第35話「頭でっかちの殺人」はこちら。
タイトルを直訳すればDeath in the Clouds。これ、「雲をつかむ死」というクリスティの作品のタイトルでもあります。読んでないけど。
「矛盾だらけの死体」「間違えられた男」につづき、犯人が右往左往するさまを楽しむ回。舞台は完全な密室である国際線の旅客機。乗務員や乗客からは警察の人間だと思われ、警察からは乗務員だと思われる男。何度も絶体絶命の窮地に陥り、しかしゼーゼーいいながらその美術研究家はなんとかしのいでゆく。彼がもっとも恐れたのは、愛人の事故死そのものよりも、妻に愛人の存在が知られることだった……。
犯人役は玉置浩二。かつて安全地帯で人気が沸騰したころ、東宝は「プルシアンブルーの肖像」という恐怖映画の主演に彼を抜擢した(製作費を出したのが安全地帯が所属していたキティだったからだと思う。いまどき歌い手を起用して歌謡映画かよ、と馬鹿にしていたが)、その後彼は「キツイ奴ら」(TBS)で達者な演技を見せるなど、けっこう器用な人だったのである。まあ、石原真理子との復縁とかDVとか重婚とか、どうも実生活は不器用みたいですけどね。
今回、古畑は寝てばかり。代わりに活躍するのが西園寺だ。稲川素子事務所所属のでかい外人タレントたちをかいくぐって小柄な石井が駆け回る。追いつめられる玉置は、エコノミーとファーストクラスを往復し、そのたびにコウモリのように態度を変えなければならない。三谷幸喜お得意の「なりすまし」パターン。舞台でやっても大うけだろう。
しかし最大の笑いはやはり古畑がとる。視聴者に向かって“お手紙”を紹介するのだ。
「古畑はよくプライベートで事件に遭遇するがあまりにもリアリティーが無い!いくらドラマの中の刑事とはいえ、何でもありというのはいかがなものか……えー……何でもありなんです。」
もちろんこの手紙は三谷の創作。それを言っちゃあミステリの大半は成立しないもの。
第37話「最後の事件」につづく。