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【海辺のカフカ】
福田:村上春樹がとんでもないのは、「家族」というのを近親相姦を通して性的にしか見れないところですね。村上春樹の家族のリアリティってたぶんそこにしかないんでしょう。だから今まで、家族関係ってほとんど書いてこなかったでしょ。(略)村上春樹のオヤジっていうと……
坪内:京大の法学部を出て、戦争で中国に行ってるんだよね。それで村上春樹がインタビューに答えて言うには「わたしの父親はほとんど戦争に行ったことを語りたがらなかった。一度あるとき、食事中に『俺は中国でひどいものを見た。おまえには話せないけど、中国でひどいものを見た……』と言ったことがあったが、しかし私にはそのわずかな言葉ですべてわかった感じがする」というようなことを言ってて。「父親は生涯中国料理を食べようとしなかったし、私も、だから中国料理を食べたことはなかった……」と。
福田:村上春樹は両親のことに触れられるのをすごいいやがるんですよね。これまでもそれで揉めたことがある。
……「ねじまき鳥クロニクル」において、ほとんど唐突といえる形でノモンハンが物語をゆすぶったのは、こんな背景があったのだろうか。
【午後2時に焼酎を飲みながら】
坪内:昔はさ、日本のプロ野球がスポーツの中心で、そうすると夜9時か10時前に試合が終わって、それ以降の夜のニュースで結果を見て、翌日の朝刊で活字的に結果を確認して……という流れがあった、でも、メジャーリーグは時差の関係で、昼のニュースで結果が分かって、夕刊で確認でしょ。それによって、なんていうか、一日の中でスポーツ情報をどう取り入れていくか、というサイクルが完全に壊れたよね、スポーツニュースを受け付ける体内時計が常に時差ボケ状態というかさ。
福田:サッカーのコンフェデレーションカップのニュースなんかは、朝イチでしたからね。
……完全に同意する。朝のニュースはサラリーマン向けにやけにハイテンションなものだから、かえってメジャーリーグの報道はスポーツの祝祭性を削いでしまっている。もっとも、夜のニュースも次第にその影響を受けつつあるのが哀しい。次号もつづきます。
画像は連合赤軍の非政治性を描いた「一九七二」。保守派の側からの苦い思い。