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鉱物の部屋へのいざない

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貫入水晶

2014-12-21 11:29:55 | 日記・エッセイ・コラム
今日は「貫入水晶」です。久々に石そのものの話題です。過去にインクルージョンに関する事は何度か書いたと思いますが、「貫入水晶」は初めてだと思います。

先日、ある問屋さんの出張販売がありました。原石が少なかったものの、持ってこられた中から興味深いものを見つけ、それを仕入れました。それが下の写真です。




これは水晶が川擦れで礫になった転石(ローリングストーン)の一面を磨いたものです。非常に透明感があり、その中には水中の景色のような小宇宙的な別世界があるようで気に入りました。そして、さらに面白い事にその中に小さな水晶が入っておりました。これは水晶in水晶、別名「貫入水晶」と言って良いものだと思います。

「貫入水晶」は水晶の中に別の水晶が貫入して入っているもので、中に入っている元の水晶を別の新しい水晶が飲み込んで成長したものだろうと思います。水晶のインクルージョンには水入りや黄鉄鉱入りなど面白いものが多いのですが、それらの中でも特にユニークものが「貫入水晶」だと思います。なぜ、元々あった水晶を利用しないで再成長しなかったのか?その成因は謎です。水晶には成長だけではなく成長干渉や溶解や再成長など様々な過去があります。今回の「貫入水晶」には、さらに転石となり、人の手によってカットされその一面を磨かれたという歴史があります。また、外国から輸入され縁あって「石の華」に来ました。そういう意味で、複層した時間を持ち合わせており、見た目以上に魅力的に思います。

この水晶を今日のブログの話題にしようと思った時に、店にあったもうひとつの「貫入水晶」の事を思い出しました。それが下の写真です。





この「貫入水晶」が面白いのは、細長い両錐水晶を横に完全に飲み込んでおり、飲み込んでいる水晶そのものも山入り(ファントム)水晶となっているという事です。そこには珪酸分に富んだ熱水による幾度かの成長、中断、再成長を繰り返していた歴史をしっかり刻んでいるのです。その過去には中に入っている元の両錐水晶を取り込んだ瞬間があったのです。それは如何にして?謎に満ちていると思います。

今回は水晶の中に入っている水晶でした。何かの中に何かが入っている。なぜか?その入れ子構造のようなものに魅かれます。思わず、澁澤龍彦さんの「胡桃の中の世界」というエッセイ集を思い出してしまいます。私は「石の夢」や「プラトン立体」等々、その結晶志向の系譜をたどるエッセイの数々を愛読しました。

思えば、母親の子宮に入っている赤ちゃんも同じようなものです。水晶などの鉱物結晶も地球の中の子宮とも言える晶洞内で結晶成長します。何かの中に何かが入っているという現象は視点を広げれば森羅万象に共通している現象だと思います。例えば、地球の中にはマントルや核が入っています。地上に立っていると言う事は地球の大気の中に入っていると言えます。地球そのものも太陽系という中に入っています。その太陽系も銀河系という中に入っています。もちろん、銀河系は宇宙の中に入っています。さらにこの3次元の世界はもっと高次元の世界の中に入っているようです。

先日、近くの映画館で「インターステラー」(クリストファー・ノーラン監督 2014年 アメリカ)というSF映画を見て来ました。その映画は非常に興味深い内容で、地球滅亡に際し、ワームホールを通り抜けて、別の銀河に人類の新天地を求める、という内容でしたが、重力やブラックホールや多次元宇宙をSF映画的な表現で描いておりました。特に相対論における「双子のパラドックス」を「親子のパラドックス」に置き換えるストーリー展開には驚きました。そこには多層的な時間があり、映画的な表現の中で多次元世界を垣間見る事が出来たと思います。

時間の中にまた別の時間があるのです。

そのような時間をテーマとした映画に同じ監督の「インセプション」(クリストファー・ノーラン監督
2010年 アメリカ)があります。この映画の場合は、夢の中の夢の中の夢、というような複層化した夢の中のそれぞれの時間が表現されておりました。そこには石の中の石と同じように夢の中の夢、時間の中の時間、というような入れ子構造があります。このような複雑な映画は一度見ただけでは難解だと思います。

「インターステラー」も「インセプション」も何度か見なければならないのかも知れません。両者には過去の名作を思い出させるシーンが幾つもありますので、複数回見る価値があると思います。(私は「インセプション」に出てくる海辺にそびえ立つ高層ビル群の廃墟のシーンはDVDで何度も見ました。その柱状節理の崖を思わせる巨大ビルが崩落する氷河のように崩れていくシーンは脳裏に刻まれました。「インターステラー」でも別惑星で巨大な津波が襲ってくるシーンがあり、もう一度見たいと思いました。)

面白い事に両者の映画のタイトルは「イン」(IN)で始まっています。INは「何々の中に」という意味なので妙に納得できます。

今日は「貫入水晶」を元にINという意味について考えてみました。


胡桃の中の世界 (河出文庫)
クリエーター情報なし
河出書房新社


コメント
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