事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

White Collar Exemption PART1

2008-10-02 | 事務職員部報

Abesinnzou 07年1月24日付事務職員部報より。

<残業代ゼロ制>安倍首相が国会提出断念を明らかに

07年1月16日20時40分配信 毎日新聞
 安倍晋三首相は16日、残業の概念をなくす「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を導入する労働基準法改正案について「働く人たち、国民の理解が不可欠だ。今の段階では理解を得られていない」と述べ、25日召集の通常国会への提出を断念することを明らかにした。首相官邸で記者団に語った。
 首相は11日には記者団に「私の内閣では、仕事と生活のバランスを見直していこうと考えていく」と話し、提出を目指す考えを示していた。しかし、同法案をめぐっては「残業代がなくなる」「長時間労働を助長する」など、労働側から批判が噴出し、民主党は導入に徹底抗戦する構えを見せている。
 与党内でも、4月の統一地方選や7月の参院選に悪影響を与えかねないとの懸念や、参院選前の通常国会は会期延長が難しく、提出しても成立が困難なことから慎重論が強まり、提出見送りで最終調整していた。

……ようやく、こんな決着。年初から毎日のように「(国会に)提出する」「いや、しない」と綱引きがあり(演じたのは官邸、厚生労働省、与野党、労働団体)、どうなることやらと思ったらこの始末でした。

 このホワイトカラー・エグゼンプション(以下WE)が『残業代ゼロ制』と受け取られた時点で負けは確定ということでしょうか。しかし国会に提出したかった勢力はこんな内容で“勝つ”自信があったということ。思えばなめられたものです。
 事務職員部報で、今号からWEについて大特集したいと考えています。なぜなら

・県教組のなかで、教員は最初からエグゼンプト(除外)されていることから、事務職員と栄養職員だけの課題であること。

・今回は参院選前だから引っ込めたとしても、名前を変えるか何かして再度提案されてくることが確実だから。

・残業手当の問題だけがピックアップされているけれど、他に検討すべき問題がたくさん含まれていること。

そして
・WEの内容が、「希望の国」「美しい国」日本の弱点を露骨にさらけ出しているため。

……などです。何より、わたしたちにとってまったく他人事ではない課題だということを理解してください。

 さて、それではWEとは何だったのでしょうか。日本語に訳せば「自律的労働時間制度」。いつまでも横文字であったことでお分かりのようにアメリカで生まれた労働法制です。労働基準法に定められている一日8時間、週40時間の労働時間規制を適用しないということ。いつ、どのように働くかという自由度が高まり、働いた【時間】ではなく仕事の【成果】で賃金を決めようというわけです。本家のアメリカには労働時間を制限する法律がなく、労働時間が週40時間を超えたら1.5倍の割増賃金を払うという条項があるだけです。この条項を除外するのがWE。管理職であったり、専門職であることが必要条件なので、エグゼンプトされるとむしろ「オレもここまで来たか」とプライドがくすぐられる傾向があるとか(※)。

 日本版WEは発想からして違います。誰よりもこの制度を推進したがっている財界が、なぜWEを必要としたかというと……
【以下次号】

※最初は名誉であったアメリカのWEも、次第に適用範囲が広がり、今はそんなに喜ばれてもいないらしい。

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「さよなら妖精」 米澤穂信著 創元推理文庫

2008-10-02 | 事務職員部報

48845103  ライト(軽い)ノベルが盛りあがっている。読者として十代を想定した、主に恋愛やファンタジーを中心にしたこのジャンルは、小野(十二国記!)不由美、桐野夏生、村山由佳などの人気作家を輩出している。若手で期待できるのが米澤穂信。「こんなヤツが主人公でいいのか?」と思うぐらい覇気のない高校生(目標が小市民になることだったりする)たちの物語が多い。わたし好み。

 しかし「さよなら妖精」は、最後にちょっと驚くほどの純愛熱血青春小説に変貌する。テーマはユーゴスラビア紛争。決して軽いだけの作品ではない。覚悟して読んで。

07年1月16日付事務職員部報「希望の国」より。

……まもなく「インシテミル」などを特集しますのでお楽しみに。いやぁ米澤はいい。

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「マンハッタン・オプ」矢作俊彦著 ソフトバンク文庫

2008-10-02 | ミステリ

M0346759501 スタンダードナンバーのタイトルを借り、過剰なまでのハードボイルドタッチで、貧乏で、タフで、心優しい私立探偵を描く傑作短編集。1980年から83年まで、FM東京(Tokyo FMではなく)で日下武史が独白体で語った伝説のプログラムが、ソフトバンクによって二度目の復刊。やはり、お好きな方は多かったのだ。ほとんどギャグではないかと思われるような華麗なレトリックが、かろうじてハードボイルドの側にふみとどまっているのは矢作俊彦の芸というものだ。こんな感じである……

たしかに、きれいなオフィスとは言い難かった。背広の生地で信頼を計るような客は、まず坐らぬうちに帰ってしまうだろう。
秘書もいない。テレックスもない。ファイル・ケースは錆びている。
取り柄といえば、東と南に窓があり、陽あたりがおそろしくいい上、そこから、数十年前にキング・コングが登ったビルと、つい最近キング・コングが登ったビル、新旧ふたつがいっぺんに見えることくらいだ。
~OH,MY PAPA~

海が揺れている。正午の陽が揺れている。その向こうにマンハッタンが見える。水平線にけぶるマンハッタンは、大砲のない軍艦だ。皺くちゃの銀紙みたいな水面(みなも)でそのすべてが揺れている。
~ANGEL EYES~

女神だって女だ。美しい女が、ベッド以外の場所で、天国の門を開けてくれるだろうか?
~I CAN'T GET STARTED~

アスファルトを往く足音が、メジャー・セブンスに変わった。空は高く、どこまでも遠く、マンハッタンの背丈も、さすがにその天辺には届いていなかった。
ユニオン・スクウェアに散りはじめた木の葉の上では、リスが冬に備え、この街ではめったにおめにかかれない地道な努力という奴をくり返していたが、生まれがよすぎるばっかりに、その日暮らしをやめられない私立探偵の目には、どう考えてもあてこすりとしか映らなかった。
~IN-HIGH~

「私の人生は結局復讐だったわ」
「誰への?」と聞いて、私は次の言葉を呑んだ。
「誰にでも」と彼女は答えた。
「ひとつの愛に裏切られたって理由だけで、女は世界中に復讐する権利を手に入れるのよ」
~All THE THINGS YOU ARE~

午後になって、雨は止んでいた。家々の屋根に乗っかった無数の給水塔が、淡い陽にちかちか輝いていた。三角帽子を被った小人たちが白雪姫に一目会おうと世界中から集まってきたみたいだった。それなら、その向こうに屹立しているエンパイア・ステート・ビルが、当のお姫さまというわけだ。しかし、それはあまりにも冷たく、高く、頼りなく、毒リンゴを売りに来た婆さんの方が相応しい。
東の方で雲が割れ、光がハドスン河に差し込んでいる。
小人たちが踊る。リンゴ売りの婆さんが揺れる。
~LEFT ALONE~

……ため息が出る。この芸に惹かれて、光文社文庫→角川文庫→ソフトバンク文庫と姿を変えるたびに購入する羽目になった……単に物持ちが悪いだけ?

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