも取り組みますが、性行為中や前後、病院の待合室でも口論が絶えません。
幸いにもまだ若い2人の姪っ子が現金とニューヨークのアパートへの居候と引き換えに卵子提供を申し出ますが、彼女の両親はこの突飛な考えには賛成しません。
子づくりのためにあれこれ試みる2人の姿は、どこかユーモラス。そして物語は、切なく記憶に残るエンディングを迎えます。
『ビースト・オブ・ノー・ネーション』
キャリー・ジョージ・フクナガ(『トゥルー・ディテクティブ』、「007」最新作)の監督としての才能と、イドリス・エルバの俳優としての才能、さらにNetflixの豊富な資金力が絡み合って生まれたのが『ビースト・オブ・ノー・ネーション』です。
ナイジェリア系アメリカ人の作家であるウゾディンマ・イウェアラが、2005年に執筆した原作をベース。内容は西アフリカの内戦を生き延びる少年兵を描いたもので、その悪夢のようなスタイルで『地獄の黙示録』との類似点も指摘されています。
エルバは、冷血ながら同情の余地もあるパワフルな司令官を熱演。
9歳にして映画デビューをはたしたエイブラハム・アタは、戦争で失われる無邪気さを強烈に印象づける少年兵を演じました。
『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』
「ペルソールの新作なの?」と、登場人物の1人がジェイク・ギレンホール(検眼技師が支給した遮光眼鏡をしています)にたずねる場面は、『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』で描かれるロサンゼルスのアートシーンの日常風景です。
ここは新作インスタレーションがヒットを飛ばし、「インスタ映えするためなら、ギャラリーで死人が出てもおかまいなし」の世界感で展開していきます。
この映画のストーリーは、高慢な美術評論家のモーフ・ヴァンデバルト(ジェイク・ギレンホール)とともに、彼の友人であり恋人でもあるジョセフィーナ(ゾウイ・アシュトン)の二人を軸に展開していきます。
ある日ジョセフィーナは、亡くなった隣人の家で奇妙なアートを発見します。そこから物語は走り出します。
彼女は上司(レネ・ルッソ)からこのアートを売るよう圧力をかけられますが、怨念が宿ったこの作品たちがアート界の悪党の面々(トニ・コレットやトム・スターリッジのような)を身の毛もよだつクリエイティブな方法で殺し始める…というちょっとえぐい物語です。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190503-00010006-esquire-movi